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【対談】コベルコ建機がジザイエに出資した理由<前編>

ジザイエにゆかりのある方々をお招きして、今だから明かせるエピソードや想い、これからへの展望を語り尽していただく対談シリーズ。今回は、建設機械の製造・販売をおこなうコベルコ建機株式会社 取締役 常務執行役員の細見浩之氏と、株式会社ジザイエ代表取締役の中川純希による対談です。

【プロフィール 】
コベルコ建機株式会社 取締役 常務執行役員 企画本部長 細見浩之(ほそみ・ひろゆき)
1988年4月株式会社神戸製鋼所入社。1999年10月のコベルコ建機設立とともに同社へ転籍。同社のアメリカ子会社出向、インド子会社での取締役副社長を歴任し、2016年4月に企画本部企画管理部長として同社に復帰。2017年4月執行役員、2018年4月常務執行役員 企画本部長、2020年6月より現職。

【プロフィール 】
株式会社ジザイエ 代表取締役CEO 中川純希(なかがわ・じゅんき)
東京大学 先端科学技術研究センター 身体情報学分野アドバイザー
東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。大学院在学中に米ワシントン大学(Center for Sensorimotor Neural Engineering)へ留学し、同大学でもサービスロボティクスを中心とした研究に従事。
リクルートホールディングスに入社後、リクルートグループ全体の新規事業開発を担う部署(Media Technology Lab)で、複数プロジェクトの立ち上げに従事。リクルートホールディングス退社後は、CtoCのスマホアプリを開発/運営する会社を共同創業し、CFO兼マーケティング責任者として、創業時の資金調達を推進、軌道に乗せたタイミングで退任。
その後、JST ERATO 稲見自在化身体プロジェクトに研究推進主任として参画し、産学連携・知財管理や社会実装・アウトリーチを管掌。『自在化身体論』を監督出版。2022年11月に株式会社ジザイエを共同創業。


ジザイエ 中川CEO(以下、中川):
まず最初に、最近のコベルコ建機さんの取り組みについてお伺いしたいと思います。

コベルコ建機 細見取締役 常務執行役員(以下、細見):
いままで我々が「モノ売り」しかやってこなかったのに対して、世の中の変化にともなって「コト売り」もやっていかなければいけないことが、最近の大きな柱ですね。「モノ」だけじゃなくて「コト」でも社会に貢献していきたい。それが、昨今当社が掲げている方針の一つです。

 建設産業を取り巻く環境はいま、大きな変革の中にあります。安全に対する意識の高まりや、生産性向上に向けた取り組み、働き方の多様化など、変化は多岐にわたっています。これを受けて、当社は建設機械メーカーとして高い品質の「モノ」を生み出すのに加え、ソリューションやサービスといった「コト」も提供することで、お客様に寄り添う企業であり続けたいと考えています。経営理念にある「ユーザー現場主義」を徹底して、お客様はもちろん、社会からも選ばれるグローバルトップブランドを目指して日々努力しています。

 そのためには、いままでのものづくりにはなかった分野への対応が欠かせません。例えば持続可能な社会の実現は、世界全体が取り組むべき共通の課題であり、当社グループとしても事業を通じて着実に取り組みを推進しています。限られた経営資源を最適に配分投下するとともに、すべてを自社でおこなうのではなく、産学官の連携や、様々なパートナーと積極的に協業して、さらなるイノベーションを生み出すつもりです。

 その中で、今一番先行している取り組みが、「働く人を中心とした現場のテレワークシステム」をコンセプトに掲げて2022年12月5日にサービスの提供を開始した「K-DIVE®」ですね。遠隔地からショベルの操作を可能にする遠隔操作システムと、このシステムから収集する稼働データを使ってお客様の現場課題の改善を提案する現場改善ソリューションを併せ持ったサービスです。建機メーカーの「コトビジネス」の中でも、先頭を走る取り組みだと思っています。

 我々が考える未来像は、多様な人を集め・活かし・育てる現場を作ることで、「人」を起点に組織を活性化し、経営効率を上げ、お客さまの業界全体を変えていくというものです。最先端のテクノロジーで、現場一人ひとりの働き方に革命を起こす「KOBELCO DX」を推進し、働く人を選ばない次世代の現場を、お客さまとともに作っています。

中川
コベルコ建機さんと我々の出会いは、東京大学の稲見・門内研究室で共同研究させていただいたことでした。

細見
そうですね。当社は2017年4月から6年間にわたって、東京大学 先端科学技術研究センターの稲見・門内研究室と共同研究をしてきました。テーマは「建設機械の遠隔操作における新たなインタフェース技術の実装研究」です。

 具体的な対象は、建設機械の中でも、ショベルの腕の先端に自動車を解体できる「ニブラ」を装着した自動車解体機です。ニブラとは、いわば巨大なハサミですね。オペレーターがVRグラスと専用リモコンを使ってニブラを遠隔操作することで、まるで人と機械が一体になったような感覚で自動車を解体できる技術を開発しました。

 この稲見・門内研究室に、ジザイエ設立前の中川さんが、産学連携担当として参画されていました。稲見先生が中川さんに引き合わせてくれたことが、今回の出資と業務提携のきっかけになりました。

中川:
ジザイエに出資していただいた理由を教えてくださいますか。

細見:
我々は、稲見先生が提唱する自在化身体技術が、遠隔就労を実現するためのキー技術になるとみています。ジザイエさんとの提携で、稲見先生の全面的な協力も得られるのが理由の一つです。また、この分野の最先端の研究開発と実装の双方が可能となる点にも、大きな魅力を感じています。

 もう一つ、当社が長年培ってきた遠隔技術分野に関する技術やノウハウを、ジザイエさんに他業種へ展開していただけることにも期待しています。さまざまな分野で使える知的財産・技術として発展させて、積極的に活用していただければと思います。

 ジザイエさんは、単に大学の研究室から発展したベンチャー企業ではなく、一般企業で実際に新事業を立ち上げ、その運営の苦労を知るメンバーが創業者となっている点が魅力ですね。大手企業でエンジニアやマーケターとして勤めていた方たちや、さらには自身で起業をした経験を持つ、若くて優秀なメンバーが集まっている印象です。皆さんいつも明るく楽しそうで、事業化に向けて自信に満ちた表情で日々議論している姿が素晴らしいと感じます。

 ジザイエとジザイエに集まるメンバーなら、遠隔就労プラットフォームの「JIZAIPAD」を軸に、最先端の技術を取り入れて、各分野の事業課題を解決するソリューションを提供できると信じています。

〜遠隔就労で社会課題を解決〜

中川:
遠隔就労の先駆けとなるサービスが、コベルコ建機さんのK-DIVE®の取り組みだと思います。詳しくご説明いただけますか。

細見:
はい。当社は、長時間作業しても疲れず、ショベルを遠隔操作できる次世代の遠隔操縦技術の開発を進めてきました。現場にあるショベルの運転室に、実際に乗り込んで操縦しているかのような臨場感が目標でした。これを実現したサービスがK-DIVE®です。

 K-DIVE®で解決を目指した課題は大きく三つあります。まず、危険な現場を離れ、オフィスからショベルの遠隔操作を可能にすることで、本質的な安全性を確保すること。次に、人とショベルの稼働状況をデータで見える化し、無駄を省くことによって現場の生産性を高めること。そして、場所や時間を問わずに働ける環境を作り、就労者のすそ野を拡げて多様な人材を活用することです。

 今のところ、対象は金属スクラップや産廃処理ヤードといった固定ヤードでの作業に限定していますが、今後は造成現場のような一般土木現場での稼働にも対応させていきます。将来的には、より効率的・効果的な人材の育成や活用を実現するための拡張サービスも展開する予定です。

 業界初のソリューションなので、課題もいくつかあります。遠隔、無人化施工の工法が発展途上だったりとかですね。規格が整備されていない中で検討しないとならないので、従来とは異なる課題に取り組んでいる感じです。当社が新しい常識を作っていくという気概でやっています。

 作業者の方には好意的に受け入れてもらっているようです。実際にK-DIVE®を体験いただいたお客様からは、いつも感嘆や驚きの声をいただきます。お客様の声を糧に、さらにサービスを拡充させて、誰でも働ける現場の実現を目指していくつもりです。

中川:
K-DIVE®の構想は、我々と稲見・門内研究室で共同研究を始めた6年前よりずっと前からあったんですよね。つまり、コベルコ建機さんは建機メーカーの中でも、かなり早い段階からコトビジネスを考えられていたと思うんです。他のメーカーと比べていち早くコトビジネスに取り組んだ背景には、例えば先進的なカルチャーがあったのでしょうか。

細見:
建設機械メーカーの中で、我々は業界の中でも、フットワークが軽く、お客様の要望にいち早く応えられる会社として従来から評価をいただいてきました。お客様の声を聞く中で、社会課題の解決策の一つとして、遠隔操作にフォーカスを当てたのです。

 それがここまで進展してこれたのは、東大の稲見先生との連携も1つの要因ですね。油圧ショベルの遠隔操作は他社さんも出されてきましたが、まだ我々が先頭を走っていると思います。もちろん力のある会社さんが多いので、うかうかせずに引き続きフォーカスを当てて取り組んでいきたいと考えてます。

中川:
コベルコ建機さんの技術開発本部の方とか知財部の方とお話させていただくと、皆さんが遠隔就労や遠隔操作の領域に、ものすごく熱量の高い思い入れがあるなって、すごく感じます。何十年も前からディスカッションされて、構想を練られたと伺いました。本当に寝食を共にして、ものすごく根を詰めて話し合った結果が、色々な知財に発展したそうですね。

細見:
確かに私もそういう熱量を感じます(笑)。

中川:
私は前職では、でそういう話はあまり聞いたことがなかったです。一人一人が自分のやりたいことをやっていく社風でした。コベルコ建機さんでは、皆さん同じ方向を向かれて、同じビジョンを語られるのはすごいなって思いました。これがカルチャーなんだろうなと。

 その意味で、我々は稲見・門内研究室の頃からコベルコ建機さんとのつながりがあって、ビジョンを共有しがらやらせていただけることが、遠隔で働くという世界観を日本だけじゃなくグローバルで実現していく上での最短距離だと思っております。提携という形でご一緒できることになって、非常に嬉しく思っております。

〜建設現場から様々な業界へ〜

細見:
今回のジザイエさんとの提携では、我々から提供する技術や知財を基にして、ジザイエさんで加工されて、我々の遠隔にも使える技術になって戻ってくることを期待しています。

 まずは稲見先生との共同研究で培った視点や考え方はもちろん、当社が長年開発してきた遠隔操作の技術やノウハウを活用して、建設機械とは異なる分野にも展開できる知的財産・技術に発展させていただければと思います。自在化身体技術を組み込んで、より革新的な技術に育てたうえで、社会実装していってほしいですね。

そして、ジザイエさんが発展させた技術を当社のK-DIVE®にも還元して、ともに豊かな社会の建設に貢献していければうれしいです。

中川:
コベルコ建機さんの知財についていろいろ確認すると、ちょっと目の付け所を変えるだけで、かなり他の業界や建設以外の現場にも展開できそうだなと、私の中でイメージが膨らんでいます。

 提携を発表してから、本当にたくさん問い合わせをいただいて、私自身、出張で色々な工場や現場を飛び回っています。逆に、どこからやっていこうかなと迷っているぐらいです。具体的には、ご相談しながらですが。

細見:
もしよろしければ、今どういうところでどんな取り組みがあるのか、一つ二つお話ししていただけれませんか。

中川:
先日、岩手県のブランド肉・門崎熟成肉の専門店である格之進のハンバーグを製造する工場を訪れたんですが、単にハンバーグをこねて焼くだけではなく、肉の筋をうまく伸ばしながら切り取るといったことが作業として必要なんですね。今までは限られた熟練者の方が人手でやってきたんですけど、それを遠隔ロボットでできないかと相談を受けました。

 この作業は、元の形が違ったり筋の入り方も違ったりするので、なかなか自動化が難しい一方で、うまく切り分けないと価値がものすごく落ちてしまう。そこで、人が遠隔地から現場の状態を見ながら、AIや自動化のアシストも受けつつ適切に加工できれば、人手不足を解消できるかもしれないんです。先日、ディープラーニングを使って食肉の解体を自動化している会社に聞いてみたら、牛肉の場合は解体がとても難しいので、人が遠隔でやる可能性はあるようです。

 建機のオペレーターさんが熟練の技を遠隔でも同じように発揮できるようにする技術が、ここでも役に立ちます。例えば、現場のこういう所をこういう角度、こういう順番で見せてあげると、より操作性が高まるとかですね。建機の場合と共通して語れる部分が、いくつもあると思います。

 もうちょっと建機に近い例では、農場で動かすロボットでしょうか。例えばトマトは少し萎れさせた方が甘くなるので、大規模な農場では熟練者の方が1日中農園を歩いて、枯れそうなところに人手で水をやったりしているんです。そうする代わりに、萎れ具合を画像で遠隔地に飛ばして、遠隔制御で水やりができるようにしたり、農薬を散布したり、場合によっては収穫までできるようにしたり。色々な可能性がありますよね。

  イチゴの栽培などはロボットで自動化されたりしているんですが、野菜や果物の種類によってはなかなかロボットで収穫しづらかったりする。遠隔での作業を可能にすることで収穫しづらい場所でも野菜がとれたり、水やりや農薬もまいたりできるなどいろんな可能性が広がります。

建設機械では何の資格もない人がいきなり家から建機を操作するのは難しいですが、遠隔での水やりや農薬をまくなどの作業であれば、始めやすいのではないかと思っています。

細見:
遠隔で水やりや農薬をまく作業なら、確かに始めやすそうですね。

中川:
はい。どちらかというと経験値が大事ですし、食肉加工でも質の担保の方が大切です。こういう事例が色々な現場に広がっていけば、遠隔就労のサービスとしてスキルがきちんと蓄積されていって、うまく仕事にマッチングされていくといった世界観が描けてくる。その世界観の中で、一つの応用として建設機械の遠隔操縦もあるというイメージです。最近、農場や食品工場、衣料服飾系の製造工場などを巡っていると、そういうふうに考えることがあります。

細見:
今お話しいただいたように、今までK-DIVE®のために獲得してきたノウハウや特許を、農業や食品業といった分野で活用してもらうというのは、我々ではなかなかできません。我々の技術を渡すことによって、ジザイエさんに実現していただけるのは、願ったり叶ったりですね。

中川:
ありがとうございます。遠隔作業には、どの現場であれ共通する課題があって、やっぱり臨場感というか、テレプレゼンスとも呼びますけど、「そこに本当に存在している感覚」が非常に重要なんです。K-DIVE®でもそこを意識されて取られている特許が結構ありますから、色々な横展開が可能だと思います。


最後まで記事を読んでいただきありがとうございます。
次回は【対談】ジザイエがコベルコ建機と達成したいこと<後編>をお届けいたします!

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それではまた次の記事でお会いしましょう✨



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