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【逃亡犯逮捕の裏】パチンコ店、ラブホテル、ソープランド…指名手配の「顔」は意外なところに

駅や交番で目にする指名手配の顔。半世紀ものあいだ逃げ切った逃亡者がいたと思えば、ふとしたきっかけでその顔を思い出し即逮捕となるのだからわからない。ほんのわずかな手がかりを求めて、捜査はおこなわれている。

逃亡犯が来そうな店

 存在感ありすぎる写真だ。
 指名手配犯に共通している人相は、強い負の意思である。きっかけが違っていたら、仕事のできるたくましい人間になっていたかもしれないのだが。
 真正面から撮られるとほとんどの顔写真は実物より人相がワルく見えるもので、殺人事件を起こした凶悪犯も堂々と真正面から撮られているのでより一層強面である。アメリカやヨーロッパでは身分証明書の顔写真や卒業アルバムの顔写真は、日本ほど真正面から撮られたものは少なく、撮り方も幅がある。いかにも杓子定規な日本の撮影法である。

 指名手配犯の顔写真は、交番、公衆浴場、駅構内、市役所といった目立つ場所に貼られているが、実はもっと重要な場所に密かに貼られている。ラブホテルの従業員部屋、ソープランドの受付、パチンコ店の従業員待機室、質屋の従業員用トイレ、といった表から見えない場所に貼られているのだ。カネに困ったり、スッキリしようと指名手配犯が来店するのを予期してのことだ。
「人の流れの激しい駅の改札口には公安刑事がたいてい数人、張ってます。犯人の来そうなパチンコ店でも客のふりして刑事が張ってます」
 新橋をテーマに取材していたとき、ベテラン事件記者が私にそっと教えてくれた。
 刑事たちは昔から小さく折りたためる指名手配犯の顔写真を常に持ち歩き、首実検している。

過激派として指名手配されていた2人の逃亡者。大坂は2017年に逮捕され懲役20年。
今年1月末には桐島聡を名乗る男が身柄を確保されたが、その後死亡した

 2017年、渋谷暴動事件容疑で逮捕された大坂正明容疑者はいかにも左翼闘士といった面構えをしていた。警察官殺しというのは、同じ仲間を殺されたということで、警察も集中して追跡する。逮捕連行されるときの大坂容疑者の風貌は、46年間ですっかり変貌していた。強い意思を宿す闘士の風貌は消え、下町の雑貨店を営む善良なオヤジ、といった風貌になっていた。
 オウムの菊地直子も警察が想定した逃亡中の似顔絵とは似ても似つかぬ風貌になっていた。
 長年の逃走は目に見えぬ労苦を当人にあたえ、闘争心をそぎ落とした顔立ちになるのだろう。
 ポスターの指名手配犯もまた、凶悪な人相を変えて好々爺になり、実社会に溶け込んでいるのかもしれない。

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著者プロフィール
本橋信宏(もとはし・のぶひろ)
1956年埼玉県所沢市生。早稲田大学政治経済学部卒。私小説的手法による庶民史をライフワークとしている。『ベストセラー伝説』(新潮新書)、『歌舞伎町アンダーグラウンド』(駒草出版)など著書多数。80年代のアダルトビデオ業界を描いた『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)がNETFLIXでドラマ化、全世界配信され記録的大ヒットとなる。