見出し画像

『光る君へ』はじめて大河ドラマをちゃんと見られて感動【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#23


番組公式サイトより

 あけましておめでとうございます。なんてあいさつを交わす時期はとっくに過ぎ去り、気づけば2月も残りわずか。時の流れは早いっすね。ともあれ、今年もどうぞよろしくお願いします。

 昨年、この連載「きゅるきゅるテレビ日記」を2時間サスペンスドラマ『赤い霊柩車』で締めたわけだが、私はずっと考えていた。あれでよかったのだろうか、と。

 よくないだろうよ。なぜ再放送をピックアップした。しかも、平日昼過ぎ放送を。もっと取り上げるべきドラマはあったはずだ。なのに、なのに……と、己を省みること2カ月。その反省を糧に、2024年一発目の「きゅるきゅるテレビ日記」は、大河ドラマ『光る君へ』である。年間通して話題になるし、毎週見続けなければならない。昨年末から新年にかけてやらかしてしまった私を糺すには、うってつけではなかろうか。

 主演は吉高由里子。平安時代中期を舞台に、「世界最古の女性文学」と呼ばれる『源氏物語』を生んだ紫式部の生涯を描く。とのことだが、私が紫式部について知っていることは「『源氏物語』を書いた人」のみ。こんな知識で大河ドラマを完走できるのだろうか。不安しかない。

 そもそも私は、歴史ものが苦手だ。基本的な史実が頭の中に入ってないから話の筋がしょっちゅうわからなくなるし、登場人物の見分けもつかないし、特有のセリフ回し(~でござるなど)もなんか違和感、などなど理由はいろいろあるが、すぐに挫折してしまう。

 が、そんな心配は杞憂だった。『光る君へ』、普通に見れる。普通におもしろい。毎週楽しみにしている私がいるからあら不思議。

 物語りの始まりは、泣くよウグイス平安京、貴族わらわら平安時代である。平安と聞いて私が真っ先に思い浮かべるのは、NHKアニメ『おじゃる丸』。主人公・おじゃる丸の口癖は「マロは~」「~でおじゃる」である。『光る君へ』も、そんな口調のセリフが飛び交うんだろうなあと見る前から勝手にげんなりしていたが、おじゃる丸語、ほとんど出てこない。普通にしゃべっている。目をつむって音だけ聞いていると、現代ドラマのような気がしなくもない。ジャズっぽい音楽と、おっさんみたいにガハガハ笑う吉高由里子が、現代ドラマ度をさらに上げてくれている。

 これがとてもいい。セリフがすらすら頭に入ってくるから、話の筋も追える。登場人物に藤原某が多すぎ問題はあるが、この時代なら致し方ないと受け入れられる心の余裕も生まれた。これは私にとってとても大きな出来事である。「ストーリーがわかる」ことの衝撃、「大河ドラマをちゃんと見れている」ことへの感動。歴史ドラマに対して抱いていた苦手意識が音を立てて瓦解した、まさに歴史的瞬間であった。と、大河ドラマっぽいナレーションで表現してみたが、私の心中を察していただけただろうか。

 もうひとつ、『光る君へ』をおもしろいと感じる要素が、話の軸が人間の欲にフォーカスしている点だ。男も女も頭の中はウワサでいっぱい。やれ、どの女がいいか、男がいいか。結婚するならどんなタイプか。出世のためにあいつを蹴落とせ、のし上がれ。目障りな相手は呪詛かけとけ。女中たちが扇で顔を隠し、交錯しながらひそひそ話すシーンが挟みこまれるのだが、ウワサ好きの日本人の陰湿さとスキャンダラスな香りぷんぷんでワクワクする。

 しかし、主役の2人、吉高演じる紫式部と、柄本佑演じる藤原道長は、そういったことに興味がないスタンス。ドラマはいたくおもしろいのに、そのおもしろ要素に主演がからんでいないという状態。まだ序盤だからかなあ。直近の話では、道長が政権争いに噛み始める描写があったので、今後の展開に期待しよう。

 直近の話といえば、ファーストサマーウイカが清少納言として登場した。一瞬、吉高由里子の対抗馬としてファーストサマーウイカってどうなのよ、と思ってしまったが、あらゆる権謀術数がうごめいている平安時代を生きる女としては、ハマリ役かもしれない。野心、強そうだもんな。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き