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分離科学の先駆者ーツウェット博士

物語その2
その仕事の関係でオデッサの高官役人のピレール、カレル氏と彼は長く親しくしていた。そのカレル氏の姪、エレーナ・サバトフとセメン・ツウェットをロビーで逢わせるためにカレルがセメンとエレーナを待っていたのである。
エレーナは23歳になっていて、結婚には年の頃もちょうど良く、女性として美しい時期を迎えていた。そして育ちの良さも伺え、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。そうはいっても、彼女にとって、このような面会は少し不安だろうとカレル氏はお供として彼のいとこの娘マリア・ドローサを連れて来ていた。
カレル氏はロビーの丸テーブルの椅子にどっかり腰掛けていて、おもむろに立ち上がり、早速にセメンにエレーナを紹介した。
そして、彼女の前方の椅子セメンを腰かけさせた。その後に簡単にマリア・ドローサを紹介した。
 前日にセメンはカレル氏から、エレーナをよろしく頼むといわれていたので、エレーナと多く話すようにつとめた。しかし、彼は、マリア・ドローサを一目見た時から少し気になっていて、時々、彼女の方に目を配らせていた。
エレーナは段々とうち溶けて、おじさんやセメンと快活に話をするようになってきた。一方、マリアの方はまだ19歳で、あまり社交的でなく、時々おじさんとエレーナに小声で話をしていた。
彼女はセメンとは特に話す話題もないので、相ずちを打つくらいであった。
セメンがひそかにマリアの話振り、仕草を観察してみると、ほとんどは相手の話を聞いていたけれども、時にその話に花を添えるような面白い事を付け加えていた。
その1つは“2、3日前、おじさんがやってきて、エレーナと一緒にお茶を飲もうといった時、何か考えていると思ったわよ、おじさん!服装は特に気を使わなくていいと言ったでしょう”とか。
エレーナの方はロシア女性のふくよかな品のある美しい娘だった。
“将来は、良い子を育て、いいお母さんになるだろう”とカレル氏は言う、セメンもそのように思えた。加えて、カレル氏は“エレーナは申し分ないだろうというような事”をセメンに小声で何回かつぶやいていた。
 しかし、セメンにとっては、マリアが気になる。そして食事が終わる頃には、もう心を決めていた。マリアと共に多く居られるようにしようと!
エレーナの方はおじさんから、“ゆっくりお付き合いするがいい、きっとうまくゆく”と言われていたので、その日は特別な感情も持たず、普通に仲良く会話し過ごし別れた。

カレル氏は、次の日も次の日も“どうだった?”とエレーナにもセメンにも聞いていた。
エレーナは“普通だよ、本当に彼、お嫁さん探している?”と言った。おじさんは“もちろん、もちろん”と答えた。カレル氏はセメンをロシアの外交貿易官として高く評価していて、姪になるエレーナを是非、嫁にもらって欲しいと願っていた。やり手であるセメンなので、それなりに、女の人とのお付き合いも多くあったに違いないし、37歳という事なので以前に結婚暦があるかもしれないが、カレル氏にとって、そのような事はそんなに気にしていなかったのである。高い地位の人であり、誠実な人柄のセメンと従兄妹のエレーナが結ばれる事を本当に望んでいた。
何日かが過ぎたある日、彼はセメン・ツウェットの言葉に驚かされ、動転した。セメンの言は“彼女はそんなに私の事、気に入っていたようでもなく、特に私に執着心は、ないように思う”それを聞いて、カレル氏は“エレーナと君のために2ヶ月前から、算段してきた事だからね~”とため息をついた。

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