眼鏡相談室12)50代 男性よりQ:レンズコートが多種多様でどれを選んでよいかわかりません。あんなに種類が必要なんですか?

は~い、良いご質問です。確かに私がお店で接客していても、ご自分でレンズのコートを選べる人なんて皆無に等しく、私たちが説明しながらお客様が四苦八苦しながら選んでいます。説明抜きにはコート選びは不可能と言いたくなる程に、コートの違いが消費者には伝わっていません。

早速、難解なコートの種類を解説致します。そもプラスチックレンズコーティングの、開発競争の歴史の初期は耐傷性能のを競っていました。それ以前はガラスの素材、つまり耐衝撃には弱く耐傷性能はずば抜けて強かったのです。実際にプラレンズ草創期にはクレームが頻発しました。

その傷に対する耐性が強まるにつれて、プラレンズがガラスに比して1/3という軽さが評価され、今現在では一部のニッチな商材以外はほぼ全てプラレンズでシェアを占めるようになりました。従ってこれから説明するコートの種別は全てプラレンズについて解説することになります。

先ずは、一番ベーシックなハードコートです。このコートには耐傷には強くとも反射防止機能が無く、パッと見た目にギラっとするので、少なくとも僕らは、あ、ハードコートだと一目で分かります。ただ度付きレンズにおける日本のハードコートのシェアは限りなくゼロに近いと思います。

次に傷にはある程度耐えられるのは分かったが、この反射を何とかせい、というニーズや声が日本ではありました。ただしグローバルに見れば度付きでハードコートはまだまだ健在です、日本では反射防止の様な高付加価値コートが比較的早く広まる特異なマーケットだと言えます。

この反射防止と耐傷を兼ねたコートをハードマルチコートといいます。この次に、UV380というコーティングで紫外線カットをする技術も生まれます。ただ近年の傾向としては、UV400という更に厳しい基準を満たした紫外線カットをコートではなく基材に練りこむ手法が主流になりました。

そして次に起こったムーブメントは、そもレンズ傷が何故発生するかと言えば、レンズ表面に付着したゴミの様な浮遊物、例えば埃や花粉、これらが付着したままレンズ面を拭き上げる事で、ゴミがレンズ面を研磨していると分かり、この為に摩擦係数を下げる撥水コートが生まれました。

つまりゴミがレンズにふわっと来たとしても受け流して滑って、落ちていく状態を作ろうとしたのです。ここでハードマルチと撥水という組み合わせが誕生し一定の評価を得ました。ですがそれでも耐傷性能では充分ではなく、ここから先は耐傷性能アップの競争がエスカレートします。

耐傷性能の開発競争がひと段落した時点で、NIKONから時代を作るコートが発売されました。それがブルーライトカットレンズです。これをNIKONはテクノストレス軽減と銘打ってプロモーションしました。ただしNIKONが普及させたというよりJINSさんが普及には大きく一役買ったと言えます。

そしてブルーライトカットレンズが各社から出そろった時点で、コロナ過になり、今度は防曇コート、そして抗菌コートの出番です。まさにレンズメーカーも時代に合わせて商品開発をしている事がよくよく分かります。更に低反射を極限まで高めるレンズも開発されています。

例えばカールツァイスのデュラビジョン、東海光学NRC、KODAKのLHP、NIKONのシーコートネクストのダイアモンド。これらが次世代の低反射コートだと言えます。低反射の恩恵は?と聞かれれば僕は見え心地だと答えます。具体的に言えばゴーストの低下と裏面反射の減少です。

ただし、副産物として、外から見られた時にレンズの存在が分かりにくく、自分が被写体になるようなときに、反射が少なく、スッキリ見えます。例えばZOOMの会議なんかにもこの低反射レンズは活躍します。ですが低反射の主目的はやはり見え心地だと訴えたいのが僕の思いです。

いかがですか?コートの種類をご自身で選ぶのは至難の業だというのがご理解頂けたでしょうか?ですから信頼のおける眼鏡屋さんに相談するのが一番ですが、一方、ご自身が最低限の理論武装をしていないと不要な機能のレンズを売りつけられてしまいますから最低限は勉強して下さいね。

余談ですが、ブルーライトカットレンズのコートタイプのレンズは青く反射します。あれはブルーミラーコートで、実はサングラスでは昔から良くある手法でした。サングラスの分野では大昔から、ブルーライトの危険性には気づき、とっくに警鐘を鳴らしていたと言えます。

その技術を無色レンズに応用しました。ただし無色ミラーコートの弊害としては、ゴースト、裏面反射が出まくり、更にブルーの波長をカットする事により、レンズ全体が黄ばんで見えます。色がずれては命取りな編集者やグラフィックデザイナーは、ブルーライトカットレンズを嫌う傾向にあります。

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