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宝満山

大切な山がある。大切な人がいる。

今日の宝満山は一層輝いていると感じた。常緑樹の隙間から光が零れる。零れ落ちた光が、その人の顔を照らす。眩しい笑顔は僕に伝染した。

好きな山はありますか?初めて彼女に会ったときに訊いた言葉は、話下手な僕でも山の話題なら続けられるだろうという少し情けない打算的な思いもあった。そこで初めて宝満山という山を知った。あまりにも嬉しそうに宝満山のことを話すので、その笑顔の理由を知りたくなってしまった。

一度目に登ったときは足を怪我していた。それでも宝満山の石段は歩きやすく、ゆっくりだが登ることができた。「みんなが掴む木の根が手すりのようにツルツルになっているんですよ」そう話した彼女の笑顔を思い浮かべて、素敵な人だなと振り返った。

二度目に登ったときは、前回見れなかった山頂の景色を見るために登った。身体が軽いのは怪我をしていないという理由だけではないなと、二人で過ごした時間を振り返りながら歩いた。山頂から見た福岡市街の景色は、この山が古くから愛されてきた山なんだろうと思わせてくれる優しい景色だった。思いがけない宝探しをして、宝満山は読んで字のごとく、大切なものが満ちているなとキーホルダー見つめながら帰った。

そして三度目となった今、横には大切な人が歩いている。二人がそれぞれ、別々に登った時の思い出を話しながら登っている。同僚と見た景色、あの時咲いていた花、あの時感じたこと、、。とりとめのない話は尽きなかった。宝満山をこうして歩けることが、なんとも幸せなことだった。

山頂に着くと、二度目に登ったときにお会いした方と再会した。あの時の記憶が蘇る。「大切な人が好きな山なんです。だから登りたくって」そんな話をした。この山が多くの人に愛されているのだと、再び心が温かくなるのを感じた。

山頂でたくさん話をして、付近の岩場で嬉しそうに岩に手をかける彼女を微笑ましく見ていたら、あっという間に時間は過ぎていった。傾きかけた西日で橙色に染まる樹林の中を降りていく。振り向いた笑顔が堪らなく愛おしい。いつまでもその笑顔の横にいたいと願いながらシャッターを押した。

二人の時間が静かに山の中に沈んでいった。

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