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いくつもある私の名前の話

私の名前は全辰隆です。
ハングルで전진융、カタカナでチョン・ジニュンと読みます。日本語の読み方だと、”ぜん たつしげ”です。ローマ字表記だと ”Chun Jinyung”です。(後ほど説明しますがパスポートの表記では”Chun Jinrung”になっています。記録上の公式的な英文名はこちらになります。)
これらがいわゆる私の本名です。
しかし私には他にも名前がいくつかあります。

まずは通名(日本名)、松田辰隆(まつだ たつしげ)です。
松田は、朝鮮が日本の植民地だった時に、祖父が創氏改名でつけられた苗字です。
在日コリアンの中には生活の便宜上や差別を避けるために通名を使い続け、それが今でも残っている家庭が多々あります。私の家族もそうでした。
そのため私も生まれた時から松田を使っていました。(※自分の意思でありません) 
自分の本名が松田ではないことを幼い頃から知っていため、私はずっとこの名前に違和感を感じていました。
それで高校受験の時に本名に変えたいと親と担任の先生に言いました。
「受験で緊張して名前を書き間違えたら一発でアウトだから、書き慣れた松田で受験しなさい」と、今考えると良く分からない理由で諭され、結局高校も松田で通うことになりました。
しかし大学は韓国へ進学すると決心した後はどうしても本名に変えたくなりました。
だから高校3年生に進級する際に本名である全に変えました。(読み仮名は日本語式の”ぜん たつしげ”) 
余談ですが、在日韓国人であるカミングアウトは高校の入学式で済ましていたので、この名前変更はちょっとした話題になるとワクワクしていました。(特に女子からの反応を期待!!)
しかし実際は親が離婚したと勘違いされたのか、親しい友人以外には全く触れられることなく終わりました。
チーン。

そして高校卒業後、渡韓をきっかけにいよいよ本格的に本名を使い始めます。
ハングルで”전진융”、カタカナで”チョン・ジニュン”。
やっと本名を韓国語の発音で名乗れる…!と喜んだのも束の間。
ここで2点問題が発生します…!

一つは私の名前、超珍しすぎる問題です。
日本では名前にもよく使われる“隆”という漢字ですが、韓国では名前にあまり使われません。
しかも名前の最後に、この漢字の発音が来ることが非常に珍しいのです。
そのせいで、よく名前を間違えられたりしました。口頭で会員証や病院の診察券を作った際には、間違えられて登録されたことが多々あります。

そしてもう一つは私の名前の発音難しすぎる問題です。日本語の“ン”は一つですが、韓国語には2種類の“ン”があります。私の名前には“ン”が3つも入るのですが、(一文字一文字ゆっくり正確に読んだ場合)、私の名前の中にはこの2種類の“ン”が混在しているのです…!
日本語を母語とする人からすると難しい発音の区別。私も自分の名前を正確に発音することができませんでした。
ただでさえ珍しすぎる名前なのに、自分の名前もちゃんと発音できず、よく名前を間違えられました…
せっかく自分の名前を堂々と話せる環境にいても、自分自身がその音を正しく話せないなんて…と当時はかなりのコンプレックスを感じていて、自己紹介をするのが苦手だった時期もあります。
まぁ今では話のネタになるので気にしなくなりましたが。
ちなみに珍しすぎる名前ゆえ、検索にかけるとすぐ出てくるので、悪いことはできないなと気をつけています。笑

ここでちょっと一息。
冒頭で話した、私の名前のローマ字表記に関するお話をしましょう。
私の名前につく“隆”という漢字は韓国語で2種類の発音がある漢字です。
융と륭(ユンとリュン)
祖父につけてもらった私の名前は当初”전진륭”(チョン・ジンリュン)でした。
しかし発音がダサいと嫌がった母により전진융(チョン・ジンユン※繋げて読むことによりチョン・ジニュン)になったのです。
でもそれなら”Jinryung”が正しいのでは?となりますよね。
その通りなのです。パスポート表記に関しては完全なミスによるものです。
幼少期、母が私を連れて韓国へ里帰りするために私のパスポートを作りました。
その時の韓国領事館の職員が私の名前を見て、この名前のアルファベットは”Jinrung”だ!と判断し、この時からこの名が国際的な私のオフィシャルネームになったのです。
今でこそハングルのローマ字表記方法が正式に定められていますが、パスポートを作った当時、韓国にはまだそのルールが曖昧でした。
そのためのこのようなミスが起こったのです。
大人になりローマ時表記を訂正しようかと考えましたが、大学、銀行、クレジットカードなどなど、ありとあらゆる登録をすでに”Jinrung”という名で行っていたため、それを全て変える手続きをするとなると、チョーめんどくさくなったので、私はこのまま生きていくことに決めました。
でもSNSで名前を表記する時などは、”Jin-(r)Yung Chun”と言ったハイブリッド表記にしたりして、たまにあがいたりもします。

正直、公式的な書類には”Jinrung”、普段は”Jinyung”と使い分ければいいのかもしれませんが、初めて海外の映画祭に出品した時、もしこの映画が通って、映画祭から招待されて、ぜひお越しくださいと航空券とホテルが用意されたのに、”Jinyung”表記で予約されてしまったために使えないことになったら大変だ!!なんて、今考えると妄想がすぎる考えのせいで、海外に出す名前は”Jinrung”で統一しようと決めてしまいました。
通る前からこんなこと考えてたなんて、今思うと恥ずかしい。
ちなみにいまだに航空券とホテルを用意してくれる映画祭なんて行けたことありません。

そして最後はスパニッシュネームです。
スペイン語の名前です。Sí, Mi nombre español es Rafael. Me llamo Rafa.
私はの名前はRafael(ラファエル)です。省略形のRafa(ラファ)で呼ばれることが多かったので主にRafaを使っています。
なぜスパニッシュネーム?理由は簡単です。
実は私、なぜか日本から来て、韓国の大学でスペイン語を専攻していたのですが、(その理由は長くなるのでここでは割愛させていただきます。)スペイン人の先生が韓国語名を覚えることが難しいということで、みなそれぞれ好きなスパニッシュネームを自分で決めていました。
最初は燃える闘魂のようにアントニオにしようとしたのですが、(幻のアントニオ期。)いかんせん何か自分とは合わない気がして、一番かっこいい音の響きだと思った”Rafael”にしました。
ちなみに韓国人はマイケルやジェイソンなど英語名を結構使います。
外国の方からすると発音が難しい名前が多いため、外国の名前を付けることにあまり抵抗がないためです。
中国や台湾の方にも多いですよね。
スペイン語の授業で使い始め、特にメキシコ留学中はジニュンという名前がなかなか伝わらないので”Rafa”という名前ばっかり使っていました。
ちなみに生まれて初めて自分自身で選んだ名前ということでちょっと不思議に感じています。
名前とは誰かに付けられるもの、変わらないもの、という認識が強かったのですが、自分自身で決めてもいいんだという感覚を初めて学びました。
そしてたまたまですが、”Rafa”の頭文字がRなところも、”JinRung”のRと被っててRとは運命的なものを感じています。

とまぁ、名前の数はここまでなのですが、東京に引っ越して来て自分の名前をどうするか悩んだ時期もありました。
松田は使わないことは決めていましたが、読み方を”ぜん たつしげ”にするか、”チョン・ジニュン”にするのかで悩みました。
圧倒的に便利なのは”ぜん たつしげ”の方なのは間違いない。しかし私は”チョン・ジニュン”を選びました。
この名前が好きだからという理由と、どう見ても外国人の名前で生活することによって初対面の人はどう反応するのか気になったからです。(まぁ私、外国人なんですけど。)
やはりチョン・ジニュンを名乗り始めると、日本語できますか?なんてよく聞かれますし、外国人の方はこういう苦労があるんだな、なんてことを経験します。(まぁ私も外国人なんですけど。)
それが意外と刺激的で面白いのです。(まぁ私、繊細なので、たまに傷つくこともありますが。)
あと名前を良く間違えれらます。
ジニョンと呼ばれることが多いです。
私の名前はジニュンです。小さいユです。
まぁこれも複雑な名前を持って生まれた私の宿命ですね…

とまあ、長くなりましたが、このように私には名前がいくつもあるため、時期により名乗っていた名前は様々です。
生まれて名付けられた名前は”全辰隆”でも、日常的に使っていた名前は高校二年生まで”松田辰隆”(まつだ たつしげ)。
特に小中学校の時はあだ名で”たっちゃん”と呼ばれていました。
そして高校3年生の時は”全辰隆”(ぜん たつしげ)。
韓国に渡ってからは”전진융”(チョン・ジニュン)。
メキシコ留学中は”Rafa”。
そして東京に引っ越して来てからは”全辰隆”(チョン・ジニュン)。

名前が色々と変わった人生を送ってきたため、久しぶりに旧友に会うと、どう呼べばいいの?
なんてよく聞かれます。
でも呼び慣れた名前で呼んでくれればいいんです。
私の家族からも”ジニュン”ではなく”しげ”と呼ばれています。家族内でのニックネームです。
どの名前も全部自分なんです。
名前に関する良い由来も悪い由来も、全てひっくるめて自分が生きて来た証なのです。
それにこれからもっと自分の名前が増えていくかもしれませんしね。
うふふふ。

PS. 選択的夫婦別姓制度に賛成です。そうなって欲しいと思います。
愛着のある苗字を変えなくてはいけないなんて残酷すぎる!そういう感覚の人もいるはずです!
そして何より、苗字が変わるなんて手続き面倒くさ過ぎる!
パスポート、銀行、クレジットカード、免許証…
うん。絶対に面倒くさい。

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