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任命されなかった6人の見解

 国会で野党が首相に質問しても、任命拒否の理由を説明しない。「人事のことだから」と言うのだが、この6人は特別公務員である。国会議員と同じ身分なのだ。首相の部下ではない。部下ではなく、学術会議自身が推薦した105名定員の105名中の6名なのだ。任命を拒否する場合は合理的な理由が必要になる。6名は欠けたままになっている。
 その6名の意見表明をあらためて拾ってみた。
 みんなが道理ある意見をそれぞれの視点で述べている。
 菅首相はそういうことが嫌なんだろう、たぶん。
 アメリカでは地球温暖化を主張する科学者をバカにしていた大統領が選ばれなかった。
 学問や科学って何だろう?
 良薬口に苦しって言うよね。
 正しい事を言ってくれる人たちを懐に抱えるくらいの国家であってほしい。

○加藤陽子(歴史学、東京大学教授)

・・・拒否された6人全員が学術会議第1部(人文・社会科学)の会員候補だったこと。日本の科学技術の生き残りをかけるため1995年に制定された重要な法律に科学技術基本法というものがあるが、この法は今年25年ぶりに抜本的に改正され「科学技術・イノベーション基本法」となった。改正前の法律では「人文・社会科学」は、科学技術振興策の対象ではなかった。つまり法律から除外されていた分野だった。しかし、新法では人文・社会科学に関係する科学技術を法の対象に含めることになった。・・・
日本の現在の状況は、科学力の低下、データ囲い込み競争の激化、気候変動を受け「人文・社会科学の知も融合した総合知」を掲げざるを得ない緊急事態にあり、ならば、その領域の学術会議会員に対して、政府側の意向に従順でない人々をあらかじめ切っておく事態が進行したと思う。・・・

○松宮孝明(刑事法学、立命館大教授)

 まず法律が分かっていない。日本学術会議法第7条と17条では、会員の選び方について、学術会議の推薦に基づき内閣総理大臣が任命する、と定めています。推薦に基づかない任命を首相がすることはできません。また推薦された人を任命しない場合は、合理的な理由が必要です。たとえば研究不正など。しかし今回はこれには当たりません。

 1983年の参院文教委員会で中曽根康弘首相(当時)が「実態は各学会が推薦権を握っている。政府の行為は形式的」と述べています。これは学問の自由を保障する、日本国憲法23条に基づいている。今回の政府による人事介入は、そういう法体系が分かっていない人の判断だと思いました。学術会議の事務局の人と「これは大変なことになりますね」と話しました。

○宇野重規(政治思想史、東京大学教授)

 民主的社会を支える基盤は多様な言論活動です。かつて自由主義思想家のジョン・スチュアート・ミルは、言論の自由が重要である理由を以下のように説明しています。もし少数派の意見が正しいとすれば、それを抑圧すれば、社会は真理への道を自ら閉ざしたことになります。仮に少数派の意見が間違っているとしても、批判がなければ多数派の意見は教条化し、硬直化してしまいます。
 私は日本の民主主義の可能性を信じることを、自らの学問的信条としています。その信条は今回の件によっていささかも揺らぎません。民主的社会の最大の強みは、批判に開かれ、つねに自らを修正していく能力にあります。その能力がこれからも鍛えられ、発展していくことを確信しています。

○岡田政則(行政法学、東京大学教授)

 選んできたものをその通りに任命しなければならない、“選べない任命”というのもあるということだ。例えば内閣総理大臣を任命するのは天皇だが、選ぶのは国会であって、拒否する権限はない。内閣総理大臣が所轄する、というのは、内閣総理大臣のところで事務を扱うというだけで、実際は独立した機関である日本学術会議という組織が担っている。だから形式的に任命するということはあるけれども、誰を会員にするか、どうやって運営するかというのは学者の代表の会員が自分たちで決める。それが日本学術会議法という法律で決められていることだ。
 裁判官は内閣が任命するが、選ぶのは最高裁判所であって、内閣に拒否する権限はない。現実には“この人はいい、この人は悪い”と選べるような場合が多いのでそう理解されるかもしれないが、内閣が“この裁判官はいいが、この裁判官は嫌だ”というようなことを言っていたら、日本の裁判所は大変なことになってしまう。

○小沢隆一(憲法学、東京慈恵会医科大教授)

 日本学術会議法では、学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命することになっている。「基づいて」という言葉は非常に重い表現。よっぽどのことでなければ、基づかない決定、任命拒否はありえない。今回、内閣府は任命しないことについて理由、根拠を明らかにしていない
 これは勝手に任命拒否したことになる。私たちの学術研究の活動の内容については、学術会議の会員らが審査すべき。そういうものについて政府が内容に介入することはゆゆしきことだ。内容的に理由を示せない決定は不当だ

○芦名定道(キリスト教学、京都大学教授)

 たまたま私が任命されなかったというよりも、学術会議の在り方が問われた。それで何が問題だったのかっていうことを少し考えたんですけども、幾つか問題はあったとは思いますが、最大の問題はやはり軍事研究を巡っていたというふうに私は考えています。今、日本の大学においては、さまざまな研究分野が当然研究されているわけですけれども、その中の軍事研究ということを巡って、政府は大学における軍事研究を推進したい、それに対して反対をした、明確に反対を声明として出した日本学術会議、それが非常に問題であったというのが非常に大きな争点だったろうと思います。

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