見出し画像

学生を本気で救うために、財務担当理事はその川を飛べるか?

学生の街、京都。もう一つの姿は学生獲得競争が最も激しい地域

一昨日の読売新聞京都版(2020年5月13日)。
「学生困窮 出口見えず」という見出し

新型コロナウイルス感染課題の影響で、飲食店などのアルバイトが休業となり働けなくなった学生が、経済的に行き詰まっている。支援策を打ち出す大学がある一方、学生には行政制度が届きにくい面もあり、先の見えない不安を抱えている。
というリードが続く。

主な大学の支援策が表にまとめられている。規模の大きな大学は一律3万円か5万円を遠隔授業整備とかいう名目で支給していることがわかる。困窮者には最大10万円を支給というのもある。

画像1

大学の街、京都。実は地元の人口の割に大学が多すぎ、東京都の次に他府県からの流入率が高いところ。それが京都のもう一つの姿なのだ。日本で学生獲得競争が最も激しい地域のひとつである。
法律上、契約では学費を返す必要はないと各大学がホームページで書く。一方で、全国で唯一学費を返還している学校法人の本部があるのもこの京都なのだ。施設・整備費の一部を計算式とともにホームページに載せている。

なぜ、各大学は一律○万円支給、総額○○円パッケージなんてことを打ち出すのだろうか。あれは学生や保護者に向けて言っているのか、それとも受験生か、いやいや他私学にか。
この記事に出てくる母子家庭で3つのバイトを掛け持ちしていた女子大生はその3軒とも働けなくなった。いまある支援制度では生活できず、JASSOの貸与型奨学金を受けたいが、返済のことを考えると難しいとか。
新型コロナウイルス感染症の拡大による経済被害という困難な時期。こういう学生のために「協力」が必要だ。なのに、一律○万円給付、○○億円パッケージで「競争」している大学。

理事会は経営判断という名のモード切替ミス

どうして、各大学の経営陣はそういう判断をするのだろうか。
ある大学の理事会メンバーは、「われわれは団塊の世代。いつも競争のなかで生きてきた。助け合いとか協力という発想が先ではない」と言っていた。他私学より先に、他私学より見栄えがするように、そんな発想と場の空気で対症療法的な対策が理事会で決まっていく。○○億円パッケージで圧倒され、理事会メンバーは、「われわれはよくやっている」と満足するのだとか。
一昨日の読売新聞を見て思うのは、かといって学生を中長期的に助ける有効な案が見つからないのも事実なんだと思う。どういうわけかこれまで、給付奨学金についてマスコミからうちの大学への取材はない。PR不足もあるが、大学もマスコミも本当に退学を防ぐ手立てを、既存の制度との関係であまり考えない。
例えば、JASSOの給付型奨学金や家計急変の給付型奨学金を補う形で各大学が給付型奨学金を実施すれば、経済的に困窮している学生は大抵救える。
といってもピンとこないだろうね。
なぜか?
だって、JASSOの奨学金がどういう制度か理事会のメンバーって知らないんだもの。競争モードを救済モードにして勉強することが大事な時期。

だからぜひ前回Noteで紹介した『奨学金まるわかり読本』とJASSOの3つのパンフレットくらいは読んでほしい。

ひとりの退学者も生まない奨学金とはどういうものか?

今年から高等教育無償化政策に伴い、低所得者層の給付型奨学金と学費減免がセットで実施された。それらの手続きはJASSOから直接給付される奨学金と各大学で学生の学費減免が行われるため、4人世帯で約380万円以下の低所得者は経済的にかなり支援され、学業が続けられるしくみをつくっている。

だから、退学しなければいけない学生のために、私はJASSOの奨学金で救えない学生を救ううちの大学の奨学金を作ってほしいと奨学金担当の職員に頼んだ。
じゃあ、JASSOの奨学金をもらったり、借りたりしている学生との整合性をどうするのか、という問題があると奨学金担当の職員に言われた。確かにそうだ。そう考えた職員の発案で、すべての申請者が一度JASSOのなんらかの奨学金を申請してもらう条件にした。もともとJASSOの給付型奨学金で救えない大学院生や留年者、成績不良者はそれとは別の仕組みで、直接面接かオンライン面接、電話で就業意欲や経済状況を確かめることにした。
それで整合性は取れるし、家計審査もJASSOのものが使える。一石二鳥なのだ。

スピードの解決は一律支給ではなく、貸与型奨学金の即貸与で解決

その代わり、すぐにお金が出ない場合のために、最長6か月の大型の貸与型奨学金も作って併用することにした。
さらに最大9万円を貸し出す短期貸付制度も作った。これらはいずれも決済後3日で学生の銀行口座に振り込むスピード処理にした。これは経理の担当課長がそうしようと言ってくれたためだ。
JASSOで補いきれない部分を補う給付型奨学金、3日で支給する貸与型奨学金と短期貸付。この3本で運用すれば、ひとりの退学者も生まないというのは単なるスローガンではなくなるのだ。
この制度をうちの大学職員は実質3日間で要項とQ&Aまで作って、ホームページにアップした。
なんと優秀な職員たち。
GW中に半分泣きながらやったみたいだったけど(・_・、)

他大学の奨学金担当者からもこっそり評価される

でも、実はもともと私みたいな奨学金素人の人間が発想した制度なので、よその大学に穴があるか見てもらってくれと、強引に聞いてもらった。
そしたら他大学で長年奨学金を扱っているらしい職員は「大学の予算や意思の問題があるので意見は言えないが、貸与奨学金とも併用して素晴らしい制度」だという評価するメールをくれたらしい。
うちの職員を疑った私がバカだった。
自分の大学の職員を信じて仕事をしていなかった自分を反省した。

原資計算をどうするのか?

たぶん、一番難しいのは原資計算である。
これは、大学で財務をやった人なら誰でもわかるだろう。
希望する人には原資計算の細かなノウハウまで公開してもいいのだが、ここでは結果中心に触れる。そんな高度なことでもないし。

シミュレーションの結果、振れ幅は約X,000万円から約Y億Z,000万円になった。
不確かな要素が重なるフェルミ推定だった。
例えば、今は5月。ここまでの申請者の情報しかないのだ。あと6、7月のJASSOの申請者数をどう読むのか?
母数がわかっても家計水準がわかるのはJASSOの審査後。それを第1~3区分にどういう比率で設定するのか。就業意欲で成績不良者を拾うときに採用者数をどういう比率で見るのか、とか。
で、とりあえず、採用比率を最低3割、半分の5割、最高10割とした。最大が問題なのだから。それでよしとしとこう。
それて計算したら、最大は約Y億Z,000万円であることはわかった。
最初、一年間の設計だったが、この試算を見て、とりあえず半年でキャップをかけることにした。動向を見ながら半年後も続けるかどうか判断する。新たな制度にすることも含めて。
このキャップで安心したのは理事長と経理の担当課長なんじゃないかと思う。
ただし、この試算には貸与奨学金の貸倒引当金は含んでいない。
これは学生を信用するからってロマンチックなってことじゃなくて、まだ設定していないだけ。決算までには時間があるのでその間に考えることにした。
でも、これは財務の人間の発想ではないと言われるだろう。

これまでにない困難な時期に必要なこれまでにない発想

余っている特定資産があるから、学生数で割って一律支給しよう。それでクレームも収まるだろう。見栄えをよくした数字にして圧倒しよう。他の理事も文句が言えない。それが普通の発想。

学生を救うとはどういうことか? そのためにわれわれに何が出来るのか?財務以外の知識も総動員して徹底的に考えよう。そういう発想が今、必要なのではないだろうか?

そのためには、そうだ、JASSOの奨学金を利用しようとか、緊急募金は泥臭くてもいいから本気で集めよう。オンライン授業で困るのは誰だ。受けられないネット環境のない学生だ。迅速に調査しよう。学生の13%か。それだけ分のパソコンとルーターを集めよう。何がなんでも集めよう。集められないからお金を一律支給なんて言う前に、本気で取引先全部に頭をさげよう。いつも偉そうにしているのにいまさら頭下げられないって? 何を言っている。学生のために頭を下げてくれ。13%分集めたら、それで無償で貸し出そう。宅配便もこっちでもつ。なにぃ~? 文科省の補助金は大学の資産が対象でレンタルには出ない? う~ん、そんならいったん買って、売るぞと交渉しろ。そんなアホな補助金制度あるか? 文部科学省にもわかるひとはいるはず。補助金制度を変えてもらおう。うちはネット環境あるから不公平だという保護者いたらどうします? そんなときは、こんな時期、困っている学生から助けましょう。困難を共有しましょうと言おう。そういう保護者の皆さんも、自分の子どもをそういう学生に育てましょうと言おう。バイトにあぶれた学生がいる? 集めて新入生の交流会や友達つくりをオンラインで手伝ってもらおう。一石二鳥! ぜんぶ積算していくら? なに、わからない? わからなくてもわかるように頭を使え。これまで使わなかった頭を使え! いや、使ってください。お願い♥ 

その上で、この時期、学生のためにどこまで財務リスクを負えるのか。バランスシートが汚くなってもやれるとこまでやってみよう。

財務担当理事は学生を救うためにその川を飛べるのか?

でも、その発想の転換さえすれば、設計できる政策ばかりなのだ。職を賭けて財務担当者がその川を飛べるか?

私が職を賭けてというのは、そういう意味なのだ。給付型奨学金制度に典型だが、これまでの発想なら生まれない政策ばかりを職員みんなが考えたのだ。そうみんなが。

実は私が奨学金担当に嫌われていると思っていたので、その職員には必要以上に丁寧に話し、知恵を貸してお願い♥と頼んだ。うちはワンマン組織ではない。命令で動くのを嫌う。でも、納得すれば職員は自発的に動いてくれる。休みでもコツコツ自分で仕事をする。

財務担当理事にしか出来ないことを覚悟するのと同じように、奨学金担当職員には自分しか出来ない仕事が実はわかっている。マスコミにリリースする職員にも自分しかメディアと大学をつなぐ仕事ができないこともわかっている。職員を信じて、自分にしか出来ないことをやる。

それは理事でも一般の職員でも同じなのだ。だから私は川を飛んだ。私にしか飛べない川を。

学生募集よりも大事なこと

実は私の働いている大学は来年、新たに3学部を設置する準備をしている。小さな大学に不釣り合いな大きな建物の工事も始まっている。それに高等学校のサッカーグラウンドやテニスコートなどを備えた総合グラウンドも建設する。お金に余裕はない。経理の担当課長は私の試算を見て、いやよく見なかったのか、第三号基本金をほとんど取り崩すことを提案してくれた。たぶん目には涙だろう(・_・、) でもなんとか資金繰りはできる。パチンコ店の経営者と気持ちは同じだ。

経理と広報の担当者で緊急募金を教職員、卒業生、一般から集める方法を考えた。私が指示したのはこれをマーケティング視点でやること。どうすれば集まるのか徹底的に凝ること。わざと綺麗なパンフは作らない。あわてて作った感を出せとか。泥臭くやれ、本気でやれ、と。でも、若い女性の視点でやってね♥と。そしたら広報の職員たちは封筒の表に、どうすれば封筒ごと捨てられずに開封してもらえるか、お願いのコピーを必死で考えた。

理事長と学長にはきれいな言葉でなくてよいので、自分の言葉で教職員に語りかけるメッセージを書いてほしいと依頼した。

ホームページのトップから3学部募集は下ろした。今、学生募集より大事なことがあると思ったからだ。

大事なのは財務担当理事が解任を覚悟して、こういうことを提言できるかどうかにかかっているのだ。これは理事長にも川を飛んでいただくことを意味する。

理事長は、理事長にしか飛べない川を飛んだ。勇気ある跳躍だった。

沖縄からのマンゴープリンでパート職員とも話が出来た

なにも出来なくて途方に暮れていたとき、このNoteに思いを綴ることくらいできるだろうと、書くことを勧めてくれた人がいた。大学の先輩だ。30年くらいいっしょに仕事をしたことがなく、疎遠だった。

その人が、感謝しているなら物くらい配れと助言してくれたことがある。感謝を形で示せと。そのひとは私の知らないうちに私の知らないところで、私の知らない苦難を経験して、そういうことを学んだのだろうと思った。

実はその人の知りあいの沖縄の店がこの不況でピンチだとか。それで沖縄からその店のマンゴープリンを取り寄せた。昨日、クール宅急便で届いたマンゴープリンを、奨学金設計に関わってくれた学生支援部門、経理部門、リリースしてくれた広報部門の職員たちに配って歩いた。

みんな喜んでくれた。今まで一度も話をしたことがなかった女性のパート職員とも話ができた。女性職員が笑っている職場っていい。それはたんに私がスケベなだけかもしれないね、とある女性職員にいうと、「局長がそういう普通の人ってわかるのがいいんですよ」と言われた。笑顔の職場はいい!

この制度設計に関わってくれたすべての職員にあらためて感謝する。

競争ではなく、協力が必要な時期

もしも、このNoteを読んで、うちの大学でもやってみたい。いや話だけでも聞きたいというところがあったら、すべてのノウハウを公開したいと思っています。他の職員にも同じことを言っています。

それで、こういうことをすべてやって必要なお金を文部科学省と政府に要求したいと思っています。

それなら、胸を張って政府にも要求できる。

それになにより、電子署名を集めた学生たちにも、わたしたちはここまでやった、あなたがたを救うためにすべてをやりつくしたんだと説明できるんじゃないかな、と思います。

だから、ごめん、学費は返せない、と言うことになるかもしれないし、

政府の答え次第では、よかった、一部返すよってことになるかもしれない。

そんなことを私学のみなさんとやってみたい。

反省すべきは誰なのか?

それは、あんな発言をする萩生田大臣であり、あんないいかげんなアンケートをして退学の不安を煽る学生たちであり、いつもと同じことをやって満足している私たち自身なのではないでしょうか。

最後までお読みいただいた皆さんに感謝します。

今からいっしょに行動しましょう。

まず、あなたの大学、短大、専門学校を変えましょう。

権限なんてなくていい。

気づいた人から動くのです。

いつも学生のそばにいて、学生とともにこの困難を乗り越える。

それで道は切り開かれます。きっと。

そう信じたい。

それが私のポエムです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?