マイナス×マイナス=プラスを20歳まで理解できなかった話

あるマッドサイエンティストが、私にこの本を紹介してくれた。受験に落ちて立ち直りが厳しい状況にあった私にこの本を勧めたやつなので、ここではマッドサイエンティストと呼ばせてもらう。

ノルウェイの森を「マイナス」の要素とすることには賛否両論あるかもしれないが、少なくとも私にとっては「マイナス」だった。通算で4回は読んだが、毎回同じとこで泣いてしまう。気分が上がることも、この本にはない。
ただ一つ、マイナス要素だからと言って、私がそれを求めていないことにはならないことを知ってほしい。あの本は私にはとても必要なものだ。

もちろん、計算のルールでマイナスにマイナスをかけたらプラスになることは知っていた。しかしどこか腑に落ちないまま、結局はマッドサイエンティストのおかげで理解に至った。

受験に落ちたあとの私に鬱文学を勧めたのはどういう意図だったのだろうか?かなり荒療治というか、ギャンブルな気がする。

ギャンブルだ、というのは、この計算が足し算であったら、マイナスにマイナスが足されて更なるマイナスになったら危険ではないか?という意味である。

大学を中退した後、親に頼み込んで浪人させてもらったのに落ちた私は、本当に自殺を考えていた。そんな状況でマッドサイエンティストが勧めたこの本では、自殺が軽々と描かれていた。見方によっては自殺幇助である。マイナス状態にある人が読んだら、フラっと飛び降りかねないような内容だった。

ただ、それが足し算ではなくかけ算だった。私はマッドサイエンティストによる奇跡的な化学反応でプラス状態になったのだ。

プラス状態でも、プラスにプラスをかけたプラスよりもマイナスにマイナスをかけて発生したプラスのほうが深みを感じる。

今の大学でも、ある友人に「何か重いものを経験したような雰囲気を感じる」と言ってもらったことがある。私がマイナスを2乗したプラスであることを察したのかもしれない。





宅浪はやめとけ