究明する会ニュース214号要約

<連載3 「スペイン風邪」と陸軍軍医学校 ~欧州戦争と「スペイン風邪」~> 
2022年11月11日 川村一之
・軍隊の移動が感染を拡大
 内務省衛生局の『流行性感冒』によると、海外の流行状況は1918年に1回目の流行があり軽症だったが2回目の流行が夏から秋にかけて起こり重症化した。翌年に3回目があったが2回目ほどの死者は出なかった。欧州戦争における連合軍の感染者数と死者数を国別に整理すると、仏軍が最も多いが、感染者に対する死者数の割合では米軍が多い。独軍の立場から見た戦争の状況は、レマルクによる『西部戦線異状なし』の中で、総力戦の悲惨さが描かれているが、その中に悪性感冒も出てくる。
 欧州戦争は数百メートルを隔てた塹壕戦である。持久戦になり、塹壕での生活を余儀なくされた兵士は、ネズミと虱に襲われる。悪性感冒だけでなく、虱によって媒介される「塹壕熱」にも悩まされた。
・「日独戦役」
 日本の軍隊では陸軍が患者数約16万人、うち死者2000人。海軍が患者数3万人弱で死者数400人。患者に占める死者の数は陸海軍とも1.6%、シベリア出兵の派遣軍に限ると、5%の死亡率。海軍では混合ワクチンが接種されたが、この当時まだウィルスの存在は知られておらず、原因の分からないインフルエンザに、効果があるわけがなかった。
・練習艦隊
 海軍の練習艦隊「磐手」と「浅間」は、3月にサンフランシスコに入港、4月1日にロスアンゼルスに入港するが、その頃「磐手」船内に「悪性感冒」が流行、3日には約500名の感染者を出した。6日にロスアンゼルスを出航、8日にサンディエゴ港に着く。その頃には「磐手」の感染は治まるが、「浅間」に伝染した。
・横須賀
 5月下旬には横須賀軍港に停泊中の軍艦「周防」に患者150余名が出て、「榛名」「若宮」「金剛」にも感染した。「金剛」では5月12日から15日までの間に400名の感染者を出している。
・地中海
 同じころ、遠く地中海では英国の輸送船を護衛していた第二四駆逐隊に熱病患者が発生。
 欧州戦争はサラエボ事件をきっかけに始まったが、イギリスがドイツに宣戦布告したのが1918年の8月、日英同盟を結んでいたので同盟国として参戦した。日本はドイツ疎開地の中国山東省やドイツ領の南洋諸島を攻略、英国は欧州戦線への軍隊派遣を日本に要請したが、それは断り、英国の輸送を護衛する駆逐艦を派遣した。
・陸軍軍医学校
 軍医学校はどのように対処したか。『五十年史』を見ると大正七年(1918年)に「知識の啓発に努めたり」とあるだけで、翌年には何の記述もない。、翌々年は流行性感冒を教科の一部に取り上げ、予防接種を交付した。
・毒瓦斯研究
 その3年間の『五十年史』で、最も多くを割いていたのは化学兵器研究。軍陣衛生学教室小泉親彦教官は欧州戦役で毒ガスが使われたことを知り、研究に着手、防毒面を製作した。
・『陸軍省統計年報』
 年報を見ると、陸軍の流行は1918年の5月から始まり、翌年の3月まで続いた。軍隊の流行は一般より早く、軍隊から一般社会に流行が拡大したことが分かる。
・水戸歩兵第二聯隊
 茨城県では1918年11月になって突然の流行を見た。水戸衛生病院長・清水秀夫らの報告によると、水戸市と土浦市の流行の発端は、シベリアに出征するために茨城を通過した仙台第二師団に属する山砲第一聯隊だった。
・混合ワクチン
 今回の流行性感冒について、原因は「インフルエンザ菌」説とそれ以外の細菌若しくは濾過性病原体説があった。ウィルスの発見は1926年、インフルエンザウィルスの発見は1933年、「スペイン風邪」がウィルスによることが分かったのは1995年になってからである。
 陸軍軍医学校、北里研究所、伝染病研究所、星製薬会社などが、それぞれ、肺炎双球菌、葡萄状球菌、連鎖状球菌等々の混合ワクチンを製作したが、効果はなく、副反応が大きかった。
(続く)
<フィールドワークチーム活動報告> 島村英子
 3月26日の「お花見ウォーク」は市ヶ谷・戸山コース。ご案内いただける長谷川さんは新宿区議時代から近くにお住まいで、防衛省近隣の事情にお詳しい。長谷川さんのブログを開けば一目瞭然
「葵から菊へ&東京の戦争遺跡を歩く会(https://blog.ne.jp/akebonobashi1937
人骨の会の手作りマップ作製(作成者:島村)。実は昨年からwamでボランティアをしているが、地図には固有名詞を載せていない。それも含めてマップに反映した。当日は配布したい。
 2月19日、集合の前にメトロのコンコースに「江戸歴史散歩コーナー」がある事を発見。1時に市ヶ谷駅を出発。亀ヶ岡八幡宮、長泰寺、防衛省の裏、児玉源太郎屋敷跡、石井四郎の墓がある月桂寺などを廻り、陸軍経理学校があった東京女子医大病院で解散。
<お花見ウォークの案内> 内容省略

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