究明する会ニュース213号要約

<連載2 「スペイン風邪」と陸軍軍医学校 ~「スペイン風邪」の起源~> 川村一之(2022年10月14日記)
・定説は米国浙、中国山西省説も有力
 「スペイン風邪」は1918年5月、スペインで報告された。1919年のパリでの国際会議では、1918年3月に米国で発生し、第一次大戦で米軍から欧州、亜細亜、豪州にも伝播したというのが定説になっている。
 日本での流行は同年8~9月からと内務省衛生局の記録にはあるが、一方で、5月に先駆的な流行があった。
・「角力風邪」
 1918年の大相撲5月場所では、11名の力士が集団感染し、その元は3月の台湾遠征時の感染であった。この時は死者まで出している。江戸時代以来、相撲部屋とインフルエンザは縁がある。
・「山西省」起源説
 米国で発行されていた日本語新聞「日米新聞」には、1918年1月にすでに米軍間に肺炎が流行していた。その記事には、17年12月に「肺炎北支那に流行し多数死亡 山西省と蒙古との境界に沿ふて激烈に」流行したとある。これがインフルエンザだとしたら中国起源もあり得る。
 いずれにしろ、世界的な流行は軍隊の移動によってもたらされた。
・「支那労働隊」
 辛亥革命を経過してアジアで初めて共和国となった中国は、当初欧州戦争に中立の立場だったが、1917年に聯合国側の一員として英仏に10万人以上の労働者を派遣した。これには直隷省(現河北省)天津一帯に大洪水が起き、数百人の被災者を出したことが影響している。国内労働力が不足した英仏と、仕事にあぶれた中国労働者との利害が一致した。
・カナダ経由で欧州へ
 中国人労働者は、中国からカナダ経由で英国南部に到着、そこからフランス北部へ送られた。カナダの歴史学者マーク・ハンフリーズによると1917年からカナダを横断してヨーロッパに送られた中国人労働者は、インフルエンザに似た症状を各地で訴えていた。当時は「肺ペスト」と考えられていたが、その死亡率はむしろインフルエンザに近かった。
・「肺ペスト」騒動
 ハンフリーズ説について、日本側の記録も調べた。第一報は「ペスト」であった。山西省の外国人宣教師の報告を受けた北京ロックフェラー財団の医師クラークからの情報が元になっている。「ペスト」の流行は、1917年12月の中央アジアから、2月の第二回報告では、山西省、太原、直隷省、河南省と広がる。翌3月の医学博士の北島多一の報告では、北京などの「肺ペスト」発生の風評に対して疑問を呈している。
 結局、1017~18年のペスト流行は、ペストとインフルエンザの同寺発生の可能性もある。むしろ、通常は腺ペストが重症化して肺ペストを引き起こすという機序を考えると、肺ペストだけが発生し、鼠の駆除も行われていないなど、ペスト発生そのものも疑われる。
・「苦力収容所」
 青島守備軍民政長官秋山雅之介の「欧州派遣苦力ノ状況」(1919.7.4)や「青島軍政史」などを見ると、英仏が本国に中国人労働者を輸送し始めたのは1916年。山東省では水害が起こる前の旱魃が移民の原因。中国人労働者の多くが欧州に向かったのは山西省で悪性感冒が流行する前だった。
・「青島守備隊」
 中国人労働者は流行性感冒に罹患していたのか。
「青島予備軍肺ペスト予防実況報告の件」(1918.12.9)によると、守備隊は山西省から山東省へのペスト伝播に対応するため、1918年1月には青島守備隊伝染病予防本部を設置し、済南守備隊にも支部を設けた。英仏に送られた労働者は、ペスト予防のため徹底した検疫を受け、2名の天然痘患者が発見され全員に種痘が打たれたが、他の感染症も発見されなかった。市中には肺炎による死者が確認されているが、流行はしていなかった。
結論としては、日本側の記録を見る限りハンフリーズ説は支持できない。
・「新型コロナウィルス」の起源論争
 武漢市で最初に新型肺炎患者と報告された陳氏の発症日は、2019年12月8日。フランスでは、中国の発表前にコロナ感染例があった(2020年5月5日BBC報道による)。香港の英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」(2020年3月13日)では、中国で11月17日にはすでに感染が起きていたと伝えた。この頃から起源論争が起きた。WHOでは、2021年1~2月に調査に取り組み、3月に報告書を発表。研究所漏洩説は否定。「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」の報道も否定、華南海鮮市場の動物感染の証拠も見つからなかった。
(以下、次号)
<「笹の墓標展示館」再建を、「究明する会」も応援!> 鳥居靖
 北海道朱鞠内湖畔の光顕寺には、強制連行でダムや鉄道建設に動員された朝鮮人労働者の遺体や遺品が保管されていた。2020年の豪雪で倒壊。人骨の会は同展示館の再建を支援する。
<DNA解析で人類の起源と進化の解明に光当てる ノーベル医学生理学賞のペーボ氏は知日家> (Science Portal(https://scienceportal.jst.go.jp/)から抜粋)2022.10.13 内城喜貴/科学ジャーナリスト、共同通信客員論説委員
 今年のノーベル賞は、DNA解析に基づく人類の進化に関する研究で、ドイツ・マックスプランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ教授に送られた。
・我々の祖先とネアンデルタール人は交雑していた
 ペーボ博士は、ネアンデルタール人の骨から、1997年、細胞小器官ミトコンドリアDNAの塩基配列(約1万6500塩基対)を全て解析し、ネアンデルタール人が現生人類の直系祖先ではないことを確かめた。2000年代に入り、「次世代シークエンサー」により核DNA約30億塩基対の全配列を解析した。その結果、欧州やアジアに住む現生人類の1~4%がネアンデルタール人から受け継がれていることを明らかにし、交雑の事実を突き止めた。その後、2008年にシベリアで発見された「デニソワ人」の核DNAの全塩基配列を決定し、メラネシアや東南アジアの現生人類集団の4~6%がデニソワ人から受け継がれている。
・「古代ゲノム学」を確立し古人類学に大きな貢献
 2020年、国際科学技術財団は、「現生人類の起源を探る古人類学の研究を一変させ、人類学や考古学、歴史学など現生人類に関わるすべての学問分野に大きなインパクトを与え、その発展に寄与した」理由で、日本国際賞をペーボ氏に贈った。今年(2022年)のノーベル賞授与も同じ理由である。
<不二出版から出版物紹介>
「七三一部隊 1931-1940 「細菌戦」への道程」川村一之著、3960円
「黒死病-加藤秀造小説集」西田勝編、3135円
<お花見ウォーク>
 2023年3月26日(日)12時50分集合13時出発
 JR市ヶ谷駅改札口集合
  市谷・戸山コース ~尾張藩屋敷跡が近代日本において何に利用されたか?~
 案内 長谷川順一 
 参加費 500円+都営バス運賃(防衛省前~東京女子医大病院前)
 参加申込(要予約先着30名) 080-6602-2913(鳥居)/メールjinkotsu731@yahoo.co.jp 
<備忘録>
1月22日(日)13時30分~16時30分、ウィズ新宿3階会議室、参加者6名、テーマ「陸軍軍医学校」(報告者;鳥居靖)
 次回 2月18日(日) 内容は主催者に問合せ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?