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村上浩康監督、待望の新作公開決定!

 村上監督の新作『たまねこ、たまびと』の情報が解禁されました。

 そこで今回は解禁された情報をもとに、どんな作品になるのか、観客として心の準備をするために文章でまとめました。妄想の域を出ないかもしれませんが、おつきあいいただければと思います。

3年で完成した新作『たまねこ、たまびと』

 村上監督が新作に向けて準備をされていく中で、対象として選ばれたのは小西修さんというカメラマンの方でした。今回公式サイトで公開されたインタビューの中で、どのように小西さんと知り合われたのかを語ってらっしゃいますが、Twitterで撮影を進められていることを発信されている時に、今回はいったい何年かかるのだろうかと心配していました。村上監督も『流』は10年近く時間をかけてらっしゃいますが、小西さんの活動の様子から察するに、王兵のドキュメンタリーではないですが、大長編になってしまうのかも?なんて思ったぐらいです(笑)。しかし今年になって新作が2022年後半にという発言をされて、その時は???という気持ちだったのが正直なところでした。ただどうやら村上監督は映像を整理していく中で、切り口となるものを見つけられたのかも知れません。ではその切り口につながるかもしれない(?)「ここが気になるポイント」を5つあげたいと思います。

多摩川ユニバース

 『東京干潟』と『蟹の惑星』がもともとは1本の作品が分かれる形になったものです。しかし今回は明らかに別の、そしてこの2作が出発点になった正真正銘の姉妹作でありスピンオフと言えます。さらに最近ではマーベルユニバースといった同一世界での物語が製作されていますが、この作品は正真正銘の「多摩川」をめぐるユニバースの物語となるはずです。予告編をみてもシジミのおじいさんは登場されるようですが、どう繋がるのかが興味深いところです。

本物の猫映画

 『東京干潟』でも大活躍(?)だった猫たち。この映画は間違いなく猫映画になりそうです。ただし、かわいい猫たちをかわいく描く類いにはならないことでしょう。最初にポスタービジュアルをみた時にはドキッとしました。この灰色の猫を片目がありません。そして今の世の中には、そんな猫たちがメディアに登場することなんて滅多にないでしょう。さらには『東京干潟』をみた方はシジミのおじいさんを想起された方もいらっしゃるかもしれません。虐待されて生死の境をさまよう環境の猫たちをどんな視点で描くのか。気になるところです。

自転車撮影と環境音

 『東京干潟』の中で印象的だったのが、自転車に乗るシジミのおじいさんを撮影した場面でした。インタビューを読むと、今回も小西さんの活動を捉えるためには自転車が不可欠だったようです。また『東京干潟』は環境音の演出もすごくこだわってらっしゃいましたが、今回も「整音」のスタッフさんがクレジットされているところからも、またまたそのあたりの技術的なポイントで、映画としての「語り口」を工夫してらっしゃるのかなと思います。

「発信者」を見つめる

 小西修さんを対象とされると聞いた時に、今までの村上監督作品との「違い」を予感させる部分があります。取材対象となる人物が高齢の男性ではないとかもありますが(汗)、一番は小西さん自身が職業として「発信者」であり、社会的な関わりが積極的な人物であるということです。映画監督の視点が、そんな小西修さんという人物をどう捉えるのでしょうか。

人間の「負」の側面

 今回一番気になるところがここです。『流』『無名碑 MONUMENT』『東京干潟』『蟹の惑星』と自然と人間の関わりを見つめたきた監督ですが、作品の中で、人間という存在や様々な開発という行動を、自然と共に生きてきた人を通して描いてきました。その姿は顔が見えない存在であり、誰かの力だけでは簡単に止められない時代のうねりのようなものであったと思います。しかし今回、猫の運命を左右しているのは間違いなく人間であり、しかもはっきりとした「顔」を持つ存在であるかと思います。今までの村上監督作品は、自然の中で人が共に生きる姿を描く時に、単純化した怒りや憎しみを表出させたことはありませんでした。しかし、本作は人間の「負」の側面を描くことは避けて通ることができないかと思います。あの虐待された猫たちとそれを保護する方々を捉えるにあたって、どんな視点を獲得されたのか。楽しみにしている部分です。

「人と自然が共生して生きていくことが難しいことはわかっている。」の続き

 この文章に続く物語を、多くの映画が紡いできました。村上監督もそのひとりです。宮崎駿監督の『もののけ姫』で、洞穴の中で意識を取り戻したアシタカが、モロの君とやりとりをする場面があります。アシタカは「森と人が争わずに済む道はないのか」と尋ね、自分を介抱してくれたサンについての意見を述べますが、「お前にあの娘の不幸が癒やせるのか」とモロの君から一喝されます。私はこの作品が好きですが、ある意味、とても優等生な描き方で、「人と自然が共生して生きていくことが難しいことはわかっている。」のあとに、「それでも人と自然は共生していかねばならない」と紡がれたと思います。間違ってはいないけれど、やっぱり優等生な感じです。

 村上監督はこれまでの作品で「人と自然が共生して生きていくことが難しいことはわかっている。」の後に、「難しいけど、その前にもっと知ってほしいことがあるんです」と、ドキュメンタリーという手法で描いてきました。今回はどんな物語が紡がれるのでしょうか。『東京干潟』公開以前と大きく違うのは、村上監督の新作を楽しみにされている方の数が桁違いに多くなったことでしょう。でもきっと村上監督はご自身のスタイルで、再び魅力的な作品を作られたのではないかと思います。どんな物語が紡がれたのか、そして公開後にどんな反響があるのか、みなさんと一緒に公開日を楽しみに待ちたいと思います。

じんけしが書いた村上監督についての文章です。
村上浩康監督『無名碑 MONUMENT』のこと
私の感想『東京干潟』
私の感想『蟹の惑星』
ドキュメントを生きる -村上浩康監督のこと-

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