BB漫画「睡魔のいる夏」の制作にあたって
制作中に、やる気やヒントをもらった動画
「蓮の葉の上で」虎の子兄貴
「目目連の緒」黒占兄貴
「AIの力を得て拓也が世界を支配する」遺骸兄貴
「タクヤvsメスガキ 投稿者:ビルダー拓也」いしゅーしん28@二代目兄貴
1.「蓮の葉の上で」虎の子兄貴
幾重にも重なった伏線や台詞運びが、一つの終着点に収束する。
視聴後の頭の中はすっきりと片付き、そこには純度の高い感動だけが残されている。登場人物のキャラの濃さが物語の質を高めているのに、物語のためだけにキャラが動いている。
これがどんなに凄いことなのか、悟ることができたのは、BB漫画のシナリオの修正に入ってからだった。
この過不足のない、隙のないシナリオに、一歩でも近づくためには……。
その思いから、BB漫画のシナリオを書き、加筆・添削するにあたって、私が一番こころに留めたのは、「自分はこの漫画で何を描きたいのか」になりました。
私が今回描きたかったシーンは、
「拓也さんが夏の青空を見上げて、晴夏さん、と一言残し、二度と目覚めない眠りにおちる」というものです。
「間に合わなかったやりきれなさ」を芯にした、「今はただ夏の空がよく晴れていて、思い起こす彼女の名前は、晴夏、だった」という率直な事実。
AIのべりすと(トリンさま)やマサヒコの行く末、そして、病的な価値観と独断で街一つの命を奪ってしまうような晴夏と、条件さえ揃ってしまえば親友のレオまでも彼女に殺され得る拓也は、そもそも友人になれるのか、という観点。
そういった物語の背景も描きたかったのですが、そこを膨大に加筆しても、描きたかったシーンの共感性を効果的に強めることは出来ないので、ばっさりと削りました。
2.「目目連の緒」黒占兄貴
世界を洗うかのように降り注ぐ夏の陽射しが強めるものは、自身から伸びる影の濃さなのだろう。顔をあげれば祝福が得られるはずなのに、またこうして戻らぬ過去を覗き込むように俯いてしまう。
視線の落ちる膝元には、箱がある。
彼が作る影ゆえに彩度を落とす、堅く緒を結んだ箱がある。
こうして、また、彼らに仄暗い晩夏がやってくる。
「作ろう」と思わされた作品です。
「私も作ろう」。
「睡魔のいる夏」(短編集「あるいは酒でいっぱいの海」筒井康隆 より)を拓也さんたちでやりたい、と考えついたのは、この作品が投稿される数日前のことでした。
マネヱヂヤアの名前が、"晴夏(はるか)"であることに(そう、当て字されたのはエステルボンド兄貴のはず。以下、兄貴の漫画の引用)、当時の私の創作意欲は高まっていました。
「晴夏」は、とても魅力的な、いい名前です。
呼ぶたびに夏の青空が浮かびます。その青空は、人によってきっと違う。
暑さに毒づきつつ看板を見るために顔をあげ、ビルの大群から垣間見えた青空、目に汗が入るのに顔をしかめつつ、ふと見上げると木陰の合間に見えた青空。
ちょうど創作を始めた季節も夏で、始めた漫画を一区切りさせたときに、「次に作るなら『睡魔のいる夏』がいい」と、叶えるつもりのない夢のひとつとして呟いていました。
そんな折に、特に構えずに再生したのが、この動画です。
そのときの自分の感受性の感度が高かったことも拍車をかけましたが、動画の世界にこんなにも没入することができたのは、もちろん黒占兄貴の手腕に依るものでした。
視覚と嗅覚を乗っ取る文章。動画全体に一貫して張り巡らされた、夏の午後に相応しい、一言では片付かない透明な重苦しさ。
動画を最後まで視聴したあと、自身の力量や制作の大変さなども忘れて、「睡魔のいる夏」の構想を始めました。
映画を一人で観に行って、終わった瞬間に立ちあがって真っすぐ家に帰って、時間を忘れてノートに鉛筆を走らせるような、いい体験でした。
3.「AIの力を得て拓也が世界を支配する」遺骸兄貴
「AIのべりすとに人格が芽生える」というアイデアは、こちらの動画からいただきました。
大変重く血なまぐさいホラーなシナリオなのですが、それだけでなく、タクヤさんの怪文書風の文章がその現実と乖離していて、そこにまた違った方面の怖さを感じました。
4.「タクヤvsメスガキ 投稿者:ビルダー拓也」いしゅーしん28@二代目兄貴
「マネヱヂヤアのキャラが途中で変わる」、というアイデアはこちらから頂きました。
初視聴時は「このメスガキちゃんがマネヱヂヤアになる!?すごいアイデア!」と驚きましたが、そこにいたるまでの、メスガキちゃん側の境遇と拓也さんの境遇の対比もすごく良かったです。このふたりはこれから何があろうが最強なんだろうな。
イラスト素材提供元紹介文
レオと水没紳士マサヒコ:エステルボンド兄貴
メカマサヒコ:スケメイド兄貴
1.レオと水没紳士マサヒコ:エステルボンド兄貴
レオの立ち絵とマサヒコさんの立ち絵をお借りしました。
丁寧な厚塗りのイラストであることに何度も助けられました。陰影や明暗などの画像合成の効果の相性が抜群によい!
表情の差分が多いことも有難かったです!メカマサヒコさんの素材も助かりました。
2.メカマサヒコ:スケメイド兄貴
メカマサヒコさんの設定をお借りしました。
「睡魔のいる夏」をSFで描くにあたって、メカマサヒコさんには大変お世話になりました。ありがとうございました!
最後に
BB漫画のメリット・デメリット
最後に、動画作品と比較して、BB漫画制作の良いところ、悪いところを書いてみます。
いいところ
・慣れれば1時間で1ページ作れるので、モチベーションの維持がしやすい
・立ち絵と背景とコマ割りと吹き出しの関係をパズルのように考えれば良くて、声とモーションとBGMについては考える必要がない
・ページを割り込ませて修正することができ、突然の場面転換、シナリオ修正に強い
・動画ではないので、キャラや背景の遠近をそれほど意識しなくてもよい
・動画編集の技術が要らない
・背景がコロコロ変わっても、動画より目立たない
・ページの上から直接、上書き出来るので、立ち絵に変化をつけやすい
わるいところ
・見せ場を作りにくい(漫画だと、1ページ丸ごと使っても、見せ場になりにくい)
・ニコ動コンテンツの創作物としては、漫画はやはり相性が悪い(コメントで遊んでもらうことが難しい)
・本当の所、サウンドノベルのような動画を作った方が、漫画を作るよりいいことは多い(蝉の鳴き声やキャラクターの声を入れられる、どういうシーンなのか淫夢の人たち相手ならすぐに伝わるBGMやBBを入れられる、「ここでキャラが画面から消えた」ということなどをシンプルなモーションで簡単に伝えられる、ということは大きい
以上です。
この作品に関しては、BB漫画というものが私にとって最適解でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。