「ウマ娘」ユキノビジンの出身地を特定する

はじめに

 競走馬擬人化コンテンツ「ウマ娘」が今、人気を博している。
 詳細な説明は省くが、ゲームにしろ漫画にしろ、実際の競馬に登場した競走馬やその史実に基づいたストーリー展開がなされている。

 この中に、ユキノビジンというキャラクターがいる。現実では、地方・岩手競馬でデビューしたのちに中央競馬へ移籍し、一線級の相手と渡り合った人気馬だ。

 「ウマ娘」コンテンツ内でも、岩手出身のキャラクターを前面に押し出して描かれる。岩手競馬のファンである筆者・ジンボーとしては、見逃せなかった。

ユキノビジン号(netkeibaより引用)
ウマ娘のユキノビジン(ウマ娘公式より引用)

 その一方で、かねてから抱いていた疑問がある。それは、「ウマ娘のユキノビジンは、岩手の中でもどこの出身なのだろう?」という点だ。

 「サイゲの人そこまで考えてないと思うよ」と言われればそれまでだが、それならそれで好都合だ。様々な情報をもとに、自分が特定するまでである。

「盛岡出身」と「村」の矛盾


 上の画像は、公式ホームページに掲載されているユキノビジンの紹介だ。

 細かいキャラクター紹介は省くが、出身地についてここからわかることは、「岩手の田舎出身」「実家は農家」の2点。ウマ娘において、明確に出身地が明かされているキャラクターは少ない。

※競走馬はたいてい北海道生まれですが、ウマ娘のキャラクターにはそれ以外のバックボーンも含まれているので、北海道生まれとは限らないようです。

ゲーム内のセリフ

 さらに上の画像のとおり、ゲーム内では「盛岡出身」と明確に記載されている。したがって問題は、盛岡市のどこの出身であるかになる。

 しかし一方で、ある矛盾が生じていることにお気づきだろうか。
 上の画像と合わせ、次の画像も見てもらいたい。

故郷に関する、ユキノビジンのモノローグ

 ユキノビジンは自らの故郷を、「山奥にあるちっちぇ村」と語っている。
 盛岡市出身なのに、なぜ「村」なのか? これが一つの重要な点となるだろう。

 まず、「村」の定義について、「小学館 デジタル大辞泉」には次のとおり記載されている。

  ①むらざと。いなか。 ②地方行政区画の一。

 このとおり、「村」という単語は「集落」と同じ意味合いとしても用いられうる。田舎のコミュニティ等を指す言葉として「ムラ」という表記がされるのも、ここからくるのだろう。

 これを踏まえて筆者・ジンボーは、ユキノビジンの出身地について3つの仮説を立てた。

①かつて盛岡市に合併された、自治体としての「村」
②一定の広域圏として見た「盛岡」に含まれる、自治体としての「村」
③盛岡市にある、いち集落としての「村」

 これらの仮説を、次の段から深掘りしていこう。

仮設①の検証

 この段は、「過去に盛岡市へ合併された村」がユキノビジンの出身地ではないかという仮説について検証する。

 盛岡市のホームページを確認すると、盛岡市はこれまで6度の合併を行い、9つの村を編入している。合併された市町村は以下のとおりだ。

昭和3年…米内(よない)村
昭和15年…厨川(くりやがわ)村
昭和16年…本宮村・中野村・浅岸村
昭和30年…梁川(やながわ)村・太田村・雫石町の一部
平成4年…都南(となん)村
平成18年…玉山村

 もしこの仮説が正しければ、上記のうちいずれかの村がユキノビジンの出身地と判断できる。それぞれがどこに位置するかは、各自googlemap等で確認してほしい。

 とはいえ、昭和30年までに合併された村は除外していいだろう。なぜなら今となってはほとんどが市街地であり、「山奥にあるちっちぇ村」にはほど遠いからだ。

 旧浅岸村・旧梁川村は山奥でこそあるが、岩手県民であるジンボーの感覚として昭和30年に合併された村を、未だに村として考える県民はまずいない。
 さらには旧都南村も、現在は市街地の一部として栄えつつある。

 その一方で、旧玉山村は全域が山間部に位置している。西端だけは幹線道路にほど近いが、それでも十分「山奥にあるちっちぇ村」には該当する。

盛岡市玉山地区(盛岡市観光情報サイトより引用)

 したがって、仮説①が正しければ旧玉山村のどこかになる。ここまで検証したところで、一旦次の仮説に移りたい。

仮説②の検証

 札幌市周辺の市町村が「札幌」に含められたり、名古屋市周辺の市町村が「名古屋」に含められたり。また、いわゆるベッドタウンが、隣接する大きな街の一部としてとらえられるケースはままある。

 このように、ウマ娘でいう「盛岡」がこの広域圏としてとらえられているとしたら。実際には盛岡市ではない、その周辺の村まで視野を広げなくてはならない。

 なお、昭和30年ひいては昭和の大合併で消滅した村については、仮説①と同様の理由から取り上げないこととする。

 以下は、いわゆる「平成の大合併」で合併された市町村も記載した、岩手県の地図である。

 隣接自治体に合併された玉山村・川井村。H26年に単独で市制施行した滝沢村。そして前述した、H4年に合併された都南村。
 平成以降に存在した盛岡市に隣接する自治体の中で、村は4つあったことになる。

 都南と玉山は前述のとおりであるから、説明は省く。この章では、旧滝沢村と、宮古市と合併した旧川井村について調べよう。

滝沢市ホームページより引用

 滝沢は、岩手の名峰岩手山を擁する自治体だ。山奥というよりもふもとというべき地域だが、山間部には変わりない。
 その一方で盛岡のベッドタウンとして、単独で市制施行ができるほど栄えた地域でもある。そのため、滝沢を「山奥にあるちっちぇ村」と言えるかどうかは、一考の余地がある。

宮古市川井地区 ライブカメラより引用

 川井は玉山同様、まごうことなき山奥にある。現在は沿岸の都市である宮古市の一部になったものの、未だに盛岡との縁もある地域だ。標高の高い場所さえ越えれば、盛岡競馬場にも近い。

 そして面積そのものは非常に広いが、人が住む地域はごくごく限られている。そういう意味では、小さい村という言いようもある。

 したがって仮設②を支持するならば玉山村と川井村が本線、滝沢村が次点となりうる。

仮説③の検証

 この仮説は、「村」は「集落」と同義であるという考え方だ。それに従うと、導かれるユキノビジンの出身地候補の条件は、「盛岡市内にある、山奥の小さな集落」ということになる。

 とはいえ、山奥の小さな集落など盛岡にいくらでもある。
 そのうえでさらに候補を絞るには、ウマ娘のコンテンツ内で描かれているユキノビジンの設定をさらに深掘りする必要がある。

 その手がかりとなるのは、ゲームではなく漫画のほうにあった。

©cygames/浅草九十九

 漫画「うまむすめし」より、ユキノビジンが親から届いた荷物を確かめる一コマだ。

 ユキノビジンの実家が農家であることに加え、隣の農家もりんごを生産していることから、まず農村というべき地域と見ていいだろう。

 だが、それ以上に注目に値する点がある。それは、隣の農家がりんごをジュースに加工できる設備を使えるということだ。しかも、右上のコマに注目いただきたい。

 みんなで飲めるほど、たくさん送られているのだ。この情報だけでも、ユキノビジンの出身地を特定するうえでは重要なポイントになる。

 まず、ここからわかるのは、「隣の農家」はりんごの生産もしつつそれなりの量のジュースを加工できる設備を使用できるということだ。農家としては規模も環境もかなり恵まれていると言える。

りんご搾汁機の見本(池田機械工業㈱ホームページより)

 しかしそれは、りんごの生産が盛んな地域の中でもひとつかみどころか、ひとつまみ程度の存在だ。
 リアルな線としてはりんごの生産のみを行い、設備を備えた加工組合に加工を依頼しているのだろう。

 いずれにせよ、そうした加工組合もりんご生産が盛んでなければ生まれない。
 つまり、ある程度りんごの生産が産業として根付く地域でなければ、この規模のりんごジュース加工はできないのだ。

  したがって、以下のような結果が導き出される。

仮説①で挙げた玉山村、仮説②で挙げた滝沢村・川井村でりんごの生産が行われていなければ、これらの仮説は間違っている

  以上を踏まえ、仮説③の調査を続けよう。

 盛岡周辺でりんご生産が行われている地域は、どれだけあるのか? 
 それぞれの自治体のホームページ等を調べたところ、盛岡市と滝沢市でりんご生産が行われていることがわかった。

 ただ、滝沢市のりんご園をgooglemapで見てもらえればわかるように、岩手山のふもとを通る東北自動車道に沿って果樹園が広がっている。
 それなりに開発された場所であり、これでは山奥とは言い難い。

滝沢の主なりんご園

 それでは、盛岡はどうか? 盛岡のりんご生産地域は、主に北上山地沿いに点在している。滝沢のそれよりも、山間部と呼べる地域だ。しかも盛岡競馬場にも近い。

盛岡の主なりんご園

 そして、これまでの仮説で候補として挙げた旧玉山村と旧川井村は、りんご生産の様子が見られない。
 旧滝沢村はりんごが生産されているものの、山奥の村というには厳しい。 
 
 したがって、よりコンテンツの設定と現実に即した出身地に適合するのは、やはり盛岡市。仮説③がもっとも有効であろう。
 次の段では、仮説③の観点から結論を導きたい。

結論

 ユキノビジンの地元が山奥である事実も踏まえてまとめると、出身地にふさわしい「村=集落」の条件は以下のとおりとなった。

①盛岡市内
②北上山地の山奥にある
③りんごの生産が行われている

 以上をもって、これらの条件を最も満たす地域が決まった。

 盛岡市の南端に位置する、「大ケ生(おおがゆう)地区第11地割」である。ここを、ユキノビジンの地元として特定したい。

大ケ生地区第11地割 遠目から見るとこの辺

 なお次点としては、盛岡競馬場にもっとも近い集落の一つである、「川目地区第3地割」を挙げる。

川目地区第3地割 遠目から見るとこの辺

 この地区は、岩手競馬からデビューしたユキノビジンのキャラクターにも合うので、大ケ生地区と比べどちらがふさわしいか非常に迷った。

 評価を分けたのはただ1点、「どちらが農村っぽいか?」であった。
 大ケ生地区はりんご園だけでなく水田もあるが、川目地区はりんご園以外の農地が少ない。

大ケ生地区の地図
川目地区の地図

 よりわかりやすいステレオタイプな農村のイメージとしては、水田もあるほうがより理想形だろう。
 一般的なイメージの田舎として大ケ生地区に若干軍配が上がったものの、極めて難しい判断だった。

 以上をもって、ユキノビジン出身地特定の研究を終わる。本研究が、ユキノビジンひいてはウマ娘にとって、聖地追加の一助になれば幸甚である。
 加えて、盛岡競馬場にお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてはいかがだろうか。

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