Wordで組版はNG!? 専門知識がないと組版しちゃダメ?
どうも、『人文×社会』の中の人です。
今回は、組版作業者から見た、Microsoft Wordを使った組版の是非についてご紹介していきたいと思います。
Wordはワープロソフトでありながら、写真を配置したり、ヘッダーやフッターをつけたりと、けっこうレイアウトに凝ることができます。これをそのまま組版に利用することはできないのでしょうか? 以下、組版作業者からの率直な意見を述べていきたいと思います!
組版作業に使えるツール
組版作業に使えるツールは、大きく分けて3種類あります。
1つ目は、InDesignやAffinity Publisherなどの組版専用ソフト。有料なだけあって非常に多機能で、商用としてもよく使われます。中でも、InDesignはシェアが高く、組版を副業にしたい場合には、InDesignのスキルを身につけておく必要があります。
こうした組版専用ソフトでは、下図のように実際のレイアウトを見ながら作業することができるため、あれこれ試行錯誤しながらデザインの微調整をすることができます。
2つ目は、TeXという組版システム。有志が開発し、インターネット上で無料で配布しているものです。自分のPCにTeXの環境を構築すれば、自由に使うことができます。
TeXファイルは、テキストファイルにマークアップ言語で記述したものです。これをDVI形式のファイルに書き出し、さらにそこからPDFファイルを生成します。
TeXの場合、PDFファイルを生成してみないと、どんなレイアウトになっているか見ることができないので、InDesignのような直感的な操作はできません。その代わり、有志が作成しているテンプレートが無数にあるので、それを利用すれば、一定のフォーマットのPDFファイルを作ることができます。
また、TeXは数式をきれいに表現することができます。この点は、InDesignでは再現することができません。そのため、理工系の学術論文は、TeXで組版されることが多いです。
ちなみに、TeXは「テフ」と読みます。古典ギリシア語で「技術」を意味するτέχνη(テフネー)が語源だかららしいです。(ただし、厳密に言うと、古典ギリシア語は時代によって発音が違います)
3つ目は、今回の話題となるMicrosoft Wordです。WordにもPDFで書き出す機能があるので、きちんとレイアウトした上でこれを利用すれば、組版をすることが可能です。
実際、学術雑誌の中には、Wordで組版したものも少なからずありますし、それを印刷所に入稿しても、問題なく印刷してくれます。
Wordの組版はNGなのか?
しかし、組版作業者の中で、積極的にWordでの組版を選択する人は、おそらくごく少数だと思います。私自身も、できればWordでの組版は避けたいと思っています。
これは、別に「Wordなんて誰でも使えるツールなんだから、そんなので組版するなんてトーシロだよ!!」とか思っているわけではありません。
むしろ、普段InDesignを使っている立場から言えば、実はWordでの組版の方が難易度が高いんです。Wordのクセを熟知していなければ、思ったとおりのレイアウトをすることができません。
例えば、以下の二つのサンプルを見てみてください。
▼ サンプル1
▼ サンプル2
全く同じ文章なのに、改ページされる箇所が異なっています。
これは、以下に示した「段落」パネルの設定の違いによるものです。
赤矢印がついている「改ページ時1行残して段落を区切らない」のチェックボックスにチェックを入れると、サンプル1のようになり、チェックを外すと、サンプル2のようになります。
Wordで組版する場合には、こうした設定がすべてのWord原稿で同じになるようにそろえなければいけません。もちろん改ページ・改行の設定だけでなく、インデントや文字体裁の設定を含めたすべての設定について、そろえる必要があります。
どれか一つでもチェックボックスが誤っていると、統一したレイアウトになりません。
もしWordで組版するならば
そのため、Wordで組版をする場合には、あらかじめテンプレートのWordファイルを用意しておき、そこに原稿を書いてもらうという形式を採ることが多いようです。
そうすれば、投稿されたWord原稿をあとで一つずつチェックする手間が省けます。
しかし、それでも執筆者の中には、Wordファイルの設定を勝手に変えてしまう人が必ず出てくるので、結局一つずつチェックしなければならないことになりがちです。
しかも、その際、Wordのクセを熟知していなければ、なぜレイアウトが崩れるのか、要因を突き止めるのに時間がかかってしまいます。
こうしたことから、組版作業者としては、なるべくWordでの組版は避けたいと思っています。
どうしてもWordで実現できないこと
さらに、組版上Wordではどうしても実現できないこともあります。
その一つが、ルビ用の字形です。
これは、以前「フォントにルビ用の字形があるって本当!?」という記事でもご紹介したことですが、フォントファイルに含まれているルビ用の字形は、Wordでは表示させることができません。そのため、ルビが含まれている論文だと、どうしてもWordで組版すると読みにくくなってしまいます。
また、同じように、同一のUnicodeだけれども、GID/CIDが異なっている場合の字形も、Wordでは表示させることができません。
これも以前「漢字の字体を変えられる!? GID/CIDとは?」という記事でご紹介しました。この点は、特に人文系の論文を組版する際にはネックになるかもしれません。
結び
組版作業者の中には、「組版するならInDesignじゃなきゃダメ」とか、「組版はTeX一択だ」といったような強い主張をされる方もいますが、私自身はそれぞれの状況に応じて必要十分なツールを使えれば問題ないと思っています。
もしWordでの組版で十分な原稿であれば、Wordで組版しても全く問題ありません。細かなレイアウトの不統一は気にせず、とにかくがんがん刊行したいという戦略ならば、組版ツールとしてはむしろWordの方に分があるかもしれません。
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