英単語が自動的に分解!? ハイフネーションの仕組み

どうも、『人文×社会』の中の人です。

今回は、欧文を含んだ原稿の組版でよく使う「ハイフネーション」についてご紹介していきたいと思います。

ハイフネーションというと、聞き慣れない言葉のように思えますが、実物を見れば、すぐに何のことか分かるはずです。凝り出すとなかなか奥深い世界で、言語学の知識も少し必要とされます。

ハイフネーションとは

「ハイフネーション」とは、欧文組版で使われる手法の一つで、1単語をハイフンで分割することです。行末に長い単語が来てしまった場合などに使います。

まずは、ハイフネーションをした場合の例としなかった場合の例を比較してみましょう。

ハイフネーション1

行末に長い単語が来た場合、ハイフネーションをしないと、その単語が次の行に回ります。すると、もとの行では、両端揃えにするため、単語どうしのスペースが空いてしまい、スカスカな印象を与えてしまいます。

適度にハイフネーションを入れることで、余計なスペースをなくし、きっちりとした見た目のデザインにすることができます。

ですが、こうしたハイフンは、単語のどこに挿入してもいいわけではありません。ちゃんとハイフネーションのルールというものが存在します。

ハイフネーションのルール

ハイフネーションには、「ハイフンを挿入できるのは、音節の切れ目だけ」という大原則があります。

例えば、appleという単語の場合、ap・pleというふうに音節が分かれます。そのため、ハイフネーションする際には、ap-pleという分け方にしなければいけません。a-ppleやapp-leというふうに、ハイフンで区切ることはできません。

先ほどの例では、consider-ationsというふうにハイフネーションされていましたが、considerationの音節は、con・sid・er・a・tionと分かれています。なので、rの後にハイフンを置くことができたわけです。

しかし、音節の切れ目であれば、どこでもハイフンを挿入してもいいかというと、そうではありません。実は、ハイフンを挿入できる音節の切れ目と、ハイフンを挿入できない音節の切れ目があります。

例えば、agreementという単語は、a・gree・mentというふうに音節が分かれますが、a-greementというふうにハイフンで区切ることはできません。ハイフネーションするとしたら、agree-mentです。

これは、「語頭または語末の単母音字はハイフネーションしない」というルールがあるからです。

また、言語学的ではないルールも存在します。

有名な例が、Japaneseという単語です。これは、Jap・a・neseというふうに音節が区切れますが、Jap-aneseとハイフネーションしてはいけません。というのも、Japが蔑称だからです。もし行末でJap-と区切れていると、見た目の上でJapという単語が出てきているように見えてしまうので、ハイフンで区切るならば、必ずJapa-neseというふうにします。

そのほかにも、「4文字以下の単語はハイフネーションしない」とか、「人名はハイフネーションしない」といったルールが存在します。

たまにルールを逸脱する例もあるので、不安な時には辞書で調べる必要があります。(例えば、『ジーニアス英和辞典』第5版では、ハイフンを挿入できる音節の切れ目は「・」、ハイフンを挿入できない音節の切れ目は「-」で表記しています)

しかし、これでハイフネーションにまつわる問題がすべてクリアされたわけではありません。むしろ面白いのはここからです。

なんと言語ごとにハイフネーションのルールが違うのです! 以下、この違いについてご紹介していきます。

言語ごとの違い

まず、次の2つの文を見て比べてみてください。上は英語、下はフランス語のハイフネーションの例です。

ハイフネーション2

これを見て、「あれ?」と思われた方がいるのではないでしょうか。そうです、ハイフネーションの位置が微妙に違うのです。

英語の場合、consider-ationsとハイフンで区切られているのに対して、フランス語の場合、considé-rationsと区切られています。

なぜこんなことが起こるのかと言うと、そもそも同じ系統の語であっても、言語によって音節の区切り方が違うからです。

英語のconsiderationは、con・sid・er・a・tionというふうに音節が区切れますが、フランス語のconsidérationは、con・si・dé・ra・tionというふうに区切れます。そのため、そもそも音節上、英語のように、considér-ationとハイフネーションすることができないのです。

また、音節の区切り方のほかにも、言語ごとによってハイフネーションのルールが違う場合があります。

その一つとして、フランス語には「連続する2つの母音字は、たとえ2音節を構成していたとしても、ハイフネーションしない」というルールがあります。

例えば、フランス語で「詩」を意味するpoésieという単語は、po・é・sieというふうに音節が分かれますが、po-ésieとハイフネーションしてはいけません。ハイフンで区切るならば、必ずpoé-sieとする必要があります。

これに対して、英語にはそうしたルールがありません。それゆえ、poetryという単語は、po・et・ryというふうに音節が分かれるとおりに、po-etryともpoet-ryとも、ハイフネーションすることができます。

このように、言語ごとにハイフネーションの仕方が微妙に違います。それぞれの言語の辞典の巻末とかに詳細な説明が載っているので、見比べてみると興味深い発見があるはずです。

InDesign上の言語設定

しかし、こうした言語ごとの違いは、いちいち調べているととても面倒です。

そこで登場するのが、InDesignの言語設定。なんとInDesignには、それぞれの言語のハイフネーション辞典がデフォルトで搭載されています。そのため、適切に言語設定をすれば、自動的にその言語に合ったハイフネーションをしてくれます。

言語設定は、「文字」パネルの一番下にある「言語」から選択することができます。

ハイフネーション3

英語、フランス語からヒンディー語、インドネシア語まで、いろいろな言語が選択可能です。

ちなみに、ここを「日本語」にしておくと、本文でハイフネーションを行わない設定にすることができます。日本語の文にはそもそもハイフネーションというものがないからです。

逆に、和欧混植の場合でハイフネーションしたい場合には、言語設定に注意しておく必要があります。うっかりすると、ハイフネーションした方がよい箇所で、ハイフネーションしないままの文字列が残ってしまいます。(これはプロの組版作業者でもよくやってしまうので、本当に注意しなければいけません)

校正刷確認での注意点

以上見てきたように、組版でハイフネーションするかどうか、またどのようにハイフネーションするかは、組版作業者の側でかなり細かく設定することができます。

校正刷を出す際には、「とりあえずこんなふうにハイフネーションしてみました!」という感じで出していますので、気になった点があれば、遠慮なく指摘してくださると助かります。

特にハイフネーション忘れは、組版作業者のうっかりミスなので、ぜひとも指摘してください。

また、組版作業者が知らない言語の場合、思わぬ間違いをしていることがありえます。これは著者に確認してもらうしかないので、ぜひとも校正刷のハイフネーションはしっかりチェックをお願いします!

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