学術研究にも電子書籍の波!? 電子出版との付き合い方を考える!
どうも、『人文×社会』の中の人です。
今回から5回連続で「電子書籍・超入門」シリーズを連載していこうと思います。
その第1回である今回のテーマは、学術研究における電子出版との付き合い方。特に人文系の学術書における電子出版とどのように付き合っていくべきかを考察していきます。
押し寄せる電子書籍の波!?
KindleやKinoppy、漫画アプリなどを通して、膨大な電子書籍が刊行されている現在、もしかしたら電子書籍に一度も触れたことのない人を探す方が難しいかもしれません。
紀伊国屋書店のKinoppyが始まったのが2011年、日本版のKindleストアが始まったのが2012年だということを考えると、わずか10年足らずで電子書籍の市場が急拡大したことが分かります。
この影響は学術出版にも及んでいます。
例えば、次に挙げるレーベルは、特に電子書籍のラインナップが豊富です。
こうしたレーベルでは、過去に紙の書籍として出版したものが続々と電子書籍化されたほか、新たに出版する分については、紙の書籍と同時に電子書籍版も出版するケースさえ見られるようになってきました。
さらに、最近では博士論文を書籍化したような本格的な学術書も、紙の書籍と同時に電子書籍としても刊行されるようになっています。
こうした学術書の場合、残念ながら重版がかかることがまれであるため、初版で刷った数千部がはけてしまうと、一気に入手困難になってしまいます。その点、電子書籍として販売し続けてくれるのは、本当にありがたいことです。
学術書の電子出版はアリ?
けれども、研究者の立場からすると、やはり学術書は電子出版になじまないのではないかと思うことが多々あります。
その大きな理由の一つは、「電子書籍だとページ数が分からないから」でしょう。
これについては、本連載の第2回で詳しく論じますが、確かにKindleで新書や文庫を買うと、テキストがずらーっと並んでいるだけで、ページ数の表示が全くありません。
趣味で読む分にはそれでいいかもしれませんが、論文で引用する時にはページ数が分からないと困ってしまいます。
いちおう世界的に使われる引用表記スタイルガイドの一つである「Chicago-Style Citation Quick Guide」には、電子書籍でページ数が分からない場合の表記方法の例が書かれています。
ですが、実際の論文でそれを実践している例はあまり見かけない気がします。特に人文系ではそうです。
ほかにも、「電子書籍だとレイアウトが崩れるから」という理由があります。
特にテクストの校訂版や翻刻本の場合、左右の見開きや行数、段組みなどのレイアウトが崩れてしまうと、意味をなさなくなってしまうことがあります。
また、異体字をはじめとする字形の違いなどは、基本的に電子書籍で表示することはできません。
なぜそうなのかというのは、電子書籍の実体とは何なのかということと大きく関わっていますが、これについては本連載の第3回で扱います。
電子書籍は全文検索できる!
しかし、電子書籍は悪い点ばかりではありません。なんといっても、最近刊行されている多くの電子書籍はテキストデータになっているので、全文検索をすることができます。
学術書を読む時に索引を参照することはあっても、全文検索をするというのはなんだか奇妙な感じがします。ですが、実際にやってみると、検索してみて初めて気づくことがけっこうあります。これは学術書を吟味する際の強力な補助ツールになりえると思います。
実際、この記事を書いている筆者自身も、いくつかの翻訳は紙の書籍版とKindle版の両方を買っています。論文を書く際にも、Kindle版で検索できたおかげで助かったことがあります。
特に、「この翻訳では××という訳語が使われていない」といったような、存在しないことを示したい時には、全文検索機能が本当に役立ちます。これが使えないと、何百ページも延々とめくり続けなければならなくなってしまいます。
大事なのは使い分けかも
こうして考えてみると、結局大事なのは使い分けなのかもしれません。同じ学術書であっても、後々自分が論文で引用するようなものであれば、電子書籍は向かないかもしれませんが、新書のように単に勉強のために読むものであれば、電子書籍もけっこうアリかもしれません。
あるいは、じっくりと吟味しなければならないような翻訳や注釈書であれば、紙の書籍と電子書籍の両方をそろえておくのも良いかもしれません。
いずれにせよ、学術書の場合、紙の書籍が電子書籍に置き換わるのではなく、紙の書籍のほかに電子書籍という新たな選択肢が加わったと捉えておいた方が、実りが多そうです。
この点で、今後学術書の電子出版がどうあるべきなのかは、一般書の電子出版の動向とは切り離して考えた方が良いのかもしれません。
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