電子書籍にも種類がある!? リフロー型とフィックス型!

どうも、『人文×社会』の中の人です。

今回は、「電子書籍・超入門」シリーズ第2回ということで、電子書籍のリフロー型とフィックス型の違いについてご紹介していきたいと思います。

人文系の電子書籍にはどちらの種類の電子書籍も実際に使われる場面があるので、それぞれの長所と短所を知った上で使い分ける必要があります。

電子書籍のフォーマットはいろいろ!?

Microsoft Wordや一太郎、WPS Writerなどのワープロソフトで作成される文書ファイルには、docx、jtdc、odt、rtf、txtなど、複数のフォーマットが使われています。

これと同じように、電子書籍にもいろいろなフォーマットがあります。代表的なものを挙げてみると、こんな感じです。

  1. EPUB
    非営利団体「国際電子出版フォーラム」が策定したフォーマットです。誰でも使えるオープンフォーマットであり、現在では事実上、電子書籍の国際規格に近いものになっています。拡張子は「.epub」です。

  2. AZW
    Amazon Kindle用のフォーマットです。Kindleストアで電子書籍を購入すると、多くの場合、このフォーマットのファイルが配信されます。拡張子は「.azw」です。

  3. MOBI
    フランスのMobipocket社が開発したフォーマットで、AZWの前身となったものです。現在、同社はAmazonの傘下にあります。DRM保護がないMOBIファイルは、Kindleでも読むことができます。拡張子は「.mobi」です。

  4. .book
    日本のボイジャー社が開発したフォーマットです。縦書きやルビに対応していることが売りで、現在では日本のウェブコミックサイトの主流フォーマットになっています。拡張子は「.book」です。

  5. XMDF
    シャープが開発したフォーマットで、日本語組版に強いことが特徴です。EPUBをはじめとする他の規格に押されつつありますが、いちおう現在でも国内の一部の電子書籍サイトで使われているようです。拡張子は「.zbf」です。

現在では、EPUBが国際標準になりつつあり、EPUBから他のフォーマットへの変換がわりと容易にできるようになっています。なので、電子書籍を作るならば、まずはEPUBを作成することを念頭に置けばよいかと思います。

なお、PDFの電子書籍も流通していますが、これはEPUBやAZWなどとはファイルの性格が全く異なるので、別ものだと考えてください。

リフロー型とフィックス型

EPUBやAZWをはじめとするフォーマットで作成された電子書籍には、「リフロー型」「フィックス型」という2種類のタイプがあります。

リフロー型

リフロー型とは、画面サイズに応じて、レイアウトが流動的に変化するタイプの電子書籍のことです。

テキストを主体とした電子書籍の多くはこのタイプで、学術書の電子出版においても、リフロー型がよく使われています。

例えば、岩波新書、中公新書、ちくま新書、岩波文庫、講談社学術文庫、光文社古典新訳文庫の電子書籍は、基本的にすべてリフロー型です。

こうしたリフロー型優位の潮流は、海外における学術書の電子出版でも見られます。

フィックス型

フィックス型とは、画面サイズに関係なく、レイアウトが固定されているタイプの電子書籍のことです。

これは図版が多用されている電子書籍でよく使われており、とりわけ電子コミックではフィックス型が基本です。

学術書においてフィックス型が使われているケースとしては、朝日出版社の『科学の名著』シリーズや、独Meiner社のPhilosophische Bibliothekシリーズの電子書籍版などが挙げられます。(特に、Philosophische Bibliothekシリーズは新規に刊行する分もフィックス型の電子書籍として販売しています)

それぞれの長所と短所

リフロー型とフィックス型にはそれぞれ長所と短所があります。

リフロー型の長所

リフロー型は、画面サイズに応じてレイアウトが流動的に変化するので、PCやタブレット、スマホなど、さまざまなデバイスで表示させるのに向いています。文字や行間の大きさも自在に変更することができます。

また、テキストデータが保持されているため、全文検索や自動読み上げ、辞書ツールとの連動が可能です。

リフロー型の短所

他方、リフロー型はレイアウトが流動的であるゆえに、紙の書籍と異なるレイアウトになってしまいます。図表がある場合には、本文と図表の大きさのバランスが大きく崩れることもあります。

また、リフロー型にはページの概念がありません。ブックマーク機能があるので、趣味の本を読む分には支障がないかもしれませんが、学術書のように引用する場合には、ページ数が分からないと困ってしまいます。

フィックス型の長所

フィックス型は、レイアウトされたページを画像として保存しているので、もとのレイアウトが保持されます。そのため、どのデバイスで開いたとしても、同じレイアウトで見ることができます。

紙の書籍でも発行されている場合は、基本的には紙の書籍と同じレイアウトになるので、引用する際にもページ数がきちんと分かります。

フィックス型の短所

他方、レイアウトが固定されている分、スマホなどの小さな画面サイズでは見にくいことがあります。拡大して見ようとすると、画面からはみ出してしまうので、頻繁にスクロールしなければならなくなります。

また、テキストデータではなく画像データで保存されているので、当然文字サイズの変更もできません。

テキストの全文検索、自動読み上げ、辞書ツールとの連動もできません(ただし、フィックス型にこの機能を加えた形態もあります。電子教科書などで使われることが想定されているようです)

さらに、画像データとして保存するゆえに、ファイルサイズも大きくなりがちです。ごく大雑把な目安を示せば、リフロー型は1冊1MB程度ですが、フィックス型は数十MB~100MB程度のサイズになってしまいます。

フィックス型よりもPDFの方がいい!?

ここまで読むと、日常の読書で使う書籍ならばリフロー型、学術書ならばフィックス型がよいのではないかと思われるかもしれません。

しかし、よく考えてみると、それならばフィックス型の電子書籍ではなく、そもそもPDFの方がよいのではないかと思えてきます。

PDFの場合、以下のような利点があります。

  1. レイアウトが固定されている。

  2. テキストデータが保持されているので、全文検索ができる。

  3. 画像データとして保存されているわけではないので、ファイルサイズが小さくて済む。(大雑把な目安としては、1冊あたり数MB~10MB程度に収まります)

  4. Kindleなどの専用の電子書籍ビューアがなくても、ファイルを開くことができる。

  5. そのまま印刷することができる。

ただし、PDFの場合、「Kindleストアで販売できない」という大きな欠点があります。そのため、PDFで販売しようとすると、自社サイトで販売することになります。

これには、サブスクリプション方式で閲覧してもらう方法や、無断コピー防止のDRM保護をかけたPDFをダウンロードしてもらう方法など、複数のやり方があります。(国内のサブスクリプション方式の例としては、「大月書店版マルクス=エンゲルス全集online」などがあります)

現在こうした販売方法は、海外の大手学術出版社をはじめ、個別に試行していますが、今後新たなプラットフォームができれば、一気に状況が変わるかもしれません。

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