『人文×社会』の校正刷り確認は凄まじい!? 一般的な学術誌との違い!

どうも、『人文×社会』の中の人です。

今回は、『人文×社会』編集の舞台裏シリーズ第3弾として、『人文×社会』の校正刷り確認の特徴についてご紹介していきたいと思います。

実は、『人文×社会』の校正刷り確認は、一般的な学術誌の校正刷り確認と比べて、かなり特徴があります。ですが、あんまり気づいてくれる人がいないので、手前味噌ながらここでご紹介できればと考えています。

校正刷りとは

投稿された原稿の組版が完了すると、組版作業者は校正をするための試し刷りを出します。これが「校正刷り」または「ゲラ」と呼ばれるものです。

※ ゲラは英語のgalley proofのgalleyが訛ったものです。galleyはかつて金属活字で組版していたころに、活字組版を置いていた金属製の容器のことです。「ゲラ」とかな書きすると、どうしてもゲラゲラ笑う感じに見えてしまいます。私個人は、NHK教育テレビで放送されていた「こんなこいるかな」というアニメーションに出てくる、かしわもちみたいな頭をした「げらら」という子を毎回連想してしまいます。

校正刷りは通常、編集者がチェックするほか、著者校正にも回します。学術雑誌の場合、その雑誌の編集委員会から校正刷りが送られてくるはずです。

本来ならば、校正刷り確認では紙に印刷したものを確認してもらいます。特に、カラー指定がある場合には、PCのスクリーン上での色味と、紙に印刷した時の色味は全く違うので、紙に印刷したものを確認してもらわないと意味がありません。

しかし、学術雑誌の場合、モノクロ印刷など、カラー指定が複雑でないことが多いので、最近ではPDFファイルで校正刷り確認をしてもらうケースが増えています。とりわけ電子版のみを発行する学術雑誌の場合は、これで十分だと思います。

『人文×社会』もまた、電子版のみを発行しているので、校正刷り確認はPDFファイルでお願いしています。

著者校正の一般的な手順は?

論文の著者は、校正刷り確認用のPDFが送られてきたら、誤字・脱字やレイアウト上の不備がないかチェックをします。

そのうえで、学術雑誌の場合、その雑誌の編集委員会か、または組版作業者に、修正してほしい箇所を報告します。この点は、『人文×社会』でも同じです。

これ以降は、学術雑誌ごとで対応がかなり違います。修正箇所を反映した2校の校正刷りを再度送ってきてくれることもあれば、「修正しておきます」という返事だけがあることもあります。あるいは、発行まで全く連絡がないこともあります。

ですので、基本的には学術雑誌の著者校正は1回きりで、2回目の校正ができる場合はかなり丁寧な対応をしてもらっている、という認識でいた方がよいと思います。

これは、別に組版作業者が無愛想だとか、そういう問題ではありません。2校、3校、……と校正刷りを出し直すたびに、追加料金が発生するケースがあるからです。これは学術雑誌ごとの契約に依存しますが、予算の関係上、校正刷りを何回まで出すかはあらかじめ決めている場合があります。

『人文×社会』の場合

ところが、『人文×社会』の場合、意図的にこの慣行を無視して、著者校正で著者がOKと言うまで、2校、3校、……と校正刷りを出し直し続けるという処置をとっています。

しかも、大半は著者からの修正指示が届いたその日のうちに、新たな校正刷りをお送りしています。最短で20分後にお送りしたこともあります。もう鬼神のごとくどんどん校正刷りを出しまくります。

これにはいくつか理由があります。

第一に、『人文×社会』では、編集委員会だけでなく、関わるすべての人が一つの学術雑誌を協力して作るという理念を大切にしています。そのため、投稿者にも著者校正を通して、一緒に学術雑誌を作っているのだという感覚を共有してもらいたいという思いがあります。このことから、校正刷りの初校から最終校まで、きっちり著者に立ち会ってもらうことを重視しています。

第二に、『人文×社会』の校正刷り確認を通して、普段あまり関わることのない組版作業について、有益な知見を共有したいという思いがあります。著者校正でのやり取りを通して、「こういう指定をしたら、こんな組版になるのか」とか、「組版上はこんなことも可能なのか」とか、いろいろな知見を得ていただけると、別の機会でもきっと役立つのではないかと思います。これは、めぐりめぐって日本の人文学の底力を高める上でも重要ではないかと考えています。

第三に、『人文×社会』を無料で刊行し続けるには、編集委員会の業務をできるだけシンプルにする必要があります。そのため、編集委員会の側で、きちんとした校正をする作業者を手配することができません。その分、著者の側でしっかり校正をしてもらいたいという意図で、著者校正の工程を手厚くしています。

第四に、『人文×社会』に投稿される方の中には、学術雑誌の投稿経験が豊富でない方もいらっしゃいます。そうした方にとっては、「修正箇所を見落としてしまった」とか、「間違った修正指示をしてしまった」とか、思うように著者校正ができないこともあるはずです。著者校正を丁寧にするのは、そういう場合に対応するためでもあります。

結び

『人文×社会』のこうした仕組みを実現するには、投稿者の協力が必要不可欠です。なぜなら、投稿者が校正刷り確認でOKと言わなければ、永久に校正刷りを出し続けることになり、簡単にこの仕組みは破綻してしまうからです。

ですが、投稿者を含めたすべての人が一緒に学術雑誌を作るという理念から考えれば、むしろこうした破綻しうる仕組みをみんなで維持しながら刊行し続けることの方が意義は大きいのではないかと、秘かに思っています。

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