漫画の吹き出しで使われる書体を再現しよう! 正規表現&合成フォントで指定!
どうも、『人文×社会』の中の人です。
今回は、正規表現や合成フォントの機能を使って、漫画の吹き出しでよく使われる書体を再現してみたいと思います。
えっ……漫画の吹き出しってそんな特徴的だったっけ?と思われた方がいらっしゃるかもしれません。ですが、実は組版上ではけっこう面白い指定をしています。
漫画の吹き出しで使われる書体とは?
まず、次の図をご覧ください。
4コマ漫画の1コマにありそうな感じですね。
何の変哲もないコマですが、よーく見ると、吹き出しの中の書体に工夫があることが分かります。
そう、ひらがな・カタカナ・記号は太めの明朝体、漢字はゴシック体を使っているんです。
えっ……漫画ってそんなことしてるんだっけ?と思った方は、手近のコミックスや漫画雑誌を確認してみてください。
最近はこうした使い分けをせずに、すべて明朝体、あるいはすべてゴシック体にする例も増えているようですが、今でもこの使い分けは主流になっているはずです。
(すみません、私自身は普段全く漫画を読まないため、今回の記事を書くのにあたって、江戸川区の名探偵や進撃してくる大きめの人が出てくる漫画など、複数の有名な事例を急いで調べました。最近のトレンドが変わっているようでしたら、ぜひご指摘ください。少なくとも、腕が伸びる海賊の人や全集中の呼吸をしている人が出てくる国民的漫画には、こうした使い分けは見られないようでした)
この太めの明朝体は「アンチック体」と呼ばれるもので、漫画の吹き出しのほか、絵本の文字や辞書の見出し語などで使われています。
ちなみに、「アンチック」は、英語やフランス語のantiqueをカタカナにしたもので、骨董品を意味する「アンティーク」と同じ言葉です。ですが、長年の慣行から、書体の場合は「アンチック体」と呼んでいます。
Word上で再現してみよう!
では、さっそくまずWord上で再現する方法を考えてみましょう。
今回は、ルビの部分を割愛した下図のサンプルを使ってみたいと思います。
これは、Wordに画像を貼り付けて、テキストボックスで吹き出しの文字を入力しています。
現状では、吹き出しの中がすべて通常の明朝体になっているので、ひらがな・カタカナ・記号はアンチック体、漢字はゴシック体に変えてみます。
まず、吹き出しの中のすべての文字を一度ゴシック体に変えてみたいと思います。すると、こんな感じになります。
そのうえで、ひらがな・カタカナ・記号を、Wordのワイルドカードを使って検索してみたいと思います。
それぞれを表す特殊文字は次のとおりです。
すべてのひらがな [ぁ-ん]
すべてのカタカナ [ァ-ン]
今回使われている全角記号 [、。…]
※ 正規表現でUnicode上の「すべての全角記号」を簡単に表すことができないみたいなので、とりあえず今回使われている全角記号だけ検索できるようにしてみました。
これらをすべて組み合わせると、こんな感じです。
[ぁ-んァ-ン、。…]
これをWordのワイルドカードで検索してみたいと思います。すると、下図のように、ひらがな・カタカナ・記号の部分が選択されます。
この状態で、アンチック体にフォントを変更すればOKです。Wordで使えるプリインストールのフォントにはアンチック体がなさそうだったので、ここでは太字の明朝体で代用してみます。
すると、こんな感じになります。
コマの部分だけ取り出すと、こうなっています。
ちゃんとフォントの使い分けが表現できるようになりました!
InDesignの合成フォント機能
こうした正規表現によるフォントの変更は、もちろんInDesignでも可能です。ですが、InDesignにはもっと便利な「合成フォント」という機能があります。
合成フォント機能とは、漢字・かな・全角約物・全角記号・半角欧文・半角数字ごとにフォントを指定することができる機能です。
「書式」→「合成フォント」から、下図のような「合成フォント」パネルを表示させることができます。
ここで、「漢字」のみをゴシック体、「かな」以降をアンチック体にすると、ゴシック体とアンチック体を組み合わせた合成フォントを作ることができます。
試しに、ゴシック体として「凸版文久ゴシック Pr6N」のDemi-Boldと、アンチック体の代用として「A-OTF 見出ミンMA31 Pr6N」を組み合わせてみたいと思います。
この合成フォントを適用すると、こんな感じにできます。
イラストの部分だけ取り出すと、こんな感じです。
……と、ここまで書いて重大な事実に気づきました。なんとAdobe Fontsでは、ゴシック体の漢字とアンチック体のかなを組み合わせたフォントとして、大日本印刷の「DNP 秀英アンチック」とオープンソースの「しっぽりアンチック」が提供されていました!(2021年11月10日現在)
というわけで、さっそくDNP 秀英アンチックも試してみたいと思います。先ほどの吹き出しの中のフォントを変えてみるとこうなります。
イラストの部分だけ取り出したのが、以下のものです。
けっこう漫画のコマに近くなりました!
結び
今回ご紹介した内容は、そのまま学術誌の組版で使うことはないと思いますが、パンフレットやポスター等で使う機会があるかもしれません。こんな技があるんだなぁ…ということを知っておくと、後々役立つと思います。
※ 今回の記事でも、フリー素材配布サイト「いらすとや」(https://www.irasutoya.com/)のとーってもキュートなイラストを使わせていただきました!
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