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45頁目 1階SC(サービスカウンター) Mさん②

神保町本店での思い出や周辺のお店、現在行っているフェアなどを
100日紹介する<三省堂書店神保町100頁日誌>。
本日は1階SC(サービスカウンター)Mさんにお話を伺いました!

沢山お話を聞かせて頂いたので3日にわけてあります!


Q2.当店で働いていた時の印象深い思い出を教えてください。

◆あなたの名前は何ですか。

 サービスカウンターにいると、日ごろから様々なお問い合わせを承ります。だいたいは書籍を探して欲しい、お手洗いの場所を教えて欲しいといった簡単なものですが、なかには書籍の内容についての込み入った問い合わせもあります。難しい問い合わせですと、出版社などに確認するために日をまたいでお時間をちょうだいする場合もあります。今回お話しするのは、サービスカウンターで対応がかなり手こずったお客様との思い出です。

 事の発端は、注文書籍をお受け渡しする際でした。お客様から「注文時に案内されたものと表紙の色が違う」とご指摘がありました。確認すると、確かに当店の書誌検索でのプレビューと実際の書籍では色が違っていました。たかが色と言ってしまえばそれまでですが、お客様はかなり気にされているご様子。一度出版社に確認をして、ご連絡をさしあげるということになりました。またこの件のほかにも、書籍や当店のポイントカードについてなど複数のお問い合わせがあったため、私だけでなく複数人でそれぞれの問い合わせを対応していました。

 そのとき、一つ不思議に感じたことがあります。このお客様は、問い合わせが終わると、「あなたの名前は?」と担当者の名前を確認するのです。それも一人ではなく全員。もちろん私たちは名札を付けていますが、こうして面と向かって、それも一人ずつ念入りに聞かれるとどうにも緊張してしまいます。大変失礼ながら、何か対応を誤ると名指しでお叱りを受けるのではと冷や冷やしました。

 例の表紙色違い問題は、回答を得られるまでかなりお時間を要しました。出版社のリモートワークの都合で、担当者となかなかコンタクトが取れなかったためです。お客様に「お時間がかかって申し訳ありません」と謝罪のお電話をした記憶があります。一週間以上かけてようやく「印刷の都合で表紙の色は変わったが、内容などに変更点はない」というお返事を得られ、お客様にご案内することができました。こちらも電話でお伝えさせていただいたのですが、その際もやはり「あなたの名前は?」とお尋ねされました。

 ずいぶん遠回りになりましたが、無事お客様に注文書籍をお買い上げいただくことができました。なかなか大変だったねと労いあいもそこそこに、この件はこれで終了したと思われていました。

 後日、なんとお客様からお手紙が届いたのです。この時世にもかかわらず、手書きの文面でした。そこには、あのときのサービスカウンターでの対応への感謝のお言葉がありました。それも、どの従業員が何の対応をしてくれたのかまで丁寧に綴られていました。ことあるごとに名前をお聞きしていたのは、従業員それぞれが何を対応したのか把握するためだったのです。お叱りを受けるかもなどという失礼極まりない邪推をしていた自分が、ひどく恥ずかしくなりました。そして、時間はかかったけれど最後はお客様に満足していただけるような対応をできて本当に良かったと思いました。

 以上が、私が三省堂書店神保町本店のサービスカウンターで勤務させていただいたうち、最も印象深い思い出です。お客様、従業員、といった一括りで考えられがちな中で、人と人とのやりとりができたと実感できた経験でもあります。

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