見出し画像

「妄想警察P」第十話

第十話:権力の中枢に潜り込め(後半)

前回までのあらすじ:

早川の知人で選挙プランナーのA氏の誘いで、長野の衆院補選の応援に駆けつけた渋沢と早川であったが、突然、候補者が疾走したため、急遽、渋沢が候補者として立候補させられることとなり、選挙参謀として早川の渾身の選挙戦術が功を奏し、渋沢は、奇跡的に当選を果たすことになったのであったが・・・


登場人物:
渋沢吾郎:作家、心理学者
早川:渋沢の知人で元銀行強盗犯
万里子:渋沢行き付けのカフェ店員
B氏:霊媒師、医師の経験もある男
デイビッド:画家(シャーリー・マクレーンの友人)


政治とは、妥協であると、ある政治家が言ったのは、頭から湯気が吹き出た、血の気の荒い若手政治家を説き伏せる為にあえて、出家した修行僧のような穏やかな説教口調で、懐から100万円が入った封筒を取り出し、「これで何かの足しにしなさい」と、その若手政治家の首根っこを抑える為に言ったのだと、今でも私は考えている。なので、政治家が交渉の場で、足して2で割りたがるのは、算数が苦手な人にも分かりやすいようにという配慮だけではなく、まとまりの無い社会主義者及び保守と名乗る少数政党の党首をヨイショする為に考案された、民主主義という平和思想であると、テレビの情報番組で政治に無知なタレントが、番組から指示された台本通りにコメントしていた事が昨日のように思い出される。何れにしても、権力を保持し続けようとする勢力は、定期的に国会にアイドルを送り出す為のオーディションを開催しようと、日頃から各界の著名人との交流を重ねているようだが、大抵は一発屋と呼ばれるアイドル達で、賞味期限が切れるのを恐れてか、昨今では下火となったAKB48に習って、センターを勝ち取る為の総選挙を水面下で繰り返した挙げ句、ジャニーズ問題等の業界のタブーを取り上げて、過激派が裏の世界をバズーカ砲で粉々に粉砕するのが目的なのかは定かではないが、結果的に大勢の人々を道連れに混乱へと巻き込みながら、幾度となく過ちを繰り返した後、幻となって消えていく。これが、我が国の近年の政治の現状である・・・と言ったら言い過ぎであろうか?

(営業成績の不振を理由に朝の朝礼でパワハラ上司に公開処刑の刑に処されたのを腹いせに、居酒屋でハイボールをガブ飲みして酔っ払ってぐだを巻いている、店の常連ヒラリーマン談)



「最後に次の総理の椅子を狙う、外務大臣にお伺い致します」

渋沢は、外交防衛委員会に所属し、初めての質疑に臨んでいた。A4のノートの片方のページに質問内容を書き込んでいて、落ち着いた態度でゆっくりとノートのページを捲った。

「私は以前、友人で元軍関係者F氏からこんな話を聞いたことがあります・・・」

大臣は手を上げて質問に答えようとしたが、担当の役人が答弁にたった。

「お答え致します。委員お尋ねの件につきましては、個別具体的なお答えは差し控えさせて頂きますが、あくまでも一般論としてお答えさせて頂きますと、そのような件について、私共としては承知致しておりません」

渋沢は大臣の方へ目をやった時、大臣も渋沢の方をチラッと見て、又書類に目を落とした。

「本日はこれにて散開します」

委員会終了後、大臣は渋沢の方へゆっくりと近づいて来て、声をかけた。

「そんな事を知ってどうするんだねぇ?」

「我々国民は真実を知る権利があります」

「知らないほうが、幸せってこともあると思うがねぇ」
と言い残して、大臣は委員会室を後にした。

 6月に入って国会も会期末を間近に控え、セキュリティー・クリアランス制度(特定秘密保護法)を成立させて、息を切らせながら記者会見に臨む高市早苗経済安保相が、ある記者の質問に顔色を変えて、変人河野太郎を名指しで批判し始めた影響で、記者会見場は一気に、北向きに建てられた、35年ローンで購入した、戸建の1日中、日が当たらない冷蔵庫のような居間で、お茶をしている様な雰囲気が辺りに漂ったままのシーンが、夕方のテレビのニュースで流れていた。


その数時間前、渋沢はある先輩議員と国会の食堂で、派閥の勉強会で大物政治家の先生方が頻繁に食べている、名物カレーを食べながら話し込んでいた。


「政治の世界ってのはね、知らなきゃよかって事ばかりだよ」


「しかし、それを知らなければ・・・」


「知ったところで、君がいくら頑張ってみても今の体制を変えることなんかできないよ」


「しかし・・」

「いいか、世の中にはタブーってもんがあるんだよ。例えば、財務真理教の教祖が離れですき焼きを食ってたのを見つけた、石井紘基先生の無念の死、立憲のモンスタークレイマー小西を利用した、総務省の引っ掛け派閥争いの偽文書、他にもあげれば切りが無い。要するに、都市伝説と言われる陰謀論は、参政党かごぼうの党、それに、警視庁捜査二課に持っていかれた、つばさの党の黒川等に任せておけって言うことだよ」

「ただ・・」


「それだけじゃ無い、中条きよしを見てみろよ、知人に年利60%で1000万貸し付けるなんて、なかなか出来るもんじゃないが、政治家としては、ぎりアウトと言いたいところだが、演歌の世界では、ぎりセーフって事もあるんだよ。ついでに言えば、維新の会ではセーフ!ってことだよ」


「確かに・・」


♫折れたタバコの吸い殻で〜♫
♫あなたの嘘が分かるのよ〜♫
♫誰がいい人できたのね〜♫
♫でき〜たの〜ね〜♫


と歌いながら、「近いうちに政治活動費で維新の会代表の馬場ちゃん行き付けの料亭で、旨いもんでも食いに行こう」と言って、その先輩議員は、維新の会でパワハラを秘書に繰り返し行っても、なんの処分も受けていないのを良いことに、肩で風を切るように、食堂を出て行った。



「どうしたのですか?」

「あっいや、ちょっと疲れているだけです」
渋沢は権力の厚い壁の前で、ユダヤ人がエルサレムの嘆きの壁の前で祈りを捧げているのをイメージしていたかは定かではないが、長い付け髭に黒いハットを被って、議員会館の壁に手を当てて、考え込んでいた。

「あまり考えすぎない方が良いですよ」

「えぇ」

「心配しなくても、私に良い考えがあります」

「良い考え?」

「はい、権力の中枢に入り込むアイディアです」

早川は自身有りげに、鏡の前でヘアースタイルを整えながらキザっぽく、郷ひろみの口調で「ジャパーン!」と言った後、その場で3回転ターンを華麗に決め、「高須クリニック!」と決め台詞をカメラ目線で言った、その時、早川の後方から総勢五十数名のレオタードを着たダンサーが、高須クリニックのCM曲をバックに躍り出て来て、早川も負けじと、オール・ザット・ジャズのアン・ラインキング顔負けのダンスを披露して見せた。勿論、振付はボブ・フォッシーが担当していた。

渋沢はその光景をただじっと見ていた。


 翌朝、早川は行動に出た。シャーリー・マクレーンの友人で、彼女の著書アウト・オン・ア・リムに出てくる、デイビッドの紹介で、医師の経験もあるスウェーデンの霊媒師のB氏にアポイントをとって、朝一番の便でスウェーデンに飛び、軽く打ち合わせをした後、外遊気分で経費を最大限利用し、パリ、ローマ、バルセロナ、ロンドンと夢にまで見たヨーロッパツアーを国民の血税で楽しんでいる様子をインスタに投稿した後(この後マスコミから大パッシングを受ける原因となる)、ミラノのスカラ座でオペラを楽しみながら、次の策を練っていた。

「それでこれからどうするんですか?」

と、久々に登場する麻里子がワイングラスを片手にほろ酔い気分で言った。

「明日、帰国したら、作戦を実行する」と早川はカメラも無いのにカメラ目線で、『決まったー』みたいな顔をして言った。

 翌日の東京は雲一つ無い晴天に恵まれていた。早川は空港から議員会館までの車中で、先輩議員の維新の会所属のパワハラ議員に電話を掛け、維新の会代表の馬場ちゃん行き付けの料亭で、政治資金規正法の自民案との妥協案を入れ知恵する為、先輩議員にセッティングしてもらい、その際、細木数子の後継者、細木かおりを同席させ、一気に馬場ちゃんをこちら側へ協力させるように洗脳した。そして、その馬場ちゃんを利用し、岸田総理にアポイントを取らせ、馬鹿げた政治資金規正法の妥協案に調印させ、官邸とのパイプを作った後、スエーデンからデイビッドの知り合いで、医師の経験もある霊媒師を日本に呼び寄せ、秋の総裁選に向けた戦略を盾に、権力の中枢に入り込む案を練っていた。


「総理、秋の総裁選に勝つ為の案を私なりに考えてきました」

「君は?渋沢君の?」

「はい、秘書の早川です」

「それで、君の考えを聞こうか?」

「はい、先ず・・・」
と、自分が政治の世界を志した経緯を約10分間、話した後、この先の夢を語ろうかとも思ったが、長くなりそうだったので、

「総理が今後、権力闘争に勝利する戦略をお示しします」

岸田は、もたれていたソファーから、身を乗り出して早川の方を見て言った。

「どんな戦略かな?」

早川は鋭い眼差しで岸田を見て言った。

「総理に会わせたい者を部屋の外に待機させています」

「私に会せたい者?」

「えぇ」と言って、早川はスエーデンから呼び寄せた霊媒師を部屋の中へ招き入れた。
部屋に通された霊媒師は、岸田の顔を見て、打合わせ通り、当然ではあるが流暢なスウェーデン語で話し始めた。

打合わせ通り、スウェーデン語が分からない早川ではあったが、如何にもという態度で、メモを取りながら、同時通訳をするスタイルで、総理との会話が始まった。


「まぁーそのー」(霊媒師の声)

「田中角栄先生か?」

「あっはい」

「君はこの霊媒師の声を真剣に聞きなさい」(霊媒師の声)

 岸田は徐々に真剣な表情になっていった。

「えーーーい!」(霊媒師の声)

いきなり大声を出した霊媒師が、

「浪速のことも夢のまた夢」(霊媒師の声)と、静かに語った。

「浪速のことも・・太閤殿下?」

「今、太閤殿下が貴方に話したい事があると・・・」

「渋沢五郎を側においておくように・・・」(霊媒師の声)


 「分かった、一晩考えさせてくれ」


翌日、渋沢は当選1回の新人議員としては、多分、初の総理補佐官に就任した。


第十話 終わり



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?