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桜の紡ぎ



桜の紡ぎ













小さな 小さな 誰も知らない公園の 





小さな サクラ 





毎年 陽だまりにイジワルされるように 





肌寒い お花見 





彼女の自慢のお弁当 





寒がる僕を気遣って 





いつも あたたかい お味噌汁 





肩をすくめながら 僕に差し出してくれた 





しばらくすると 彼女は スヤスヤと 





僕の肩に寄り添い お休み中 





「朝早くから おいしいお弁当を作ってくれて ありがとう」 





僕は 彼女の寝顔に 心から感謝した 





そんな サクラの季節が ずっと続くと信じていた 










年の暮れ 





病床の彼女 





日に日に 桜色の頬が 白くなっていく彼女 





「サクラ いつ 咲くかな・・・ いつものお弁当を作らないとね・・・」 





かすれ逝く 彼女の声 





僕の願いの声は もう彼女へは届かなかった 





僕は全部の涙を 彼女の身体の上で流した 





声帯をなくしたかのように 僕は言葉を閉じた 





「変わらないものなんて ないんだ」 





「こうやって 大切なものを どんどん失っていく」 





「もう サクラなんか 見たくない」 











彼女の思い出がつまった 日常 





ふたりで暮らした 部屋 





彼女が大切にしていたアルバムを手に取る 





彼女と僕とサクラの写真 





弧を描く 彼女の口元 





彼女の写真を手に取った 





もう思い出の愛 行き場を失った愛 





写真を裏返した 










彼女は生きていた 










僕は ふたりの サクラまで 走った 





彼女の 本当の愛を知った 










ユウキへ 





私は あなたとの時間が愛しい 私の大切な宝物 





はじめて わたしの手料理を 本当においしそうに食べてくれたこと 





夏の夜に ホタルを見に行って 私が足を滑らせて 





転びそうになったとき かばって沼に落ちて 





泥だらけになって 笑っていた あなたの顔 





ふたりでがんばって貯金をして 





やっと叶った 沖縄の海を ふたりで潜ったこと 





マリッジリングを買うために あなたが大切にしていたバイクを 





売ってしまったあと あなたの寂しそうな横顔 





私の会社が倒産して スタイリストの夢がついえて自虐的になって 





あなたの親身な言葉もきかず 大喧嘩になって 





もうだめかなって思ったとき 





震える私を 包み込んでくれるように 抱いてくれたこと 










いつでも あなたが居た 心の中に 





だから 本当に私は幸せでした 





あなたに 辿り着けたこと 





あなたに 愛してもらえたこと 








これからのサクラはいっしょに見れなくなったけど 





ときどきは・・・うぅん サクラの季節だけでも 





私のお弁当の味を 思い出してね 





あなたの おいしそうに食べる顔が 





私は 大好きでした 








ユウキ・・・ 





最後にお願いがあるの 





ユウキのこれからの人生 





これから 共に歩んでくれる人がいたら 





幸せになってください 





ユウキが心を惹かれる人だったら 





きっと私も大好きになれる人だと思うから・・・ 





これから ユウキが決めることは 





私からのお願いだと思って 幸せになって・・・ 








今まで ありがとぉ 





ユウキを 愛しています 








ヒナタより 








僕らのサクラまで もう少し 





小さな 小さな 誰も知らない公園の 





小さな サクラ 





僕は バカだね 




自分で彼女との大切な記憶を失おうとしていた 




こんなにも たくさん たくさん 




愛してもらっていたのに 




こんなにも愛していることに 




おまえが 彼女と僕を 紡いでくれたんだね 




ありがとう 








ねぇ ヒナタ 




ひとつだけ わがまま言ってもいいかな 




ヒナタの最後のお願いだけは 僕には守れそうにないよ 




だって 君は 僕の中でずっと 生き続けているから 




だから ここに居るよ もういいよね ヒナタ 








サクラの 暖かい 陽だまりを見つめながら 




僕は逝った 




愛しているよ 








悲しそうなサクラが 僕たちに桃色の花を咲かせた 




































#君に還るまで  
#恋愛詩  
#心声  


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