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空き巣

いつも何かが起こるときは突然で、その日も普通に家の鍵を開けたのだった。

電気をつけて、ふと、窓際に、ガラスの塊が落ちているのに気づいた。

一瞬そのガラスに釘付けになり、緩やかに辺りを見回した。

やられた。

タンスは中途半端に開いてるし、押し入れも開いてる。

それは、人生2度目の空き巣だった。

1度目は、小さな時だったので、家に警察が来ているのをぼんやり覚えてるだけ。
箪笥にしまった10万円が、盗まれたのだそうだ。

そして2回目のこのとき。

なんの財産もなかったわたしは、通帳すら、日常的に持ち歩いている生活をしていた。

このことが幸いし、盗まれて困るほどのものは、なにもなかった。

空き巣がわたしにもたらしたものといえば、

あまり住み慣れていない街の警察官と話して、調書というものを初めて作成したことと、

被害者の立場とはいえ、警察にわたしの指紋が登録されてしまったことと、

「あしがたくん」とかいう、当時最新機だったはずの鑑識の機械が、バッテリー切れで使えないと言われて、ズッコケたことくらい。



と、
そう思っていたけれど。

案外、恐怖は後でじわじわ来るもので。

そこから半年くらい、わたしは、家に帰ってきて電気をつける時に、妙な緊張が走るようになった。

風の噂で、犯人が捕まったとか聞いても、それは続いた。

あれから何度も、引っ越しを続けた。


そういえば、いまはもう、鍵を開ける時は、なにも気にしなくなっている。

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