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コムドットはなぜ成功したのか? "YouTuberが死んだ時代”のYouTube論

“2020年代を代表するYouTuber”と称しても過言ではないレベルで、いまや人気絶頂のYouTuberグループ「コムドット」。

芸能人のYouTube参入の影響か、かつて人気だったYouTuberたちが軒並み苦戦している現在のYouTube。

「コムドット」はそれでも登録者数270万人を突破し、動画の平均再生回数もおよそ200万にも達するなど、破竹の勢いを見せています。

彼らはなぜそれほどまでに人気を獲得しているのか?

また、日本のYouTube史において、彼らの存在がどのように重要なのか?「地元ノリを全国へ」というコンセプトを掲げる「コムドット」の何が”特異”なのか?


それを考察します。


結論から言うと、

彼らは、
"YouTuberがいちど死んだ時代”のYouTuber
だということ。

より細かい話を以下3つのトピックで話します。
①TikTokの影響力拡大
②"身内ノリ"が時代性と合致した
③「コムドット」はifの物語


①TikTokの影響力拡大

まず彼らの成功理由の大きなひとつが、TikTokの存在です。

2020年以降、楽曲のヒットがTikTok発で生まれることが当たり前となり、より多くの注目が集まるようになったTikTok。

その影響力は、音楽に限らず、幅広いジャンルにも波及していますが、“YouTuber”も例外ではないです。

コムドットもTikTokを上手く活用したYouTuberグループ。

彼らがブレイクし始めるのが2020年の10月で、実際そのタイミングで公式的にユーザーによるTikTokへの動画投稿を許可しています。

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(とりあえず指標として出しておけばそれっぽくなるでお馴染みのGoogleトレンドでも2020年10月以降から伸び始めている)

これがユーザーによるtiktok投稿解禁の動画

現代のインターネットカルチャーにおいては、ファンによる二次創作がそのコンテンツの盛り上がりにも大きな影響を与えています。

TikTokは、YouTuberにとって、ファンによる二次創作を活性化させる素晴らしいプラットフォームとなっている。

ありとあらゆるジャンルがYouTubeになだれ込んでいる現在のYouTubeにおいて、後発のYouTuberが成り上がる方法として、TikTokは重要な手段のひとつです。

シンプルにそれだけTikTokの影響力は大きい。

なんというか、VTuberにおけるイラストやアニメーション的な二次創作みたいな感じで、YouTuberにとって影響力の大きい二次創作って今まであまりなかった印象でした。

ただ、YouTuberが初めて二次創作を獲得したTikTok時代のYouTuberという、その象徴がまさに「コムドット」なのかもしれない。


②"身内ノリ"が時代性と合致した

もうひとつ、コムドットの特徴として、「動画の尺が長い」です。

一般的なYouTuberの場合、だいたい10,20分なところ、コムドットの動画は30,40分が平均的な動画の長さです。

そして、通常より長い動画で「彼らが何をしているか?」というと、動画の長さに適した企画というよりは、動画冒頭の挨拶や撮影場所への移動中でメンバー同士の「雑談」が長い。

「雑談」は彼らのノリ(地元ノリ)を発信する上で、非常に大事な要素でもあります。


そして、動画が長くて、雑談が多くて、ファンによる動画の切り抜きが多い...

という特徴をあげると、2020年以降、「コムドット」以外で、大きな盛り上がりを見せたあるジャンルにも近しい印象を覚えます。

それは、ゲーム実況者やVTuberを中心としたライブ配信カルチャーです。

彼らも長時間配信を行なって、ライブ配信者同士で仲良くトークし、その雑談の中でファンにとっておもしろいシーンが切り抜き動画としてYouTubeやTikTokにアップされます。

例えば、お笑い芸人ではない友人との雑談でも腹を抱えて笑うという経験は多くのひとにとって身に覚えがあると思いますが、ライブ配信や「コムドット」にはそういった仲のいいひとたちがわちゃわちゃだべってるのを眺めて楽しむみたいなところがある。

ライブ配信もコムドットも、「放課後のたまり場」的な空気感をインターネット上に再現し、それをコンテンツとして楽しむような感覚がある。
(ゲーム実況が2020年前後でここまで人気を獲得した理由として、その「放課後のたまり場」を生み出す『Discord』の存在が大きかったと推測する)


じゃあ、なぜ「放課後のたまり場」的な空気感が人気を獲得したのか?

記事冒頭で、「YouTuberがいちど死んだ時代」というようなことを書きましたが、2018年以降のYouTubeの雰囲気(ユーザー層の変化)が上記のような動画の楽しみ方が受け入れられた土壌だと考えています。

2018年以前以後でのYouTubeの大きな変化とは、芸能人・お笑い芸人のYouTube参入やVTuberの登場などによって、よりユーザー層が広がったこと。

もっというと、2018年以前のYouTubeに熱狂できていなかった層の増加。

芸能人参入が増え始めた2019年ごろは「芸能人参入で既存のYouTuberはどうなるか?」といった議論があり、「再生回数が芸能人にとられて、YouTuberの平均再生回数が下がるかも」みたいな話もあったが、1,2年経った結論としては、「ユーザーが求めるモノが変わってしまった」というのが正解だったように思う。

ちなみに、(今さらですが)ここでいうYouTuberは、当初のパブリックイメージとしてあった”YouTuber”を指す。「ユーチューバー(笑)」と揶揄され、大人たちが眉をひそめるような企画をやっていた”YouTuber”たち。

例えば、ヒカルとか禁断ボーイズとか。

「過激じゃないYouTuberも当時おったやん」という意見もごもっともですが、当時の彼らの勢いも含めて、”YouTuber的なモノ”の象徴として名前を挙げています。

彼らが2018年にVALU騒動で炎上したこと、2021年9月に禁断ボーイズのいっくんが引退したことも含めて、非常に象徴的かなと思ってます。

2018年以前は、例えば東海オンエアやすしらーめんりくもそうだけど、彼らのキャラクターを知らずとも、動画のタイトルや内容で「はあ!?」って思わせてくれるぶっ飛んだ企画が多かったです。

多くの人にとってYouTubeを観ることが当たり前じゃなかった時代では、そうじゃないひとたちに興味を持ってもらうためのフックが動画には必要だったんだと思う。

しかし、いまはYouTubeが多くのひとにとって日常になり、そんなフックがなくても観てもらえるようになりました。

そして、芸能人ファン層やオタク層の増加によって、”YouTuber的なモノ”の影響力が衰退していった。

そのユーザー層の変化を感じ取ってかどうかは知らないですが、「コムドット」のメンバー同士のコミュニケーション(雑談)を重視するスタンスが、いまの時代性と上手く合致したと考えています。


③「コムドット」はifの物語

これまでは、TikTokによるバズというテクニカルな点と、時代性との合致という点で「コムドット」について語ってきましたが、ここからはシンプルに彼らの魅力について語ります。

個人的に彼らの特徴でおもしろいなあと思うのが、YouTuberグループとして〝会社感”をかなり前面に出していることです。

リーダーのやまとさんが社長であることは動画内で度々語られ、給料や休みがほしいだなんだということが動画化されています。

個人的な感覚としては、ここまで会社感を出すYouTuberグループは珍しいなという印象。

「地元ノリを全国へ」というコンセプトや会社感を出すことで、中高が一緒の地元の友達とYouTuberになって、社会人になってもみんなで集まって遊ぶことができるというストーリーが生まれます。

多くの人にとっては、地元の仲いいやつらは、社会人になることで、どこか疎遠になったり「仕事があるから」という理由で気軽に遊べなくなります。

つまり、「コムドット」のストーリーは、地元のメンツでYouTuberになってお金を稼ぐというある種のifの物語ともいえる。


「いま暇?」で友人を呼びだす動画企画。中には明日朝早いから無理という返事もあったりで、「コムドット」のコンセプトにとって、わりと象徴的な動画企画(夜中にバカ騒いだら近所迷惑でそりゃ怒られるでしょ...と思いつつ、この”地元のコンビニ”は舞台装置として重要な要素だった)


地元のメンツでYouTuberとして成功するというストーリーは、YouTuberがここまで浸透し成功のロールモデル化した2020年代だからこそ。

コムドットが2018年以前のYouTuberのファンで彼らに憧れた世代であることも踏まえると、新世代YouTuberらしさのある物語だと思います。

そこに加えて、彼らは30,40分という長さながらも、ちゃんと編集をした動画を死にもの狂いで毎日投稿しており、仲間たちと本気でテッペンをとるぞというストーリーに拍車をかける。

毎日投稿も再生時間の長い動画も現在のYouTubeのアルゴリズムとしても重要な要素です。

「編集リレー動画」は彼らの人気コンテンツのひとつで、日々の動画撮影と編集に追われながらも頑張っている様子が映し出されている。


個人的には、沖縄旅行の動画は、「コムドット」が次世代YouTuberとしてやるべきことをやっている動画のひとつで、これまで語ってきたことが凝縮されているように思います。

やまとさんとひゅうがさんが夜語り合ってるシーンいいですね...

「地元ノリを全国へ」というコンセプトをしっかりと動画企画にも落とし込むという独自性はある種の物語としても観てておもしろいです。


以上です。


「コムドット」は、これまで日本のYouTuberたちが積み上げてきた”YouTuber的なモノ”の表現形式や動画フォーマット、その歴史を(無意識だとしても)継承しながら、2020年代という時代性を反映し、YouTuberをアップデートして、それでいてしっかりと影響力も獲得するという、まさに“2020年代を代表するYouTuber”と称しても差し支えないと考えています。

個人的には、いろんなクリエイターたちの作品や表現が積み重なって生まれる文化やカルチャー、”新しい何か”が好きなので、”YouTuber”というひとつのクリエイター像として「コムドット」はホントにカッコいいです。


年内300万人を目指す「コムドット」。

2018年ごろに、"YouTuber的なモノ”がいちど死んでしまったあとのYouTubeで、彼らが”YouTuberとして”その偉業を成し遂げることを応援しています。


ちなみに。
私も最初観始めたときは「なんやこいつら...」と思ってたんですが、それぞれのキャラクターと立ち位置がわかると沼にハマれるので、気になる方はぜひいちど動画を観てみるといいかもです。

以下、初見さんにオススメの動画。
「コムドット」が1本の動画を仕上げるのにどういう工程を踏むのかっていう社会見学的なおもしろさがあるのでいいかなと(あと、ちなみに私はいつも再生速度1.75で観てます)


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