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ケーキを焼くわけ
材料をいっぺんに冷蔵庫などから取り出して、量を測り、ずらっと並べる時間が好きだ。
それらをレシピを見ながら、順番に混ぜ合わせていく時間も好きだ。
全てを混ぜ終えて、オーブンにいれ、徐々に良い匂いがしてくる焼き上がりを待つ時間も好きだ。
私は料理はしないけれど、簡単なパウンドケーキやホットケーキなどのお菓子をつくるのは大好きで、ここ2年くらいの趣味になっている。
ケーキを作っている時間は、なにも考えなくてすむ。その時間だけは私の頭のなかは甘いケーキのことでいっぱいに埋め尽くされるから、嫌なことを忘れられる。
私がケーキを焼き始めた理由はそれだった。嫌なことを忘れられて、時間が経つのが早いから。
毎日を生きるのがいやで早く時間が過ぎ去ってほしい私にはうってつけだったのだ。
最近はそんな理由でケーキを焼くことは少なくなって基本的にはただ楽しいから焼いているけれど、今でもちょっといやなことがあると、「すべてどうにかなれ」と思いながらケーキを焼いている。
ケーキを作ってると、日々のちょっとした嫌なことも混ぜ合わせて、包み込んでくれるような、そんな気持ちになる。おいしいケーキが出来上がるにつれて、どんどん気持ちはあたたかくなる。
そして完成したケーキを食べるころには、その美味しさで嫌なことも忘れていたりする。
だから私は今日もケーキを焼く。
今日は熟れたバナナがあったので、バナナのパウンドケーキ。あと5分もすれば焼き上がるだろう。
まさに今、オーブンから漂ってきた良い匂いで、私は幸福になるのだった。