見出し画像

ミリしら以下から百に一目惚れした話

私はあまり推しをぱっと見の顔で選ばないタイプだ。
一目見た外見では推しを決められないので、あるコンテンツでは推しが決まるまでになんと1年かかったことがある。それまでに飽きなかったことがむしろ奇跡だ。
だけど私はまんまと綺麗に一目惚れした。

8月、以前からランチしに行く予定だった友達から前日になって突然「ムビナナ見に行かないか」とLINEが届いた。ムビナナ?ん?アイナナ?ああ、アイドリッシュセブンね。アイナナならゲーム名は知ってるが、中身に関しては完全にミリしら以下。どんなキャラが何人いるのかすら知らなかった。
変化を好まない私は、新しいジャンルの布教を普段なら若干渋るが、その時は久しぶりに友だちに会えるというわけで浮き足立っていた。二つ返事どころか三つ四つくらい無駄に返事して、キャラの顔と名前だけ覚えてムビナナ(DAY2)に突撃した。
それまでアイドル系のソシャゲにはハマらなかったので、たぶんアイナナもそんな感じかしらと思っていた。

しかしそれは全ての始まりだった。
“ムビナナ”こと、“劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD ”。
始まった瞬間私は度肝を抜かれた。
驚くべきCG技術。かつてKPOPオタクだった私は、ソシャゲを舐めていたのだと思い知らされた。会場の雰囲気、アイドルの登場を待ち侘びて揺れるペンライト、輝くメインステージ、巨大モニター。全てがリアル。
私は映画館ではなく、ライブ会場に来ていた。

もうペンライトを振って、アイドルを目で追うことしかできなかった。余計なことは考えなくていい、アイドルがそこにいるのだから。

IDOLiSH7、ZOOL、TRIGGER、と目まぐるしく登場人物を変えるステージ。どのアイドルも魅力的で愛らしく、かっこよかった。

そして私は出会ってしまったのだ、自他共に認める王者Re:valeに。

突如として現れた千と百の2人は、ストイックでパワフルなステージを繰り広げた。
Re:valeの一曲目、「激情」でステージを燃え上がらせた後、MCではころりと表情を変えて客席に歩み寄った。

「あんた絶対百好きだよ」これは友達がムビナナを観る前に私に言った言葉だ。

マジでその通りだった。

私はもはや百しか見ていなかった。
揺れるツートンのふわふわヘア、輝く大きなピンクの瞳、ちらりと覗く犬歯、身軽に駆ける長い脚、抑揚のついた元気な声。
さすがに最強すぎる。一挙手一投足がかわいかった、これに落ちないオタクがいるのだろうか、いや、いてたまるか。

そんな彼はこのステージに立てたことへの感謝を込めてスタッフやファンに向かって謙虚にお礼を言った。素直で率直な言葉は、無闇に好意を得るためのものではないとすぐにわかった。舞台に立つ演者としても、彼は完璧なのか。

私が放心状態になっている間に、次の曲が始まった。

「Re-raise」、聞いたそばから私はこの曲が大好きになった。音符の上を軽快に滑る歌声も、イメージよりずっと優雅に踊る2人も、澄ました表情も全て完璧だった。

そうして私は百に一目惚れした。

それからはもう言葉にするといくら字数があっても足りないほど、私は初見ミリしら以下ジャンルを大いに楽しんだ。

そしていよいよアンコール前最後の曲、「Pieces of the World」が流れた。
オーケストラ調の壮大な曲は大好きなジャンルで、「すごい!アイナナって曲が全部良いな」などとぼさっとしながら聴いていた(とはいえ視線は百に釘付けであった)が、ある歌詞によって私は泣かされることとなった。

「ここにあった眩しさは希望
春夏秋冬 翳らぬ太陽
僕らはひとときを駆け抜けるだろう
あらゆる結託を 壊して創造したい
明日と君を連れながら
それが出会った意味になるように」

これを歌うアイドルとは、どれほどまでの覚悟なのだろう。
私は突然、目の前で歌い踊る16人の未だ知らぬ過去に思いを馳せた。
このステージに来るまでにどれほどの苦労があっただろうか。それを見せないパフォーマンスをするまでにどれだけの我慢をしたのだろうか。時に暴力にすらなるスポットライトとペンライトの眩しい群衆を、「希望」だと、「翳らぬ太陽」だと言い切れるまでに、どれだけの時間を要しただろうか。
新しく出会うだけでも恐ろしいのに、いつか意味を見出すために笑いかける勇気はどこからやってくるのだろうか。
この歌詞をこんなにも明るく歌うなら、きっと途方もなく大きな壁を乗り越えてきたということなのだろう。
気づいたら私は涙ぐんでいた。

私は結局この日、ハマらないと思っていたアイナナにハマり、したこともなかった一目惚れをした。
面白いくらい綺麗に百に落ちた私を見て爆笑した友だちは、「DAY1は百のガチ照れが見れるよ♡」と悪魔の囁きを残して去っていった。
その後私が怒涛のメインスト履修をしたことは想像に難く無いだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?