遠雷(仮)
遠くで空雷の音が聞こえる。
ヤバい位、暗いグレーの雲が空を覆ってしまいそうだ。
もう少しだけ待ってよ。
とにかく今だから走りたいんだ。
召集時間。
緑のフィールドには走り終えた人。忙しく競技の準備に取り掛かる人。今、これから跳ぼうとする人。様々だ。
ピーンと心の糸がより強く張る。
地熱が熱い。
息が少し苦しい。
ごくり。生唾を飲む。
だけど、思った様に飲み下せない。
タータンの上に描かれた白いラインがぐーんと伸びて。
伸びている様で。
ずっと見てると、
吸い込まれそうで。
この夏は特別だから。
3年分をぶつけられなかった去年。あの頃の情熱は残酷に時間に置き去りにされた。 そのままフィールドを去った友達も多かった。
その中で、ずっと迷っていた。
ー卒業式が掲載される予定、そうアナウンスされた卒業式が終わった。
再びタータンに立った時、やっぱりここが居場所なんだと思った。
帰って来れた。
安堵?期待?分からない。
もう帰れないんじゃないかと何処かで感じてたから。
調整しようと触ったスターティングブロックも火傷する位熱かった。
高鳴る、高鳴る。
アドレナリンが分泌されている感じ。
On your mark……
Set……
!!
今年もまた日焼けをした。そりゃそうだ。炎天下の中、ずっとグラウンドにいるから。頬がヒリヒリする。
「鼻が痛ぇ…。」
それでもここは大切な場所。
ここからスタートした。
悔しいとか、仲間が出来て、色々ふざけあった。
「そろそろシューズも買い時かな。そういやあそこのメーカーも新作出してたっけ。」
転売ヤーが買い占めしてたけどね。今じゃとても手が出ない値段になってた。バイトしてない学生には悔しい。
少し髪型も冒険した。今更だけどツーブロック。(少しカッコ良くなれてたらいいな。)
「高校時代は頭髪検査があったから、先生にボコボコにされてましたよ。」
そもそも中学から陸上を始めた。唯一自信のあったとこ。足の速さ。得意を生かしてみたかった。何故か仲の良い友達も、いっぱい入部してきたのは今でも謎笑。心強かった。
「吐く~!!」
トレーニングはキツかった。後々、親が先生に聞いた話だと、高校へ進学しても通用する体を作る為のメニューなんだそうだ。
高校どころか、大学生になっても大きな故障が無いのは、きっとこの時のトレーニングが大きかったんだろう。
「吐く~!!」
何していいもんか分からなかったから、ひたすらトレーニングをこなしてた。1個上の良くしてくれている先輩がいつも校外トレーニングに誘ってくれてたっけ。
「中央公園集合な~。」
先輩LINEが来た。ってか来る前提ですか?笑。行くけどさ。
面倒見も実績もあるのに、鼻にかけない人。ただ喧嘩っ早いとこが玉にキズ。それでも初めて憧れた人だった。
高校へ進学後は種目転向して、インターハイにも出場したそうだ。
懐かしい。
花形の短距離には行かなかった。顧問から勧められたけど、選んだ戦い場所は砂の上。走り幅跳び。他の友達は短距離や中距離。他に誰も居なかった。いつも1人の練習。いや~メンタル育ったわ。
それでも跳びたかった。
誰より1cmでも遠くへ。
体格は小柄。陸上には不利ではあった。だけど、自身の中に特別なバネがあるのを見付けられた。陸上の神様はこの武器で戦える様にと授けてくれた様だ。今でもそれは大切な武器。
春は風と花粉症。夏はスタミナ。今でも天敵。秋が本領発揮のシーズン。冬はフィールド競技はオフシーズンになるから、来年への課題と基礎構築。
大会の日はいつも天気が荒れた。風が吹けば収まるまで待たされた。雨はともかく、雷様にはどうやら気に入られてて、遠く離れた場所からいつも観覧の為にお越しになる。流石に慣れた。
目の前数メートルへの落雷は、さすがに張り切りすぎ笑といつも思う。お願いしますよ笑
青春という言葉はよく分からない。ただ日々、必要なことを考え、こなしていく。勝つために。
線引きが来る日もいつか来るだろう。その時何を感じ、どんな気持ちになり、背を向ける覚悟になるか?まだ分からない。生涯現役でありたい。フィールドの上にいたい。
年齢や肉体的限界との付き合いのなか、今はただ真っ直ぐでありたい。
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