環境法令 その9(地球環境分野-6)

垂直農法というビルで農作物を育てる技術の進歩が目覚しいそうです。数万個のカメラやセンサーでモニタリングしビッグデータを使った機械学習で最適化したり、ペットボトルを再利用したメッシュ生地の上に浮いた状態で育つ空中栽培方式や、AI制御のLED照明が生育に最適な波長の光を当てたり・・・このように様々な分野の最先端技術を融合させることを「コンバージェンス」というそうです。(出典元:2030年すべてが加速する世界に備えよ:ピーター・ディアマンディス&スティーブン・コトラー著)


前回フロン類に関する国際的な規制が功を奏し、オゾン層は回復傾向にあるといいました。

しかし、二酸化炭素をはじめとするGHG(温室効果ガス)による地球温暖化には歯止めがかかっていません。
<環境法令その6>で触れたように1990年前後から世界的にGHGを削減する流れは強くなっています。当然日本でも省エネ法をはじめとして、様々な取組みが行われています。

では日本は温暖化対策としてどのような方向を目指していて、どのような法律が定められて、企業はどのように受止め行動していくべきでしょうか。


まずは、地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温対法」)に触れてみます。法律のタイトルがストレートに地球温暖化対策となっています。

第1条の目的規定をみてみると、

この法律は、地球温暖化が地球全体の環境に深刻な影響を及ぼすものであり、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させ地球温暖化を防止することが人類共通の課題であり、全ての者が自主的かつ積極的にこの課題に取り組むことが重要であることに鑑み、地球温暖化対策に関し、地球温暖化対策計画を策定するとともに、社会経済活動その他の活動による温室効果ガスの排出の抑制等を促進するための措置を講ずること等により、地球温暖化対策の推進を図り、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。

と少々長めですが、「GHG排出量を減らして地球温暖化を防止しましょう」という目的ですね。
この法律では、温暖化対策に関する国の目標や計画、基本的な施策等が定められています。

事業者に対する規定は努力義務規定が多いのですが、全ての事業所の原油換算エネルギー使用量の合計が1,500kl/年以上となる「特定事業所排出者」等には温室効果ガス算定排出量を毎年7月末日までに所管大臣に報告する義務があります(法第26条)
この規定何かに似ていませんか?
そうです。省エネ法の特定事業者のエネルギー使用状況等の定期報告に似ていますね。気になった方は 環境法令 その7 をご参照下さい。

尚、この報告義務を怠った場合には20万円以下の過料(行政上の義務違反者に課せられる秩序罰であり刑罰とは異なる)に処せられます(法第68条)

そして、GHG排出削減のための方策として電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「FIT法」)があります。

日本の発電電力でみた電源構成比は、石炭32%、石油7%、天然ガス38%、原子力6%、再生可能エネルギー17%(うち水力8%)となっています(2018年)。
実に77%を化石燃料に頼っているのです。化石燃料に頼った発電は当然ながら大量のGHGを排出します。

対して再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス、潮力)及び水力は自然エネルギーを利用する発電であり、CO2等のGHGを排出しないエネルギー源として位置付けられます(バイオマス発電は植物由来の燃料を燃焼させるとCO2が発生するが、その植物は成長過程で光合成によりCO2を吸収しているのでライフサイクル全体でみると大気中のCO2を発生させておらず±ゼロになるというカーボンニュートラルの考え方に基づく)。

そして化石燃料の多くは海外からの輸入に依存しています。
そのため日本の電力自給率は2018年で11.8%となっています。海外から化石燃料を調達するためには多大な輸送コストと、それに伴ってGHGも大量に発生します。


再生可能エネルギーの拡大は、地球温暖化対策、経済性、電力自給率の観点から重要なことがわかります。

しかし再生可能エネルギーは発電コストが高いためその普及には何らかの方策が必要なのです。

そして、FIT法に基づき2012年に創設されたFIT(固定価格買取制度)とは、再生可能エネルギーによって発電された電気を、国が定めた価格で購入する事を電力会社に義務付ける制度です。
電力会社のコスト上昇分は、電気料金に反映されて最終的に電気を使用する国民が負担することになります。
この制度の導入によって、特に太陽光発電の導入量は、2010年の390万kWから2016年4,229万kWへとは大きく拡大しました。

しかし風力発電は2010年の247万kWから2016年355万kW微増に留まっています。
風力発電の導入が拡がらない理由としては、
風力発電では環境アセスメントが義務づけられている等の影響で、調査から稼働までに5年程度の期間を要すこと、
地域住民への説明会で反対意見が出ることが多く、計画が頓挫する例も少なからずあるようです。

次に、地熱発電ですが、安定した発電ができるというメリットがあるのですが、条件を満たす立地が温泉地や自然公園などに限定されることからあまり導入が進んでいないのが現状です。

そして、バイオマス発電ですが、日本の再生可能エネルギーの中でも一定の割合(再生可能エネルギーの21.5%)を占めており、林業等の活性化にも繋がるため、今後期待されています。

他にもダム等による水力発電や、一般河川や農業用水路などを利用した小水力発電など一口に再生可能エネルギーといっても様々な種類があります。


原子力への依存度低減を図る中で、省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの拡大など、エネルギー起源CO2排出抑制対策の更なる推進は、震災以前よりも一層重要となってきています。
 このような背景を踏まえ、課税による経済的インセンティブを活用して化石燃料に由来するCO2の排出抑制を進めるとともに、その税収を活用して再生可能エネルギーや省エネ対策を始めとするエネルギー起源CO2排出抑制対策を強化するために、平成24年度税制改正において「地球温暖化対策のための税」が創設されました。(出典元:環境省HP)


炭素税と呼ばれるこの税ですが、

現在日本では二酸化炭素換算で税額289円/トンですが、

欧州各国では数千円/トン~1万円/トンを超える国もあり、

カナダも2万円/トン近くまで引き上げることを掲げています。

日本もこれらの国際的な動きに足並みを揃えざるを得ないのは必至なのではないでしょうか。


炭素税以外にも、排出量取引等のカーボンプライシングが拡大することは容易に想像できます。
そして炭素税のように主に大企業に与える影響が大きいものも、SDGsの持続可能なサプライチェーンの構築という考え方を踏まえると、中小企業にとっても他人ごとではないはずです。


脱炭素の流れをネガティブに捉えて苦しい企業経営となるか、チャンスと捉えて企業成長の糧とするか。
まずは、自社の現状(二酸化炭素の排出量等)を把握し、削減目標及び言計画を立て、実行、確認、改善というPDCAサイクルを回すことで結果的にコストダウンや生産性の向上に繋がるのではないでしょうか。

地球環境分野 おわり 

次回からは、公害に関する分野について触れていきます。

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