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海外動向 10/2〜10/8

当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。


◆ 今週の重要トピック

多チャンネル放送サービスの未来を多くの人たちが憂慮するなか、米国の2大ケーブル事業者であるComcastとCharterが対照的な動きを見せています。Comcastは全世界で配信サービスを積極的に展開、米国でも豊富なスポーツ中継を擁するPeacockで「優良顧客」の獲得に余念がありません。一方のCharterは自社のTVサービス加入者がDisney+やMaxといった他社の配信サービスを追加料金なしで利用可能にすることで、従来の多チャンネル放送と配信サービスを一体化させ顧客の流出を防ぐ戦略です。DirecTVやDishといった衛星放送事業者の状況を見るまでもなく、放送サービスの未来は大胆な施策が必要とされているようです。

◆ 業界動向

Comcastの多チャンネル戦略、ケーブル事業者の放送サービスからD2Cへ

メディアThe VergeのインタビューにComcast NBCUniversalのMatt Strauss氏が答えています。Strauss氏の役職は「chairman of direct-to-consumer」で、Comcastが全世界で展開するD2C(Direct to Consumer)型の配信サービス、米国のPeacockやヨーロッパでSkyが提供するNow TVなどをすべて統括する責任者です。とても長い記事ですので、気になった部分を抜粋して紹介します。

映像サービスはインフラを伴わなくなったことで、地域の独占的なサービスから複数事業者が競争する時代に変わった。これにより何が起きるのか。多くの事柄は予測可能な未来だったといいます。ケーブル事業者などのテレビ加入者が減少すること。低料金を求めて配信サービスに流れていくこと。しかしコンテンツ、たとえばスポーツ配信権のコストは下がらず、低料金での提供は長続きしないこと。人は自分で思っているより長い時間、映像を視聴しており、視聴時間は過去10年間、ほぼ一貫して増加していること。一つの配信サービスでは満足できず複数を契約すること。ケーブル事業者のテレビサービスより、むしろ高額になってしまうこと。その結果、配信サービスはネットなどを組み合わせた「バンドル」へ向かうことです。これは結局、ケーブル事業者のビジネスモデルに戻ったような形だといいます。

では放送サービスも配信サービスから以前のケーブルの多チャンネル放送のような形に戻るかといえば、そうは考えていないようです。今後はPeacockのようなD2C型のサービスが重要であり、Comcastは、これを幅広い年代層に提供していく。これは従来のケーブルの多チャンネルサービスと同様の考え方です。さらにライブとオンデマンド、広告ビジネスなどをバランスよく投入していく。なかでも根幹となるのがスポーツのライブ配信。NFLやオリンピックなど幅広くカバーし、1年365日のうち300日はスポーツのライブ中継があると言います。

また、ComcastにとってD2Cの配信サービスは短距離走ではなくマラソンのような捉え方で経営戦略を考えているということ。いたずらに低価格で加入者を獲得したり、適切な経済関係にはならないバンドル契約をせず、適切な利益とエンゲージメントレベルを持つ(結びつきの強い、長期的な契約が見込まれる)加入者を獲得していく。

配信プラットフォームについても触れています。NBCUniversalが持つ全世界を対象としたD2Cの配信プラットフォームです。難しいのはライブ中継でこれが機能しなければ根幹となる戦略が揺らいでしまう。そういう意味ではパリ五輪のライブ中継ができたことを誇りに思う。なお、これに従事している社員は数千人になるということです。

非常に慎重な言い回しをしていますが、ケーブル事業者などが提供するインフラを前提とした特定のエリアで展開する映像サービスは衰退していく。その受け皿、代わりとComcastが考えているのがPeacockのようなD2C型の配信サービスだということを話しています。

Charter、加入者にPeacock Premiumを追加料金なしで提供

今後、数ヶ月以内にCharterのSpectrum TV Select(TVプラン)加入者が利用できるようになります。また、2025年中に固定ネットのみの加入者にも提供予定ですが、料金などは明らかにしていません。Peacock Premiumは広告付きのプランでスポーツのライブ中継を含む8万時間のコンテンツを配信しており、通常は月額7.99ドルで販売されています。この上位プランとして広告が入らないPremium+(月額13.99ドル)がありますが、こちらも追加料金がかかると思われますが提供予定です。CharterはTV加入者に配信サービスを無料でバンドルする施策をとっています。これまでDisney+、Paramount+、Maxなどを追加料金なしで提供しています。Spectrum TV Selectの月額料金は65ドルですので複数の配信サービスを契約する場合、割安感が徐々に強まっています。

EchoStar、事業の中核を衛星放送から衛星・スマホの直接通信サービスへ転換

これまでの中核事業だった衛星放送を担っていた子会社のDishをDirecTVに売却し、今後は衛星にスマホからダイレクトに接続し通信を可能にするD2D(Direct to Device、直接通信)サービスへシフトするとCEOが表明しています。EchoStarの収益は衛星放送事業が67.4%を占めていました。ただ米国の大手モバイル事業者AT&T、Verizon、T-MobileはすでにD2DでSpaceX、AST SpaceMobile、Skyloなどとパートナー契約を結んでいます。

Sky、英国で始まったワンタッチ・スイッチに対応し24時間無休で固定ネット切り替えが可能に

英国ではOTS(ワンタッチ・スイッチ)という固定ネット事業者の切り替えに関するルールが施行されています。切り替える新事業者に連絡し工事日などを決めれば、新事業者が現在の事業者との撤去などの調整を済ませてくれる仕組みです。Skyは10月1日からこのルールに対応、さらに24時間365日いつでも申し込めるようにしたということです。

◆ メディア

メジャーリーグ、若年層の視聴者数が2桁の増加

大谷選手の活躍もあり日本でも盛り上がっているメジャーリーグですが、本家米国でも球場への観客動員数、テレビ視聴者数ともに大幅に増加しています。とくに若年層、18歳から34歳までの層でこの傾向が顕著です。テレビ視聴者数だと前年比でESPNチャンネルが12%、FS1で24%、Foxで9%増加したということです。

◆ インフラ

DOCSIS 4.0以降の展開についてCableLabs CEOがコメント

これまではCableLabsがDOCSISの標準化で主導的な役割を担ってきましたが、この「標準」の範囲を巡り議論が続いています。DOCSIS 3.1までであればヘッドエンド側のCMTSと家庭に設置するモデム間のインターフェイスが中心でした。これが4.0になるとRemote PHYなどのノード、アンプにネットワークの状態監視や制御インターフェイスが加わり、モデムも通信だけでなく同様の機能が追加されています。これらはBroadcomとComcast、Charterなどにより仕様が策定されています。Broadcomはこれらを制御するチップセットの仕様をオープンにすると表明していますが、時期は明らかにしていません。これに対しケーブル事業者やベンダーからは不満の声が上がっていますが、CableLabsのCEOは「Broadcomなどの動きは初期の開発を加速させるために必要だった。それらは広く利用される意図があった」と肯定的なコメントをしています。さらに、CableLabsによるDOCSIS 4.0の相互接続や認定テストを行なっていくということです。

英国で徐々に始まる50GbpsのFTTH

英国ではユーザーに固定ネットサービスを提供するISPと実際にFTTHなどのアクセスネットワークを敷設・運用する事業者が分離されています。後者をAlternativeオペレーターやAltnetと呼びます。このAltnetであるNetomniaが年内に50GbpsのFTTH網の建設に着手します。またOgiも2025年に稼働させる計画です。50G-PONを使うようですが、ユーザーに提供する際は40Gbpsの固定ネットサービスと謳うようです。ただ、記事の終盤ではこういった速度の実用性について疑問を呈するような形でまとめられています。

◆ 新技術

LGI、AIに関するドリームチームを結成し3つの分野へ優先投入

データ・AIのVP(Group Vice President of Data and AI)であるNirali Patel氏がTMフォーラムでインタビューに答えています。Patel氏は2023年1月にLGIに入社、以前はBTのOpenreachでデータ分析の最高責任者(Chief Data and Analytics Officer)を務めていた人です。プロジェクトに応じてLGI、事業運営会社、ベンダーからドリームチームを編成しAIエンジンやデータ管理、IT開発などの課題に取り組みます。対象とするAIのユースケースは顧客、ネットワーク、従業員の3つの分野を優先します。LGIの事業会社はオランダのVodafoneZiggo、英国のVirgin Media O2、ベルギーのTelenetなどがあり、それぞれ経営環境が異なります。グループ全体でAIに関して一貫性を保つため60〜80%は共通の技術を使用し、残りの部分は事業者の状況に合わせていくということです。

参考:LGI、コールセンター業務にAIを導入し、効率化と顧客の満足度向上を両立
Agent Assistと呼ぶカスタマーサービスのためのAIプラットフォームを導入。これを導入したことで、業務が効率化し、さらに顧客対応も的確に行えるようになったということです。具体的には、顧客が電話をかけてくると、顧客がなぜ電話をかけてきたのかをAIが推測し、関連性の高い3〜5件の情報を箇条書きで提示。電話に応じるスタッフは、会話を始める前にある程度の準備を整えることができるというものです。さらにAIが通話を聞き取り、通話のテキスト化や要約、さらに顧客が何を問題視しているかを解釈し、対応方法をスタッフに提示します。対応終了後は、これらのやり取りを記録、集計し、サービス全体を通してどういった問題が繰り返し生じているのかを分析したり、需要が高いと思われる製品やサービスに関する洞察を行います。LGIではこれをオランダのVodafoneZiggoとスイスのSunriseで導入、すでに70万件の顧客対応に使用しており、英国のVMO2でも試験運用を開始しています。

Samsung、「AI for all」を掲げスマートテレビで生成AIを利用可能に

開発者向けのイベント「Samsung Developer Conference」で発表しています。AIをあらゆるシーンで利用できるようにしていきます。スマートテレビでは番組の検索やテレビの設定でAIによる支援が行われます。また「Samsung AI Cast」によりAIを搭載したGalaxy(スマホ)で生成した映像などをテレビに映したり、GalaxyでChatGPTとやり取りした結果をテレビで確認できるようになるということです。開発者向けイベントでの発表ですので具体的な製品化の時期などは明らかにされていません。

◆ その他

米国における家電の利用・満足度調査、スマートテレビの保有率は80%

ACSI(American Customer Satisfaction Index)が「Household Appliance and Electronics Study」(家電と電子機器に関する調査)の2024年版を公開しています。(家電としての)テレビの満足度は前年から1点上昇して82点(100点満点)となりました。メーカー別のスコアも出しています。トップはSamsungで84点(前年から+2)、2位はLG 82点(-1)、3位は3社が81点で並びます。Hisense(-1)、Sony(±0)、Vizio(+1)。昨年はLGがトップでした。このほか2027年には出荷されるPCの60%がAI対応になると予測しています。調査は2023年7月から2024年6月にかけて無作為に抽出した1万3113件の電子メールによるアンケートで行われました。

2024年前半、電気通信設備への投資が10%の減少

Dell’Oroグループによる調査レポートによるものです。モバイルの5Gと固定ネットへの投資は減少が2023年後半から続いています。要因として在庫過剰、中国・インド・米国における需要の低迷、鈍い5Gへの投資などを挙げています。減少傾向は今後も続き、2026年までに年率(CAGR)で2%減と予測しています。

監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー

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