海外動向 10/23〜10/29
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
米国では配信サービスが食品業界に近づき、FASTがヨーロッパへ進出、ヨーロッパのテレコムはアフリカでの事業が成長ドライバーへ。日本にいると首を傾げたくなるようなお話が世界では進んでいます。昨日と同じことをしていては確実にダメになる。そんな激しい競争にさらされた事業者が、新たな経営戦略を打ち出し続けています。
◆ 業界動向
米国では食料品販売と配信サービスのバンドルが相次いでスタート
DisneyがスーパーマーケットKrogerで宅配サービスなどが受けられる年額99ドルのBoost With Kroger Plus会員向けに広告付きDisney+、Hulu、ESPN+のうちいずれか一つを無料で提供します。ワーナーは飲食物の宅配サービスDoorDashのDashPass会員(年額96ドル)に広告付きMaxを無料提供。このほかInstacartはPeacock、Walmart+はParamount+と、Netflix以外の主要な配信サービスの多くがスーパーマーケットや宅配サービスとのバンドルをスタートしました。
背景には激しい加入者獲得競争があります。成功事例とされているのがAmazonです。配達料が無料になるプライム会員の「おまけ」的な位置付けでスタートしたプライム・ビデオが今では存在感を示すまでに成長しています。食料品は生活必需品ですが配信サービスはそうではなく、生活必需品と結びつけることで解約を防ぐ。また、スーパーや宅配といった異なる業界とのバンドルによりこれまでリーチできなかった顧客の獲得に繋げるといった狙いもあるようです。
米国、9月のテレビの視聴シェア、Disneyが首位を奪還
Nielsenによる9月の調査結果です。NBCやDisney+といった放送、配信サービスごとのシェアではなく、メディア企業ごとに集計した視聴シェアとなっています。順位は7月以降、目まぐるしく変わっています。7月にはYouTube(Google)が初の首位。配信サービスが首位になったのは初めてでした。続く8月にはパリ五輪効果によりNBCUniversalが首位に。これまで長く首位を守り続けていたDisneyは7月は2位、8月はYouTubeに次ぐ3位に転落していました。9月に首位を奪還できた要因としてはNFLの開幕が大きいようです。
米国のテレビ広告、2025年からの5年間は年率2.1%のマイナス成長?
米国では選挙がある年は大量の政治広告が放送されるため広告収入が大きく膨らみます。2024年は大統領選があり、巨額の政治広告により収入は前年比14.1%増の249億5000万ドルを見込んでいます。2024年以降の5年間で考えると起点となる2024年に選挙があることで計算上のハードルが上がり、2025年から2029年までの5年間で選挙があるのは2026年と2028年の2回、残りの3年は選挙がありませんので年率換算するとマイナスとなっています。選挙のある2028年の予測は255.7億ドルですので、実質は微増と考えたほうがいいのかもしれません。
英国のSky、2023会計年度の損失が倍増
営業損失が2022年の1億1100万ポンドから2億2400万ポンドに悪化しています。要因として番組制作費の増加、モバイルデバイスなどのコスト増を上げています。テレビの視聴がSTBから配信サービスやスマートTVに移ったことも影響しているようです。売り上げは102億3000万ポンドで横ばいでした。
LGIのCEO、Mike FriesがGSMAのボードメンバーに就任
GSMAはモバイル事業者や関連企業で構成される業界団体です。2025年から2年の任期です。
◆ メディア
ヨーロッパでFASTは広がるのか? 挑戦が活発化
米国ではネット接続世帯におけるFASTの視聴シェアは平均37%ですが、ヨーロッパは5〜14%です。背景には魅力的な公共放送や民放の存在があり、またそれら放送局が配信サービスも行っていることからFASTが入り込む余地がなかったといいます。このあたりの状況は日本と似ているようです。ただ、そんな状況が変わりつつあるようです。TubiやソニーがFASTを開始したほか、ヨーロッパの放送局との提携も始まっています。ParamountのPluto TVはフランスでは放送局Groupe M6、英国ではBBCと提携するなどです。
メジャーリーグ・ベースボール、ワールドシリーズの2試合で視聴者数が激増
ヤンキースとドジャースの試合で盛り上がっているようです。第1戦の視聴者数は1520万人、第2戦は1340万人です。昨年のワールドシリーズは940万人、820万人でしたので大幅に増えています。Fox系のチャンネルでライブ中継されていますが、ここに差し込まれるコマーシャルの価格も書かれています。もっとも高額なものだとコマーシャル3回分で推定34万3040ドルということです。
ワーナー、Maxのドイツでの立ち上げが遅れるのはSkyとの契約が影響したため?
配信サービスMaxを2026年に開始する予定です。MaxではHBOの番組を配信していますが、ドイツではSky Deutschlandが独占的にHBOの番組を扱っているためMaxを開始できなかったようです。この契約は2026年までです。Skyとの提携がどうなるかは明らかにしていません。
Netflixの共同CEO、イベントで独自の生成AIを持つつもりはないなどいくつかの質問に回答
Wall Street Journal誌のイベント「Tech Live」で質問にTed Sarandos氏が答えています。興味深いものをピックアップします。Disneyが2026年初頭に新しいCEOを迎える計画であり、このCEOにSarandos氏が噂されていることを念頭に可能性を尋ねられたところ「考えてもいない(not even on my mind)」と全否定。DisneyのようなテーマパークをNetflixが展開することには「おそらくない。ただ、チケット制の体験施設(アトラクション)、ショッピング、レストランを組み合わせた50~60の施設を全世界に展開する可能性はある」。Netflix独自の生成AI開発については「ない。生成AIはあくまでクリエーター(人間)がコンテンツを作るためのツールと捉えている」。M&Aについては「大きなものは考えていない。Netflixは買い手ではなく作り手。コアビジネスには、まだまだ成長の余地がある」。NFLの配信権を2試合分だけ持っていますが、これを全試合に拡大することについては「絶対にないとは言い切れないが、スポーツのライブ中継は利益率の低いビジネス」と否定的に答えています。
米国での配信サービスへの加入、57%が広告付きプランを選択
Parks Associatesが米国のネット加入8000世帯から調査した結果です。ただ加入動機として気になる結果も出ています。広告付きプランに加入した世帯の1/4はコスト削減のためですが、より多くの割合で加入動機として挙げたのが、新しいサービスを試したり、解約したサービスの再加入のためというものです。一般的に短期間で解約する傾向が強いといわれる世帯が選んでいるようです。
制作コストの圧縮が要因? 放送・配信サービスの番組満足度が低下
北米在住の18歳以上、4500人から調査を行ったTiVo Video Trendsレポートによるものです。2年前の調査と比較して「まあまあ良い」「非常に良い」といったポジティブな評価をする人が減少しています。配信サービスでは、広告なしが4.1%減少し74.5%、広告ありは13.4%減少し60.8%、有料の他チャンネル放送は4%減少し65.1%となっています。事業者が収益性を重視したことで番組の質が劣化、数も減少していることが要因といわれています。
配信サービスMax、スペインでDAZNのスポーツ番組を提供
「Max DAZN」プランが月額44.99ユーロです。プレミアリーグ(サッカー)やテニスのグランドスラム、ル・マン24時間レースなどが視聴できます。
ワーナーの幹部がハリーポッターの新作についてコメント
Warner Bros. TelevisionのCEO兼会長のChanning Dungey氏がカンヌで行われたMIPCOMでコメントしています。制作は順調に進んでおり、英国とアイルランドでキャスティングの募集を初めている、2時間の映画ではできないような、より深いレベルで原作の世界を探求できる機会にしたいということです。
Netflix、南カリフォルニアのゲーム開発拠点を閉鎖
多数の著名な開発者が所属していましたが退社したようです。Netflixは7月に「80以上のゲームを開発しており、毎月、新しいゲームをリリースしていく」と表明していました。この方針に変更はないようですが、何らかの戦略変更があったようです。一部ではスマホ中心の開発方針を転換したのではないかといわれています。
◆ インフラ
米国のモバイル事業者がファイバー網建設を推進する狙いはコンバージェンス戦略
VerizonとAT&Tはファイバー網の建設を推進しています。その狙いはモバイル契約者にFTTHの固定ネットをセットで提供するコンバージェンス戦略があるというものです。Verizonによれば、FTTHを提供しているエリアは、提供していないエリアよりモバイルのシェアが5%高く、またモバイルとFTTHをセットで契約した加入者の解約率は50%減少するといいます。競合のAT&Tもシェアに関してはVerizonと同様にFTTHを提供可能なエリアは5%高いとコメントしています。先行してこの戦略を打ち出したAT&TはVerizonより積極的に推進していることもアピールしています。Verizonの1.6倍の光ファイバー網を保有しており、5倍のペースで建設しているということです。
ただMoffettNathansonのアナリストはコンバージェンス戦略に疑問を呈しています。広大な国土の米国ではモバイル事業者が固定網のカバー率を上げるのは難しいというものです。現時点でカバーできているのはAT&Tで13%、Verizonで15%しかありません。仮にVerizonが計画している光ファイバー網をすべて建設できたとしてもカバー率は25%にとどまり、コンバージェンス戦略の恩恵は限定的だという指摘です。
Verizon、第3四半期にFWA加入者420万世帯を達成、2028年までに800万〜900万を目指す
FWAの獲得目標は2025年末に400万〜500万でしたので、15ヶ月前倒しで達成したことになります。FWAとFTTHを含む固定ネット全体では1190万世帯となり、前年比で16%増となっています。米国最大のFTTHベースのISPだったFrontierを買収し、自社でもFTTHの建設を進め、2028年までに3000万世帯をカバーする計画で、最終的には3500万〜4000万を目標にしています。
AT&T、構築した光ファイバー網のホールセールの可能性を示唆
第3四半期の収支報告の電話会議でCEOのJohn Stankey氏が可能性を尋ねられ「(ホールセールは)利益を生み出す仕組みになる可能性がある。今かどうかはわからないが、回線に十分な容量があり、さまざまな方法で販売できるのであれば注目に値する」と答えています。AT&Tのファイバー網は現時点で接続可能世帯、いわゆるホームパスが2800万世帯、これを2025年末までに3000万世帯にする計画です。第3四半期にFTTHの加入は902万世帯になりました。
米国でのブロードバンドインフラへの設備投資額が過去22年間で2番目に多い
USTelecom(米国ブロードバンド協会)によると2023年の総額は947億ドルだったということです。テレコム事業者のFTTHやケーブルのDOCSIS、モバイル事業者の5Gなどが対象ですが、大手事業者に限定され、小規模な固定ネット事業者、衛星ネットは含まれていません。1996年から2023年までの総額は2兆2000億ドルでした。FTTH関連の投資総額は2023年から2027年までの5年間で1350億ドルと予測しています。年平均にすると270億ドルですので、2023年のブロードバンド総額で考えると30%弱となります。
◆ 新技術
メジャーリーグ・ワールドシリーズで用いられる中継技術
日本時間で10月26日から開催されるヤンキース対ドジャース。米国ではFox系で独占放送・配信されますが、ここで用いられる中継技術が紹介されています。カメラは合計20台が使われます。特徴的なのは「Ump Cam」というアンパイア(ホームの審判)目線のカメラとドローンでしょうか。ポストシーズンの中継でも使われていましたが、まさにアンパイアの顔の位置からホームベースとピッチャーが視界に入るアングルの映像となります。また、試合を盛り上げるために「iterative home-run tracker」、反復ホームラン追跡システムと訳せばいいのでしょうか、こういったシステムを導入し、見た目と音響効果をよりエキサイティングなものにしているようです。
企業で日常業務にAIを利用している人は26%
Jabraによるものです。国名は書かれていませんが、6カ国、1800人のAIに関する意思決定者と14カ国4200人の従業員を対象に調査を行っています。それによると日常業務でAIを使用している従業員は全体の26%でした。意思決定者の85%がAIに高い関心を持っており、従業員の54%がAIにより自分の仕事を改善できると答えています。これらの数値と比べると、実際に使用しているのが26%というのは低く、まだ導入が進んでいない様子が伺えます。AIに関する意思決定者に誰がなっているのかも調べています。全体の58%が18歳から39歳と若い世代、71%がIT部門以外から従事しているということです。
◆ 規制・政策
FCCがテレコムやケーブル事業者のカスタマーサポートの調査を開始
なかなか電話が繋がらないといった問題や、加入者の解約などの求めにスムーズに応じているかなどを調査します。少し前にFTC(連邦取引委員会)がいわゆる「クリックで解約法」を打ち出しています。今回はFTC(連邦通信委員会)による措置です。ちなみに「クリックで解約法」はケーブル事業者の業界団体NCTAなどが見直しを求めて訴訟を起こしています。
司法省はVenuの差し止め命令を支持する方向
Disney、Fox、ワーナーが共同で設立したスポーツ配信サービスを行うVenuはFuboの訴えにより地方裁判所がサービス開始の一時差し止め命令を下していました。米国司法省は、これを支持する「amicus brief」(意見書)を用意しているようです。
◆ サステナビリティ関連
Comcast、10億ドルのグリーンボンドを100%再生可能エネルギーによるスタジオなどに充当
2035年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げています。主な充当先として挙げているのは2023年に完成した英国のスタジオで100%再生可能なエネルギーで運営されており、そのうち25%は太陽光発電ということです。このほかケーブル事業のフィールドサービスなどで使用するバンやピックアップトラックのEV(電動)化、機器の修理対応を増やしたりリサイクルしたりすることで廃棄物を減らすといった取り組みを行っています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。