2020アメリカ予備選実況

「今、アメリカ大統領選挙はどの段階にあるのか?」
アメリカ大統領選挙は長期戦です。レースは一年以上前から始まっています。選挙戦は以下のように大きく二つに分かれていて、今は予備選挙が行われています。
①予備選挙:Primary Election←今ここ!
予備選挙は、各党の大統領候補者を一人に絞るための選挙です。予備選挙の日程は州によって異なります。(←州の権限が強いアメリカらしい!)
夏には各党の候補者が決まります。つまり、予備選挙では、民主党、共和党それぞれの党内で候補者指名争いが行われます。
②本選挙:General Election
本選挙は今年は11月3日(火)に行われます。予備選挙の後、各党から指名された候補者は大統領の座を目指して選挙活動を進めます。

「予備選挙の歴史:にじみ出るアメリカらしさ」
予備選挙の細かいルールは民主党と共和党で異なります。州によっても開催日や、やり方に違いが出ます。予備選挙のシステム自体は20世紀になって徐々に定着し始めました。昔は、党の幹部が候補者を勝手に決めていましたが、プロセスの民主化を求める声が高まりました。1968年の民主党の候補者選びでは、予備選挙で負けた人を民主党の候補者に指名してしまい大きな反発を受けました。(当時は、予備選挙の結果に拘束力はほぼなく、党幹部が大きな権力を握っていました。)それを機に、国民が選んだ候補が民主党の候補になれるようにプロセスを改良しました。現在では、予備選挙の結果に党が影響を与えることは困難です。従って、トランプ大統領のようなポピュリスト候補が出馬しても、誰も止められないのです。2020年は、共和党サイドは現職のトランプ大統領で確実なので、予備選挙をやらない州もあります。今年熱いのは、トランプの共和党からホワイトハウスを取り返すために必死な民主党の予備選挙です。

「予備選挙のポイント①:州によって異なる開催日」
州によって予備選挙が行われる日が異なります。実は、このことが選挙結果に大きく影響してきます。2月3日のアイオワ州での党員集会をスタートに、7月まで予備選挙は続きます。予備選挙という仕組みだけでも、日本人としては新鮮な気持ちになりますが、開催日まで州によって異なるというのは面白いですね。47都道府県別々の日に選挙を行うようなものです。こうした仕組みの背景には連邦政府(中央政府)による州への干渉を嫌い、州に大きな権限を残しているアメリカ合衆国の政治システムがあります。州によって選挙日が違うことで次のような効果があります。

①無名の候補者でも勝ち上がることができる
序盤のアイオワ州、ニューハンプシャー州、サウスカロライナ州で勝利を収めることが最終的な民主党候補者の座を勝ち取るためには欠かせません。これらの州をEarly Primary Statesと呼びます。Early Primary Statesで2位以内に入らなかった候補者が民主党の候補者として指名されるのは非常に困難といわれています。Early Statesで勝利を収めると、メディアからの注目量が一気に増え、献金も増えます。長い選挙戦を戦う上で、資金調達に困るとレースから撤退せざるをおえません。こうした仕組みが一番有利に働くのは、国政経験の少ない全国的知名度の低い議員です。Early Statesにリソースを集中的につぎ込み、良い成績を残せば、知名度は一気に上がります。Early Statesで得た勢い(momentum)を消さないことが大事です。当時知名度の低かったオバマ大統領も2008年にEarly Statesで勝利したことが民主党指名獲得のポイントだったと言われています。2020年にも、ピート・ブティジェッジ候補が同じ道を辿るかと思われましたが、黒人の人気の低さがEarly Statesの一つであるサウスカロライナで露呈し、彼は選挙戦から離脱しました。アメリカの田舎の市長がここまで全国的な人気を集めたのは、間違いなくアイオワ州、ニューハンプシャー州で力強い結果を残したからです。

②人口の少ない州が全米の行方を担う??
上で示したEarly Statesは、人口の少ない州です。アイオワやニューハンプシャーは高齢の白人が多く、人種的にも多様性に欠けています。しかし、現行の予備選挙の仕組みだとこうした州の投票結果が今後のアメリカの行方を担うといっても過言ではありません。このことについては、様々な議論があります。

「予備選挙のポイント②:選挙人獲得方式」
票の数え方が非常に複雑なので、詳細の説明は控えますが、簡単に説明すると以下のようになります。各候補者は有権者の票を狙うのではなく、選挙人の獲得を狙います。選挙人は各候補者の得票率に比例する形で分配されます。選挙人は7月の民主党全国大会で、それぞれの候補に投票します。なお、自分が割り当てられた候補以外に投票することは基本的にできません。なので、選挙人=ポイントだと思ってください。選挙人=ポイントの数は州の人口によって変わります。最大はカリフォルニアの415ポイント(415人の選挙人)です。民主党の代表候補者として指名されるには、1991ポイント集める必要があります。(各州で獲得した選挙人の数の合計が1991人を超えれば勝ちです。)

選挙人=ポイントの分配方法はとても複雑です。簡単な具体例を使って説明します。例えば、カリフォルニアの中の選挙区Aがあったとします。選挙区Aは10ポイント分の価値があります。バイデン候補が選挙区A内で70%の得票率を記録し、サンダース候補が30%だったとします。この時、選挙区Aのポイント(=選挙人)のうち、バイデン候補は7ポイント、サンダース候補は3ポイント獲得します。

ここで、忘れてはならないマジックナンバーがあります。マジックナンバー15です。

ポイントを獲得するためには、その選挙区での得票率が15%を超えていないといけないのです。このシステムは、弱小候補を排除することを目的としています。15%を超えない場合、選挙人は獲得できません。先ほどの例を当てはめてみましょう。バイデン候補が仮に得票率16%で、サンダース候補の得票率が14%だったとします。この場合、サンダース候補が獲得するポイントはゼロです。

3月3日(火)別名Super Tuesdayでは、14もの州で予備選挙が開催されます。このSuper Tuesdayを前に何人かの候補者がレースを脱退しました。15%の壁を越えられそうになく、Super Tuesdayで完敗した場合、代表候補者指名の可能性は無に等しいです。きっと、そんな事情もあったのではないかなと思います。

「スーパーチューズデーの注目ポイント」

①各候補の今後を占う
スーパーチューズデイはでは、先ほどの選挙人の3分の1が選ばれます。つまり、各候補者に配分されるポイントのうち3分の1が出払うということです。ここで本命の候補者が絞られるはずです。特に、注目はエリザベス・ウォレン候補者です。レース序盤から成績が振っていません。サンダース議員と同じ急進左派の一角です。ウォレン候補者がレースに残ることで、急進左派の票がサンダースと分けられてしまいます。また、ウォレン候補者は現職のマサチューセッツ州の上院議員です。地元マサチューセッツの予備選挙もスーパーチューズデイに開催されます。現在、サンダースとの接戦が予想されていますが、地元で敗北を喫するとなれば、彼女の選挙戦はもう風前の灯火でしょう。

②アメリカ民主党の行方を占う~急進左派vs中道~
スーパーチューズデイを直前に控え、流れに乗っていたブティジェッジ候補、そしてクロービシャー候補が選挙戦から撤退しました。二人とも、撤退直後に民主党中道の重鎮でオバマ政権下の副大統領だったバイデン氏の支持を表明しました。バイデン氏はオバマ政権下での実績が買われ、黒人の有権者から圧倒的な支持を集めています。(ゲイを公表しているブティジェッジ候補は熱心なキリスト教信者の多い黒人からの人気を得られずレースから離脱しました。)ブティジェッジとクロービシャーのバイデン支持が何を意味するか。実は二人とも、政策が中道的でバイデン候補との親和性が高いのです。
中道ファイヤーウォールの形成
彼らのバイデン支持表明は、勢いづく急進左派サンダースの前に壁となって立ちはだかることを意図しています。中道の有力候補者が一本化されたことで、今後の民主党予備選挙の中心的なテーマは、アメリカ合衆国は急進左派、中道どちらを必要としているのかに集約されると思います。民主党の幹部はサンダース氏が代表候補者に指名されることをなんとしても避けたい状況です。ニューヨークタイムズの記事は、2020年の民主党予備選挙は2016年共和党予備選挙のデジャブだと伝えました。非常に興味深いほどに、構図が似ています。本流の共和党候補者が同じ畑で乱立する中、粛々とアウトサイダーであるトランプが票を稼いでいく。実は、サンダース候補は左のトランプと呼ばれるほど共通点が多いです。まず、彼は、普段は民主党員ではありません。選挙期間中だけ民主党員として活動しています。次に、既得権益vs労働者階級という極端な対立構造を作り出す、まさにポピュリストです。2016年の共和党の間違いを繰り返さないためにも、この時期に中道の有力候補がバイデンに絞られたのは民主党本流の今後のためにも賢明な判断であったように感じます。また、バージニア州の結果が注目されます。バージニア州は最近民主党支持層が増えました。民主党の裾野を広げるのは、中道派か急進左派か占うのにうってつけの州です。
サンダースの勢い
自らを民主社会主義者と呼ぶサンダース候補は、自陣営の選挙活動を通常の“campaign”ではなく、”movement”と呼んでいます。腐敗した既得権益から労働者を守ると訴えながら、政府主導国民皆保険の導入や学生ローンの取り消しなどの政策を掲げています。こうした政策は現実味を大きく欠くという批判を集めています。また、全米でも黒人大統領や女性大統領、LGBTQ大統領への理解は高いものの、社会主義的イデオロギーを持つ大統領に投票するという人は45%と半分を切ります。しかし、サンダース候補は若者に人気があります。僕自身、ニューヨーク州の大学で生活する中で、学生の間のサンダース熱を感じます。また、大口献金ではなく、草の根の支援者が多いのが特徴です。トランプからホワイトハウスを取り返すためには、全米の投票率を上げる必要があり、若者など今まで政治に参画してこなかった層を刺激できるのは自分であると訴えます。これに関連して、ニューヨークタイムズの論説に面白いデータがありました。サンダース候補が民主党の大統領候補になった場合、トランプに投票するという人も一定数あり、そうした難しさを乗り越えるためには、若者の投票率を11%ほど上げる必要があります。ちなみに、2008年のオバマ大統領は黒人などのマイノリティ有権者を刺激し、投票率を上げたことで有名ですが、その時でさえ、黒人の投票率は5%しか上がっていません。この数字からサンダース氏のいう、全米の人々を刺激し、トランプをも打ち破るような大きな“革命”を起こすことがどれだけ難しいか分かると思います。今回のスーパーチューズデイにおいて、若者やマイノリティの有権者の投票率がどれだけ上がったのかも注目しなければなりません。実際、サンダース候補が民主党の代表候補になった場合、トランプ大統領に本選挙で勝つのは難しいという意見もあります。
中道候補の行方
バイデン副大統領は、アイオワ州とニューハンプシャー州、ネバダ州と予備選挙トップバッターの3州で惨敗を喫し、支持率が急落しました。しかし、黒人人口の多いサウスカロライナ州で2位サンダース候補に30ポイントもの差をつけて勝利し、勢いを取り戻しつつあります。さらに追い風となったのが、ブティジェッジ候補とクロービシャー候補の支持表明。勢いを加速しながら迎えるスパーチューズデイに注目が集まります。バイデン候補は資金集めに苦労し、サンダース氏に大きな後れを取っています。そして、バイデンの相手はサンダースだけではありません。元ニューヨーク市長で超々大金持ちのブルームバーグ候補がスーパーチューズデイから予備選挙に参戦します。彼は、自らの圧倒的な資金力を背景に、大金を広告につぎ込んできました。スーパーチューズデイは、その成果が問われる日でもあります。政策の方向性もバイデンと近いため、票の取り合いになることも考えられます。
ビジネスとしての大統領選挙
各候補者は、大量の資金をテレビやネット上の広告に使います。中道の一本化を受け、サンダース陣営はバイデン候補の過去の政策を批判する広告を増やすとしています。具体的には、バイデン候補の貿易背策(NAFTA支持)や、保険政策、イラク戦争支持の投票行動などについて追及する構えです。このように、政治に無関心な人たちの弱みに付け込み、彼らの不満を煽るような選挙戦略はいかがなものかと思います。

③本選挙の行方を占う
スパーチューズデイに予備選挙を行う州の中には、ミネソタ州など本選挙で接戦が予想される州も含まれます。予備選挙において、2位以下に大差をつけて勝つというのは本選挙で勢いを増すためにも重要です。また、サンダース候補がここで勢いをつけてしまい、民主党の候補者になった場合、本選挙はポピュリスト同士の戦いになり、アメリカ合衆国の“見かけの”政治的分断が深まる形になります。

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