見出し画像

【読む】Ars Erotica (1)

Shusterman, R. (2021). Ars Erotica: Sex and Somaesthetics in the Classical Arts of Love. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9780511791888

第1章 Ars Erotica and the Question of Aesthetics

<用語について>
・本書の主な目的は、伝統的な「性愛の技芸 Ars Erotica」が、単なる性的な満足感を高めるために考案されたわけではなく、独特な美的・感覚的な快を与え、また、性的行為の限界を超える理解、感受性、優雅さ、術、自己鍛錬をも育むものであることを示すことである。(p. 1)
・本書の、Ars Eroticaと言葉は、美学、芸術、修行、文化、イデオロギー、社会階級などの背景を反映しての用語である。sexは、本性であると同時に文化である。
・arsはラテン語、eroticaギリシャ語(arsをギリシャ語のtechneを用いた場合には、技術的側面が強調され、eroticaをラテン語のamorを用いた場合は、loveとしての意味の範囲が広い)ars eroticaは、フーコーが使用し、広まる。

<ars eroticaの美学的な側面>
・fine art領域のものが性的な実践に含まれる(詩、音楽、美食、など)
・機能よりも美的側面が重視される
・形式の重要性
・様式化(stylization)
・象徴としての意味合いが豊富である
・人間性を評価する側面(教養、能力、趣味、倫理などを評価する尺度として)
・自然と文化の両面が接するもの

<ars eroticaの修行的な側面>
・感覚や知覚の集中度、敏感度を向上させる。微細な雰囲気、動きを感知しなければいけない
・社会的な倫理の基準が具現化される。相手に十分にアピールしたり、相手を判断したりするために、社会の倫理の体得が必要。
・科学的な知見との接続。特に、インド、中国の古典における古代医学との関連において。
・実践的、社会的、文化的な知識との関連。
・宗教的、精神的な側面

研究は、比較である。過去と現在を比較し、概念Aと概念Bを比較し、現象Aと現象Bを比較する。シュスターマンは歴史の中のクラシカルな性愛をたどる。そうすることで、現在の、矮小化され、タブー視されている性の観点からは見えてこない、性愛の「美的」側面、「自己教育self-cultivation」の側面が、浮上してくるという。これは、今の性愛が「閉ざされ」、過去の性愛は「開かれた」という、単純な比較でもなく、歴史の性愛の技芸をノスタルジックに美化するものでもない。例えば、世界各地の各時代のクラシカルな性愛における女性の過酷な性的地位は、加減なく記されている。探ろうとしているのはノスタルジアではない。数百年〜数千年もの地層に埋もれて忘却されている、各時代に属する個人の、芸術の内密な表現としての性愛である。現代にもその痕跡は残存するであろう。互いをベッドに誘うまでの関係の軋轢、口説きと拒絶の拮抗、場所の選定と装飾、音楽や道具や香りの選びなどなど。ある意味、性愛の教育的な側面ともいうべきところを促している。

self-stylingとしての性愛。自分のスタイルを確立していくことは、0から思うがままに自由に築き上げるものと考えるべきか?いや、「自由に踊ってください」と言われると、何も表現できなくなるに違いない。むしろ、厳格なフォーマットが自己の様式を生み出すために有効な出発点であるかもしれない。厳格さを守るが故に、あそびがぽろっと出たりするのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?