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憲法答案の型を使った実践解説 -R5予備試験-

割引あり

 こんにちは、しまのです。
 前回に引き続き、憲法答案の型がテーマです。
 今回は争点形成のポイントを説明した後に、私のR5予備試験の答案構成をベースに型を使った答案について解説しようと思います。
 私は基本的には型を死守する守りの姿勢でしたが、答練や模試では高評価を得られることが多く、また予備試験でもA評価でした。そのため、守りの答案でもA評価がつくということがお分かりいただけると思います。
 どのような形式で書いたかではなく、どのように使ったかが評価の分かれ目です。私なりの点数が伸びると考えている書き方を説明しますので、最後までお読みいただけますと嬉しいです。


1. 設問形式について

 憲法の設問形式については意見書型3者間型があります。
 一定のトレンドはあるものの、どちらの形式で出題されるかは不明です。決め打ちせずに、いずれの形式も書けるようにしておくことが求められます。
 ただ、どちらの形式も書く内容は同じです。書く順番が違うだけです。争点ごとに議論を展開するのが意見書型、当事者ごとに議論を展開するのが3者間型です。
 原告の主張と私見のどちらも書かないといけない3者間型の方が、書く分量が多いように見えます。確かに、一般的には3者間型の方が分量は増えるでしょう。しかし、3者間型の方が極端に記述が多くなることは普通はありえません。書く順番が違うだけだからです。
 それにも関わらず、3者間型に苦手意識を持つ方は多い印象を受けます。これは原因として、適切な争点形成をできていないからだと思います。例えば、原告の主張で書いた内容を私見で繰り返すような答案が、このケースにあたります。同じ議論をするなら、そもそも議論の実益がないですよね。同じ議論をする場合、意見書型であれば重複して書くことはありません。このような原因から、3者間型では重複記載により記述量が膨らんでしまい、苦手に感じるものと思います。
 しかし、適切な争点形成がされていないのであれば、意見書型でも高評価は望めないと思います。作問者が想定する争点に対してどのようなアプローチをしたかが受験生に期待されていることだからです。この点は、司法試験の採点実感(※)でも指摘されているので、予備試験でも同じことが当てはまると思います。重要なのは形式ではなく、その中身です。
 私が受けたR5の問題は3者間型の出題でしたが、あろうことか意見書型で書いてしまいました。それでもA評価だったのは、適切に争点形成がされていたことが原因だったと思います。
 ここからも、形式ではなく中身が評価されていると分かると思います。


採点実感は試験対策として極めて有効ですが、予備の受験生は司法試験の過去問にまで手が回らないことがほとんどだと思います。そこで、以下の書籍を読むことをお勧めします。短時間で憲法答案に求められるエッセンスを吸収できます。他の科目でも有効ですが、評価基準の不明確な憲法は特に効果が高いと思います。


2. 判例について

 設問に「判例に触れつつ」と指定が入る場合と入らない場合があります。近年の傾向では判例に触れる旨の指定が入ることが一般的です。
 ①判例に触れつつの指定がなければ判例に触れる必要がないかどうか、②判例に触れつつの指定があれば事件名まで引用するかどうかの2つの問題点があります。
 こちらに関しまして、私は以下のように考えていました。

①について
 設問の指示は注意喚起であり、この記載の有無で配点に違いはないと思います。他の科目では特に指定がなくても判例を参照して、しかもそこに配点があることを当然の前提にしていますよね。そうであれば、同じ考えは憲法にも当てはまると思います。
 そのため、設問の指示がなくても必ず判例に触れるようにしていました。

②について
 「判例に触れつつ」の解釈ですね。これは見解が分かれると思いますが、私は事件名まで書かない派でした。理由としては、過去の再現答案を見ても事件名まで触れていないA評価の答案も多数あったこと、事件名を覚えるのが苦手だったから事件名外しのリスクがあったことが挙げられます。
 私の憲法答案は守りの姿勢で無理をしないことがコンセプトだったので、必要以上に点を稼ぐよりも、失点を防ぐことを優先しました。
 結果としてA評価をとれたので、この方針で大丈夫だったとは思います。
 ただし、事件名まで書いている答案とは当然ながら差はつきます。また、今後他の受験生がみんな事件名を書くようになったら、書かないと相対的に沈むようになります。
 そのあたりを踏まえて、リスクをとるかどうかの判断が求められると思います。
 なお、試験の現場で方針を決めるとぶれてしまうので、試験前に方針を定めておくことを推奨します。
 

3. 争点形成について

 論文答案の最重要テーマの一つです。
 争点が設定できるかどうかは、他の科目で言えば論点を漏らさず検討できたかどうかと同じです。どんなに型を守っても、これが上手くできないと高評価は望めないと思います。
 それぞれのフェーズにおける争点設定のポイントを、以下解説します。基本的には判例・学説がベースになるので、基本知識の習得がものを言いますが、現場思考も求められるので、論パ貼り付けでは対策しきれないです。

 なお、採点実感では、原告・被告双方に極端な主張をさせて、私見で中間審査基準に落とし込むような答案を不良な答案の例として指摘されているので、注意しましよう。

(1). 保障領域の認定

 ここでの争点は、Xの主張する権利が憲法の上の保障を受けるかどうかです。原告としては、保障領域に入ることを主張します。これに対して、被告としては、保障領域に入らない、もしくは、より要保護性の弱い権利で保障されると主張します。これにて争点設定完了です。
 ただし、好き勝手に保障領域の認定をするのは憲法答案にはならないので、判例・学説を参照しましょう。


問題となる権利:営利広告の自由
原告の主張:「表現」として21条1項で保障
被告の主張:営利広告は営業活動の自由(22項1項)で保障

最高裁S36.2.15大法廷判決(あん摩師等法広告事件、以下「昭和36年判決」とします)は21条の問題なのか22条の問題なのかについて明示しないまま、21条に違反しないと判断しているため、学説による解釈を採用する。

知る権利は21条1項で保障されるところ、営利広告は消費者の知る権利にとって重要であるため、営利広告の自由も21条1項で保障される。

(2). 制約の有無

 ここも争点になり得ます、制約がなければ問題にならないので、被告の反論として展開することになるでしょう。
 ただ、ここで争う実益があるケースは多くはないと思うので、無理に争点化する必要もないと思います。制約なしという主張が反論として成立するかを考えて判断しましょう。制約がないという反論を引き出しとして持っておくことが大切です。

(3). 規範定立

①権利の重要性
 
原告の立場としては権利が重要であること、被告の立場としては権利性は一歩落ちると主張します。


(営利表現が21条1項で保障されることを前提として)
原告:二重の基準論→表現の自由は重要だから厳格に審査すべき
被告:営利的表現は自己統治の価値が希薄であり、厳格度を緩めて審査すべき
私見:消費者に正確な情報を伝達するという重要な意義はあるが、政治的言論とは異なり虚偽の情報が客観的に判断しやすく、委縮効果が生じにくい

②制約態様
 
原告としては制約が強いこと、被告としては制約が強くないことを主張します。ここは正直うまく争点化するのは難しいと思います。
 私はメインの争点とはぜずに、権利性・対立利益と合わせて審査基準の調整用の争点として使ていました。

③対立利益
 対立利益は、基本的に基準を緩和させる要因なので、被告か私見で書くことになります。
 昭和36年判決では、虚偽誇大広告によって惑わされた一般大衆が適切な医療を受けられなくなるおそれがあるとして、「国民の保健衛生上の見地」という対立利益が重いことを理由に、「公共の福祉を維持するためやむを得ない措置」としてあっさり合憲であるとしています。ここから、日本の最高裁は対立利益の重要性を審査密度を下げる要素として考慮していることが分かります。

④規範定立
 
ここまでの争点を踏まえて基準を立てます。重要なのはどの基準を立てたかではなく、前記①~③の論証との整合性と説得力です。原告と被告で異なる基準を主張するだけでは争点を形成したとは言えないので、注意しましょう。

(4).当てはめ

 主戦場は手段審査です。あてはめにおいて争点が存在しないことは、まずないと思ってください。被告の主張が問題文にの事実に必ず落ちているので、必ず争点形成をしてください。ここが一番の山場です。
 自己の結論に不利な事実を反駁したかどうかで勝負は決まります。単に不利な事実を挙げて、「もっとも」以下でひっくり返すだけでは反駁したとはいえません。しっかりと利益衡量を示したうえで、自己の結論の正当性を表現できれば、高い評価を得ることができるでしょう。

4. 実践編 R5予備試験の現場答案の分析

答案構成

分析

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