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短答論文両対応!思考で覚える組織再編

割引あり

 こんにちは、しまのです。
 今回のテーマは組織再編です。

 組織再編は手続が複雑で、特に苦手な方が多いと思います。類型ごとに、手続の原則例外が変わってきて、またパターンも複数あり、これを機械的に覚えることは不可能でしょう。
 しかし、これらの原則例外は、株主と債権者の利益保護のための利益衡量の表れです。104条と326条1項が根源にあります。これが分かっていれば、思考から手続を導出できるようになります。
 そこで、組織再編の思考過程を身に着けることが今回の目的です。
 前回と同様に、無料でも十分学べる内容にはしておりますので、お付き合いいただけると幸いです。


0. 前提

 この記事は、組織再編手続についての理解を得ることを目的としています。制度や手続の概要の説明の記載は、思考過程の説明に必要な限度しかありませんので、これらの基礎知識は基本書やテキストをご参照ください。
 また、論文を主眼に置いた記事となりますので、出題可能性が低いと考えられる株式交付と持分会社は考慮していない内容となります。

1. 導入

 当記事は、組織再編の思考過程を理解することで、以下の到達点を想定しています。

レベル1 論文式試験で主要な手続を概括的に把握し、説明できるようになる
レベル2 論文式試験で条文操作ができるようになり、知らない手続を聞かれても対応できるようになる
レベル3 組織再編の手続の趣旨を踏まえた利益衡量ができるようになり、上位答案が作れるようになる
レベル4 短答の正誤判定が思考からできるようになる(おまけ)

 サブではありますが、短答対策は手続の思考過程と相性がいいので、おまけで付けました。今年の論文を受験しない方であっても、来年の短答を受験上での正誤判定・論文の条文操作と利益衡量の重要な思考を身につける絶好の機会です。
 ぜひお読みいただけますと嬉しく思います。

2. 条文構造の把握

 会社法に限った話ではありませんが、条文構造の把握は制度の理解に欠かせません。組織再編はやや特殊な構造になっています。

 まず、組織再編には以下の6つのスキーム類型があります。
 (合併、分割、株式交換等)×(吸収型、新設型)=6通り
 これらの類型の「契約」(748条等)もしくは「計画」(762条等)は、当該類型ごとに規定されています。

 一方で、手続については上記スキーム類型ごとではなく、会社の分類に応じた類型で規定されており、以下の4通りとなります。
 (吸収型、新設型)×(消滅会社、存続会社・新設会社)=4通り

 論文で重要なのは、手続の条文構造です。組織再編が出題されたら、ここに配点がないことは考えにくいです。そして、条文の指摘ミスが生じやすく、差がつきやすいところでもあります。
 まずこの条文構造を理解しないことには始まりません。 なぜ契約・計画と手続でグルーピングが違うのでしょうか。

 契約・計画は、スキーム類型ごとに内容(法効果)が異なるのだから、類型別なのは理解しやすいと思います。
 一方で、手続の会社分類のグルーピングの根拠はなんでしょうか。いつもどおり、会社法の本質から思考します。

 組織再編がされると、会社の財政状態は変化します。そうすると、債権者としてはどう思うでしょうか。株主有限責任原則(104条)のもと、責任財産が変動するのは怖いんじゃないでしょうか。
 また、組織再編がされると、会社の基礎が変化します。それを主導するのは取締役です。所有と経営が制度的に分離(326条1項)している株式会社では経営は取締役に委ねられます。しかし、会社の所有者は株主です。自らの投資の対象が変化するのであれば、投資を清算したいと考える人も出てくるんじゃないでしょうか。
 組織再編の手続は、この両者の利益を保護するための規定です。そして、消滅会社の債権者は、債務者の変更が生じるという点で利益状況が共通しています。消滅会社の株主は、投資の対象が存続会社に変化するという点で利益状況が共通しています。
 存続会社の債権者は、債務者が大きな買い物をしたという点で利益状況が共通しており、存続会社の株主も新しい会社を買ってきて会社の基礎が変わるという点で利益状況が共通しています。
 手続は2大ステークホルダーの保護のための制度ならば、そのグルーピングは利益状況に対応するものである必要があります。そのため、利益状況が共通している会社同士をグルーピングしたのが、手続の条文構造となります。

 これを踏まえて、もう一度手続の条文構造を見てみてください。
 見え方が変わったのであれば、条文構造を理解した証拠です。

3. 主要な手続の把握(レベル1)

 論文で抑えるべき主要な手続は以下の手続です。これらを概括的に押さえることが、条文構造を把握したあとにやるべきことです。
 これ以外にも手続はありますが、まず根幹となる以下の手続を押さえて、残りの細かい手続はそれに肉付けするなどして優先順位をつけましょう。
 お手持ちのテキストや基本書に見取り図があれば、それを参照しながらの方が理解が進むかもしれません。

 これらは最終的には完璧に条文操作をできるようになる必要があります。今この記事を読みながら、必ず条文を引くようにしましょう。条文は引けば引くほど力がつきます。

4. 手続の条文操作と論文答案の着眼点(レベル2,3)

 ここでは、条文操作と趣旨を踏まえた論文答案の着眼点について説明します。条文を引きまくって、条文操作を極めましょう。
 また、これに合わせて趣旨も押さえて、法がどのように利益調整を図っているのかを理解しましょう。この理解が論文答案の質の向上に役立つはずです。

(1). 事前開示

 吸収型の消滅会社等 782条1項
 吸収型の存続会社等 794条1項
 新設型の消滅会社等 803条1項
 新設型の設立会社等 なし →そもそも存在しない

 趣旨は株主と債権者への事前の情報提供です。論文ではあまり問題にはなりませんが、株主や一定の債権者にはこれらの閲覧請求権があることは知っておきましょう。
 効力発生前の情報収集手段なので、地味ですが重要です。

(2). 株主総会の承認

 吸収型の消滅会社等 783条1項
 吸収型の存続会社等 795条1項
 新設型の消滅会社等 804条1項
 新設型の設立会社等 なし →そもそも存在しない

 趣旨は会社の基礎的変更であり株主には重大な利害関係があるから、その判断を株主に委ねる点にあり、株主保護手段の一つです。
 ここで重要なのは、特別決議(309条2項12号)である点です。株主に一応の配慮はしている一方で、比較的可決はしやすい決議です。会社の基礎的変更であるにも関わらず、最大で1/3もの株主の意思が切り捨てられます。これは、(3)で述べる反対株主の株式買取請求権があることで株主保護を図れることで正当化されています。

 さらに踏み込んで、私なりの解釈を示します(裏はとっていないです)。そこまでして組織再編を実現する必要があることがこの規定から読み取れませんか。総会決議が可決されると、株主に対して、新規の投資の受忍か投資の清算の二択を迫り、現行の投資の継続は原則として認めないのは、普通に考えれば酷ですよね。それでも、株主の投資の継続への期待よりも組織再編の実現を優先しているということは、それだけ組織再編の需要があるということです。新しい会社を買えば、労せずして新規事業への参入ができたり、販売チャネルを拡大することができます。また、複数の事業によるシナジーも生まれます。例えば、家電量販店が家具メーカー、注文住宅メーカーを買収して多角化している事例がありますが、家×家具、家×家電製品、家具×家電製品、いずれも相性が良いことは感覚的に理解できます。このように、組織再編は会社にとってメリットが大きいです。資本主義の競争を勝ち抜くにあたって、組織再編は欠かせないスキームです。これらの理由で現代社会においてM&Aは日常的に行われており、実務でそれを認める要請が極めて強いといえます。

 ここで押さえて欲しいのは上記のロジックではなく、試験の現場で利益衡量をするときは、(問題文の事実を前提に)こういう頭の使い方をするということです。
 反対する株主個人の利益の対立利益として、株主全体の利益(組織再編のメリット)があることを意識して、具体的に前述のような利益衡量をする思考を経ると良い答案になりやすいと思います。
 論文では、このように対立利益を常に意識するようにしてください。

 なお、略式手続と簡易手続については、次章の短答編で詳しく書いています。

(3). 反対株主の株式買取請求権

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