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守りの答案の秘訣!憲法答案の型を使いこなす方法

 こんちには、しまのです。
 今回のテーマは憲法答案の型についてです。
 当記事で基礎編として答案の型の一般論を、次回の記事で実践編として私のR5予備試験の答案構成(A評価)をベースにした解説を予定しています。
 今回も無料記事なので、最後までお読みいただけますと嬉しいです。


1. 導入

 憲法は至る所で論証を展開し、さらに他の科目と違って複数の論証を組み合わせて一つの規範に至るという特徴があります。しかも、規範を論証する中で事実を抽象化して引用するなど、つかみどころのない難しさがあります。そのため、憲法を極端に苦手にしている方は多いと思います。
 今回はそのような方を対象に、憲法答案で書くべき内容を説明し、最低限守り切る答案を作れるようになることを目的としています。

 判例に沿って書くことが一番評価が得られる書き方であることは間違いないと思います。
 しかし、憲法判例は数が多く、そのロジックを押さえきるのは大変です。私も判例に沿って書ける程度まで理解している判例はわずかで、キーワードを押さえる程度の理解が大部分です。完璧にしようとすると沼にはまってしまいそうで、その方が怖いと考えました。
 このような理由から、私の戦略としては細かいことは気にしないで、最低限の型を守って事実に食らいつくことを選びました。試験戦略上、憲法を守りの科目と考えました。
 しかし、型を守って書いてみると、答練や模試では案外評価が高くつくことが多かったです。また、R5の予備もA評価がとれたので、守りの答案とはいえ、高評価が望めないわけではありません。使い方次第では、上位答案も十分に狙えるもととなっています。

 判例ベースの憲法答案については、予備論文超上位合格者の司法さんが記事を書いていらっしゃいます。
 非常に参考になる内容で、合格者でも勉強になる記事です。私ももっと早く読みたかったと思いました。得意な方はぜひご覧になってみてください。

2. 答案の型の構成

 憲法答案の型は、以下がオーソドックスとなります。いわゆる三段階審査です。ある権利の侵害が問題になったとして、①その権利は憲法で保障されるか②権利に対する制約はあるか③その制約は正当化されるかの三段階の枠組みで論じるのが一般的です。
 以下、出題可能性の高い自由権を前提に記載します。

 答案構成のひな型は以下のようになります。

3. 生の自由と問題となる立法・処分の認定について

 まずここが出発点です。問題文から当事者の不満を抽出して、生の自由を構成します。例えば、「路上に広告物を掲示する自由」とか「犬猫を販売する自由」などです(※)。
 そして、生の自由を制約している立法・処分を認定して、生を自由を憲法上の条文で構成します。実はここが最初のつまづきポイントであり、かつ細心の注意を払うことが必要なところでもあります。
 生の自由を何条の問題にするかは一概には定まらず、数種類考えられることは頻繁にあります。しかし、時間内にすべてを書ききることは不可能で、作問者の求める特定の法律構成をピンポイントで論じる必要があります。この特定がやっかいで、作問者の求める構成から外れると、筋違い答案として大きく評価を落とすことになります。
 この対応としては、問題文の当事者の不満をヒントに判断することになります。何条で検討させたいのかを示唆する文言が必ず落ちていますので、これを見落とさないようにしましょう。
 慣れるまでは大変ですが、過去問を繰り返し解いて習得するようにしましょう。


「生の自由」の範囲をどのように捉えるかは論点であり、具体的に書きすぎるとあまり好ましくないという話も聞きます。
誤解を与えない書き方として、「~をする自由」と書くのではなくて、「~する行為」と書くテクニックもあります。

書き方の例
本件立法により、路上に広告物を掲示する行為ができなくなっているが、当該行為は憲法21条1項で保障されているか
 

4. 保障領域と制約の認定

 次のステップは、生の自由が憲法上の保障領域に入るかどうかの認定です。ここはいつもどおり条文解釈が求められるので、三段論法をすることになります。ただし、メリハリは求められるので、条文の文言に明らかに当てはまる場合にはサラッと認定しましょう。
 基本的には条文の文言に直接当てはまらない場合が多く、判例や学説を踏まえて論証することになります。基本知識の披露で確実に得点できるところなので、ここはしっかり書きましょう。現場思考が求められることもあるので、そのときは、生の自由と保障領域の繋がりを示すようにして、保障領域に入ることを認定しましょう。

 次に、制約の認定です。ここは問題にならならずにあっさりと書くことが多いです。しかし、エホバの証人剣道受講拒否事件のように、制約が不明確な事案もあるので、このようなケースではしっかり論証するようにしましょう。

 次に正当化根拠を示します。
 憲法上の権利を制約することは原則として許されないので、それを正当化するにも憲法上の根拠が必要です。「公共の福祉」(13条後段、22条1項、29条2項)になることが多いですが、自信がないときはここの記載は省略するのはありだと思います。
 合格者の再現でも書いていない答案はよく見かけるので、配点はあってもわずかだと思います。

5. 規範定立

 憲法の規範定立は、必ず思考過程を示す必要があります。他の科目のように理由づけを省略すると大失点になるおそれがあるので、丁寧に論証しましょう。
 そのときの考慮要素は、①権利の重要性、②制約態様、③対立利益です。ここでは判例、学説の理解をフル活用します。想起される判例は、複数挙げるようにしましょう。
 また、抽象論に逃げると評価されない旨が司法試験の採点実感で述べられているので、予備でも同じことが当てはまると思います。空中戦になりすぎないように注意しましょう。

①権利の重要性

 権利の重要性は、マクロ→ミクロの視点で展開するようにしていました。例えば、広告物を掲示する自由であれば、以下のように論証しています。

二重の基準論(マクロな視点) 精神的自由権は厳格

表現の自由の性質 自己実現・自己統治

広告物による表現の特殊性(ミクロな視点) 安価で効果的手段
∴極めて重要

 ポイントは、抽象的な重要性でなく、その当該権利の特殊性から重要であることを認定すると、問題に即した認定ができます。刑訴の任意処分の限界の当てはめでも、当該捜査の必要性を認定しますよね。あれと同じイメージです。

②制約態様

 次に、制約態様の認定です。
 ここも判例を参照して制約の類型ごとにその強度を判断していきます。私は以下の引き出しを用意して論証していました。

・直接的制約 or 間接的(付随的)制約
・内容規制 or 内容中立規制 ※表現の自由のみ
・事前規制 or 事後規制
・一律規制 or 部分規制
・許可制 or 届出制

 機械的に論じると説得力に欠けるので、事案に踏み込んでその強度を論述するようにこころがけましょう。

③対立利益


 対立利益を論証に取り込んでいいかどうかは見解の分かれるところだと思います。違憲審査基準論は類型ごとに形式的に審査密度を決めるものなので、対立利益は考慮しない立場です。二重の基準論を示した上で対立利益を考慮するのは、違和感があるかもしれません。
 しかし、対立利益を考慮した方が事案に踏み込んだ論証ができますし、判例も対立利益は考慮して審査密度を決めています。
 思考過程を表現した方が良い評価が得られやすいと思ったので、私は対立利益も論証の中に組み込んでいました。対立利益が重要であればあるほど、合憲の方向に傾きますので、審査基準の調整として書くことを意識していました。

④審査基準の定立

 私は基本的に、一部の例外(※)を除いては厳格な基準、中間審査基準、緩やかな基準の3つしか使わないと決めていました。判例を意識した基準の方が評価は上がるでしょうが、ここは守りの姿勢です。
 また、当てはめを充実させるためになるべく中間審査基準によせる論証を意識していました。ただ、事案ごとの相場感はあるので、判例を踏まえて相場から逸れる基準を使うのは避けましょう。
 また、処分違憲の主張の問題では、現場思考で利益衡量の基準を立てるようにしていました。

※選挙権の在外国民選挙権事件、集会の自由の泉佐野市民会館事件、プライバシー権 vs 表現の自由(グーグルの検索結果削除、北方ジャーナル、石に泳ぐ魚事件など)、その他諸々のように、予備校で判例規範で書くことを指導された事件では、判例規範を使っていました。

6. 当てはめ

①目的審査

 まず、立法(処分)目的を審査します。目的の重要性を論じる際は、最低一言でいいので理由付けは入れるようにしましょう。差がつくポイントです。
 基準が厳格であればあるほど、目的の重要性はしっかり論じる必要があるので、余裕があれば審査基準に応じて記載にメリハリをつけるべきです。

②手段審査

 中間審査基準であることを前提に書きます。
 まず、手段の目的適合性を認定します。次に、代替手段がないか、手段が過剰でないかを認定します。ここでは問題文の事実をフルに使いましょう。具体的な当てはめについては、次回の実践編で説明します。

 ポイントは3つあります。
 まず1つ目ですが、代替手段については、より制限的でない手段(LRA)がある場合でもない場合でも書くべきです。規制の必要性を基礎づけることができるので、論述に説得力が増します。
 このとき、思考フローとしては、LRAの提示→元の手段の実効性を維持できているか、という二段構えがわかりやすいかと思います。二段目の実効性を確保できているか、という部分はよくよく注意して下さい。二段目の部分の理解は、パレート改善という用語を知っているとすぐ分かると思います。より理解を深めたい方は、ぜひこの用語も調べてみることをお勧めします。
 どのような代替手段があるかについては、想像力を働かせるところになります。以下の視点を引き出しとして持っておくと、一定の方向性が分かると思います。イメージは、審査基準定立のときに考慮した制約態様の引き出しと同じです。
 過去問を起案して書き方を身につけましょう。

・(事前規制に対して)事後規制で目的達成をできないか
・(内容規制に対して)内容中立規制で目的達成をできないか
・(全面的規制に対して)部分規制で目的達成をできないか

 2つ目は、刑罰規定がある場合は、手段の過剰性の根拠になるので、これについても触れるようにしましょう。

 3つ目は、自己の結論に不利な事実は必ず拾うことです。司法試験の採点実感では、不利な事実から目を背けてはいけない旨の指摘が繰り返しされていることから、不利な事実を潰したかどうかにはそれなりの配点がされていると考えられます。ここは大きく差がつくところだと考えているので、必ず意識するようにしましょう。

7. その他

①一般的な型が使えない類型

 平等原則(14条1項)、政教分離(20条1項後段、3項、89条1項前段)、損失補償(29条3項)は上記の型が使えないことは明らかなので注意してください。
 また、生存権や財産権のように立法によってその権利が定まるものについては、保障と制約という構図で書くと大きく減点される話を聞いたことがあります(あくまでも噂です)。型が完全に使えなくなるわけではありませんが、書き方に注意は必要です。

②文面審査について

 表現の規制と刑罰法規は、その文面から違憲が問題になることがあります。明確性に欠ける文言は委縮効果を生むからです。別途、論じ方を押さえる必要はあります。

③立法事実と司法事実について

 法令違憲審査では、司法事実を考慮することはできないので、注意してください。司法事実を使うときは、「Xのように~な者は」といった具合で抽象化するようにしていました。しかし、厳密にはXの事情が立法事実にまで昇華しているかは不明なので、これが正しいのかについてはなんとも言えません。

8. 最後に

 ここまでお読みいただきありがとうございました。
 憲法が苦手で書き方がよく分からないという方や、型は知ってるけど高評価をもらえないという方に向けた内容でしたが、イメージを掴んでいただけたでしょうか。
 この記事がきっかけで憲法の苦手意識がなくなれば、大変嬉しく思います。

2025/8/6 追記

・第3章の生の自由について、補足説明を記載しました。
・第6章②の当てはめについて、代替手段の補足説明を記載しました。
・第7条①の注意書きについて、立法により定められる権利について加筆しました。



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