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論文までに苦手克服!会社法の思考過程について -基礎編-


こんにちは、しまのです。
会社法は苦手にされている方が多いと思い、私なりの学習上の思考過程を記事にしてみました。


0. 自己紹介

 記事を投稿するのは初めてなので、簡単に自己紹介をさせていただきます。
 私は法律は初学者の社会人で、令和3年8月から学習を始めました。無事に目標年度の令和5年度の予備試験に最終合格し、現在(令和6年7月)は司法試験の合格発表待ちとなります。
 初学者とは書きましたが、会社法は学習経験があったので、得意科目の一つでした。模試と本番の成績は以下のとおりです。毎回上位とはいかなくとも、大崩れしない程度には安定していることはお分かりいただけると思います。

R5予備 短答 商法 30/30
R5予備 論文模試 商法 伊藤塾:34/365位、辰巳:65/263位、LEC:14/119位
R5予備 論文 商法 A
R6司法  TKC模試 商法 608/2,130位

1. 前提

 当記事は、論文での出題頻度が高い株式会社に限定した内容となっています。また、ここに記載していることは基本書や学術誌の裏付けをとったものでもありません。予備校の講義で学んだ内容について私なりの解釈を入れたものにすぎません。
 そのため、必ずしも正しいことばかりを記載しているとは限らないことを、先に断っておきます。
 しかしながら、予備の合格や商法のA評価を目指すだけであれば、十分な内容になっているものと考えております。

2. 商法が難しい理由

 商法は苦手とする方が多い科目です。その理由として以下が挙げられます。
・会社や手続のイメージがわかない
・条文が多いうえに、複雑

 確かに会社法の手続は膨大な量があり、また、複雑なのは事実です。これらを力技で暗記することは難しいでしょう。しかし、これらの手続は緻密な利益衡量の表れでしかありません。会社法という法律がどのような利益を保護しようとしているのか、これを理解しないことには手続や規定を覚えることはできません。
 この観点から、どのような思考を経れば会社法の利益構造が理解でき、苦手意識がなくなるのかを説明します。

 なお、知識のインプットについては、条文の読み込みと併せて行うのが、会社法を得意にする一番の近道です。私も条文は何度も何度も引いています。
 R5年予備試験合格者のしがいさんが条文ベースの論証集を提案し、公開されています。非常にお勧めできる内容なので、紹介させていただきます。


3. 株式会社の理解の核となる条文

 いきなりですが、会社法で一番重要な条文は何条でしょうか?
 答えはいろいろあると思いますが、私は104条と326条1項であると考えています。

104条:株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。

 会社の目的は、社会に散在する遊休資本を集めて大規模会社を実現する点にあります。そして、責任が無限にあると投資を躊躇してしまうことから、責任を限定して投資を促進した点に株式会社の特色があります。
 そうすると、債権者としては責任財産が限定されてしまい、怖くて夜も眠れない日々を過ごすことになります。そこで、このような債権者の保護を図ることが、会社法のミッションとなるわけです。

326条1項:株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。

 会社の所有者は出資者である株主です。しかし、会社を運営するのは取締役等の役員です。このように、株式会社は所有と経営が制度的に分離している点に特色があります。これは、経営のノウハウのない一般人による自由な投資を促進すると同時に、その運営を経営の専門家に委ねることで、会社の合理的な運営を図るという目的があります。
 よって、所有と経営の制度的分離により、社会に散在する遊休資本をかき集めることを可能にしています。
 しかし、取締役等の役員に与えられた権限は強大で、株主はその濫用で会社財産の減少に脅える日々を過ごすことになります。そこで、株主の保護を図ることも会社法のミッションになります。

 かくして、会社法は債権者と株主という2大ステークホルダーの保護を主軸として、設計されていることが分かります。
 これに加えて、会社は日々取引をしているのだから、取引の相手方が存在します。そのため、会社との取引の相手方の取引の安全(もしくは、より抽象的な法的安定性)の利益も考慮する必要があります。

 私は会社法の規定を、無理やりこの3者の利益に引き付けて雑に理解していました。これにより、各規定や手続が具体的にイメージできるようになって、会社法が得意だと思うようになった と思います。
 会社法の攻略の肝は、いうまでもなく条文です。そして、条文の攻略の肝が、立法趣旨にあり、究極的には104条か326条1項(もしくは取引の安全)に行きつきます。
 この思考をたどれるようになると、条文を読むのが苦でなくなると思います。会社法が苦手な方は、この思考を意識してみてください。条文の見え方が変わりますよ。

4. 具体的思考過程

(1). 127条について

127条:株主は、その有する株式を譲渡することができる。
 
 
127条は株式譲渡自由の原則を定めています。この条文の趣旨について考察してみます。
 株主有限責任原則(104条)のもと、会社債権者を保護するために株式会社には財源規制があります(461条1項)。一方で、これにより株主は会社から自由に投下資本の払い戻しを受けることが規制されます。しかし、投下資本の回収方法が保障されなければ、出資者は誰もいなくなります。
 そこで、所有と経営が制度的に分離(326条1項)している株式会社では株主の個性は原則として問題にならないことに着目して、株式の自由な譲渡を認めて、株主の投下資本の回収を図ったのが127条の規定です。
 きれいに127条と326条1項にたどりついたでしょう?笑
 では、株式の譲渡制限(107条1項1号、108条1項4号)の定款の定めはどう解釈するか。これは、非公開会社は、株主構成が変化しずらく株主間の関係が緊密であるのが通常であり、株主の個性が問題になることへの配慮となります。これにより、会社にとって好ましくない者の会社への侵入を防止するという利益を保護しています。
 この場合の株主の投下資本の回収は、反対株主の株式買取請求(116条1項1号、2号)により保障したこと、譲渡制限の定款の定めには株主総会の特殊決議(309条3項1号)により容易に譲渡制限の定めを設けることをできなくしたことで、これらの利益がうまく調整されています。

 上記は基本知識なので、空で説明できる方も多いかと思いますが、改めて考えて見ることで、会社法の緻密な利益衡量を理解できたのではないでしょうか。
 すべての制度がこのように綺麗に説明できるわけではありませんが、他の制度でも上記のように104条か326条1項をゴールに解釈を試みることで、どんどん理解が進むようになります。

5. 最後に

 ここまでお読みいただきありがとうござました。
 上記の思考方法は、私が会社法を学習する上で常に意識していたポイントになります。これにより、会社法の理解の手助けになるばかりでなく、論文答案の質も向上されるものと考えております。
 今回はお試し版ということで短めに書きましたが、反響があれば「4. 具体的思考過程」の例を加筆したり、論文の答案作成のポイントについても書いてみようと思います。
 
 当記事が、皆様の学習の一助となりますと幸いです。

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