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【無料】論文力を底上げ!株主の監督是正権

 こんにちは、しまのです。
 皆様の論文合格を祈って、今回は無料でお読みいただける記事です。
 テーマは株主の監督是正権です。R5の予備試験では、議案の要領通知請求権(305条)が出題されています。またR6の司法試験でも株主による株主総会の招集(297条)が絡む内容の出題でした。今後も出題可能性があるテーマですが、あまり意識して学習している人は少ないと思います。
 そこで、監督是正権が出題されたときの思考過程について説明しようと思います。


1. 監督是正権の種類

 株主の監督是正権には、単独株主権と少数株主権があります。
 主な内容として、以下のものがあります。株主総会決議取消の訴えや株主代表訴訟など、論文でも頻出のものもありますね。
 以下のものは、すべて論文での出題可能性があるものなので、マイナーな手続でも条文は探せるようにしておきましょう。
 また、その種類としては、情報収集手段・事前の対抗手段・事後の対抗手段があるのが分かります。株主の対抗手段としては、前回の組織再編と同じ構造ですね。
 【参考】組織再編の株主による対抗手段
 情報収集手段:事前開示
 事前の対抗手段:差止
 事後の対抗手段:無効の訴え

 なお、保有期間要件は公開会社のみです。

2. 株主の監督是正権の趣旨と対立利益

 いつもどおり、趣旨に照らして監督是正権の根拠を考えてみましょう。
 所有と経営が制度的に分離(326条1項)している株式会社では、株主による監督は株主総会を通じて行われることが原則(295条)となります。しかし、所有と経営が分離しているが故に、経営に無関心な株主が株主が多数存在することも起こります。この場合、少数派の株主が株主総会を通じて、取締役の不当な経営を阻止することが困難になります。また、特定の多数派株主の利益のために、少数派株主の利益を不当に害するような経営を阻止することも、資本多数決の原則の中では難しいです。
 そこで、資本多数決の原則を修正して、少数派株主の保護を図ることが株主の監督是正権を認めた趣旨になります。

 一方で、取締役は株主の利益の最大化がミッション(330条、民法644条)であるところ、監督是正権は取締役の経営への介入度合いが大きい権利です。そのため、監督是正権を広範に認めると、会社の合理的な経営が阻害され、ひいては株主全体の不利益を生じます。
 ここから、監督是正権の対立利益は株主全体の利益であることがわかります。

3. 論文答案の着眼点

 監督是正権を論じる機会があれば、まずは条文です。条文の要件に事実を当てはめます。そして、その中で解釈が必要な要件は、判例・学説を参照して要件を解釈します。いつも通りの処理手順ですね。
 しかし、新株発行の差止め(210条)や会計帳簿閲覧請求権(433条)のように判例があるものばかりではありません。初めて見る条文を現場での判断で解釈を求められる問題も出題されます。
 実際に、R5予備試験の設問1は、305条について、条文の文言に直接当てはめるだけでなく、問題文の特殊事情を踏まえた利益衡量が求められる問題が出題されています(出題趣旨参照)。
 これは、判例規範がある場合も同様です。判例の事案は問題文の事案に必ずしも妥当するものではないので、問題文の特殊事情を踏まえた利益衡量はいかなる場面でも求められています。
 そこで、害される少数株主の利益vs合理的運営が阻害されることによる株主全体の不利益を適切に衡量することが、求められる答案になります。
 結局はいつもと同じですね笑

 また、以下の2つの視点も合わせて持っておくと、心強いと思います。

①対抗手段の種類
 
情報収集手段→事前の手段→事後の手段とありますが、右にいくにつれて経営への干渉度合いが強くなります。情報収集の時点では会社の利益が害される抽象的おそれしかありませんが、事後的に無効とされると、著しい損害が生じかねません。しかも、効力が発生している以上、法的安定性という新たな対立利益も生まれることになります。
 そのため、どの手段を採ったかによって、害される少数株主の利益のハードルが上がることになります。
 新株発行無効の訴えや、組織再編無効の訴えの無効事由が重大な瑕疵に限定されるのはこのからくりによるものです。

②公開会社と非公開会社
 公開会社には保有期間要件があり、非公開会社にはありません。これは、専ら監督是正権の濫用目的で株式を譲り受けた者による濫用を防ぐ趣旨の規制です。非公開会社では、株式の譲渡には会社の承認が必要である以上、監督是正権の濫用目的で株式を取得されることを事前に阻止できます。そのため、保有期間要件を設ける必要がありません。
 この理解を直接書く機会はないと思いますが、応用範囲は広い考え方なので、ぜひ押さえておいてください。

4. 最後に

 最後までお読みいただきありがとうございます。
 普段意識しないテーマですが、意外と学びは多いと思っていただけたら、この記事の狙いは成功したと思います。
 そして、応用範囲が広い内容なので、これを機に論文の引き出しを増やしてもらえれば嬉しく思います。

 いつも記事を読んでいただいているお礼で、今回の記事は無料としました。無料とはいえクオリティを下げたら意味がないので、いつもと同じくらい気合を込めて書いています。
 ただ、私の記事が金銭という形で評価されるのは、モチベーションになるのも事実です。
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