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ジロリンタン備忘録220222

タクシーを呼んでちょうだい

 2月22日は、ニャンニャンニャンと読めるから、猫の日らしい。
 これから書くことは、猫とはニャンとも関係ない。amazon.comなどで調べてもらったらわかるが、ドナルド・ E・ウェストレイクの最後の未刊行小説とされる Call Me a Cab が Hard Case Crime から公式に刊行される日なのだ。
 直訳では、「わたしにタクシーを呼んでちょうだい」という意味なのだが、もう一つ意味があることをご存知かな? いやいや、猥褻な意味ではない。主語+動詞+間接目的語+直接目的語(SVOO)ではなく、主語+動詞+目的語+補語 (SVOC) の構文だと考えると、「わたしをタクシーと呼んでちょうだい」となる。それで、ドアマンは「かしこまりました、ミズ・タクシー」と冗談半分に返事をするかもしれない。洋書を読んでると、ときどきそんな冗談が出てくるよね。
 そうそう、先週の判じものの答えを教えよう。2月14日は、ダシール・ハメットの『マルタの鷹』が1930年に刊行された記念日なのだ。
 じつは、おれはこれの電子ゲラを昨年暮れに読んでいた。いろいろと裏から手をぐるぐると回して、電子ゲラを手に入れてもらったのだ。この作品には、おれ自身、いろいろと思い入れがあってね、女性雑誌<レッドブック>の1979年6月号にこれの抜粋中編版が掲載されたのを読んでいたのだ。そのあと、ウェストレイクにインタヴューしたときに、この中編のことが話題にのぼり、オリジナル長編版があることを知った。そのときのインタヴュー記事は拙著『尋問・自供』(早川書房絶版)に載っている。
 この作品が「犯罪の起こらないサスペンス小説」なので、出版社への売り込みが芳しくないとウェストレイクが嘆いていた。それが約40年後に刊行されたのだ。ウェストレイクの作品は彼が2008年に亡くなってから、Memory とThe Comedy Is Finished とForever and a Death があったのだが、Comedy が出たときに、これが最後の遺作と出版人のチャールズ・アーダイが書いていたので、Call Me a Cab がまだ残っているぞと、おれがメールを出したことがある。それがやっと刊行されたので、嬉しいのだ。
 ストーリーは、ニューヨークのタクシー運転手トムは、ある日、30代の美女キサリンが乗ってくる。ケネディー空港まで行ってほしいというが、なぜか自殺しそうな表情だ。理由を尋ねると、ロスアンジェルスで会うボーイフレンドに求婚されたのだが、L Aでその答えを出さないという。まだ結婚したいかどうか決められないので、L Aまでこのままタクシーで行くという。1979年の執筆当時は、4000ドルで、約40万円ぐらいだが、造園デザイナーのキャサリンは一生のことなので、40万円なら払えるという。
 というわけで、トムとキャサリンのタクシーによるアメリカ横断旅行が始まる。まあ、結末はどうなるかはだいたいわかるが、キャサリンがその結論に行きついた理由が現代的(2020年代的)で、1980年前後では少し時代の先取りをしているので、そこがウェストレイク風と言えるだろう。「ロマンティック・サスペンス小説」というより、「サスペンスフル・ロマンス小説」と呼ぶべきかな?
 それに、おれとチャールズ・アーダイしか知らないある情報は、そのうち(死ぬまでに)教えるよ。おれは電子ゲラを読んだが、いちおうamazon.co.jpでペイパーバック版を注文したよ。あと10日ぐらいで到着するらしい。(2000円ぐらいで入手できるだろう。)
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