見出し画像

と亭槌太の塩辛評210919

 ティモシー・ハリスの Goodnight and Good-Bye

GOOD NIGHT AND GOODBYE (Delacorte, 1979, hc; Pan, 1981. ) by Timothy Harris [Thomas Kyd; Los Angeles, CA] featuring Thomas Kyd, Hollywood PI

[お断わり]
 これは2021年前半に Sharpe Books (2014年復刊)で再読した。つまり、この初版をハードカヴァーで1979年に読んだはずだが、その記録がない。その頃、『ミステリマガジン』に書評を連載していたので、「チャンドラーの再来の新刊が出た」と喜んで、そこで絶賛したのかもしれない。それから、約40年後に再読したあとの読書ノートが以下である。
 ハリウッドの私立探偵トマス・キッドもの第2作である。第1作の Kyd for Hire の再読ノートはしばらく前にここで公開している。では、どうぞ!

[あらすじ]
 ハリウッドの私立探偵トマス・キッドは、33歳の男やもめ。中古の65年型マスタングに乗り、ビーフィーター・ジンとゴロワーズ煙草を嗜む。父親はブラックリストに載った元脚本家。
 キッドが初めてローラ・キャシディーを見たのは、彼女が素っ裸の男をフォルクスワーゲンのボンネットに載せたまま、車を飛ばしているときだった。キッドが驚いた目で見ていると、そのフォルクスワーゲンは元の地下駐車場に戻ってきたので、キッドは地下駐車場へおりていった。
 そこでは、女と素っ裸の男が言い争っていた。キッドは警官だと名乗り、靴の片方を脱いで、拳銃のように男のほうへ向け、男の言い分を聞いた。男はモリス・フィールドマンと名乗った。女はアート・ディーラーであるその男に素描を売りに行ったところ、男は裸になり、女に襲いかかったので、車で逃げようとしたら、男は裸のまま追いかけてきて、フォルクスワーゲンのボンネットにしがみついたと言う。キッドはフィールドマンに家に帰るように命じて、酒くさい女を自分の車に乗せて、女の家に送る。女は酔いつぶれていたので、キッドは女の家のベッドに運び、女の車のキイを置いて、自分の家に戻る。キッドはそのとき女の名前を初めて知る。数日後、女がキッドの家にやって来るが、翌日、姿を消し、消息を断つ。
 そのあと、マリブーに住む脚本家のポール・ササリの文芸代理人ディックス・ランダウからの依頼で、ササミの邸宅へ行く。ササリはローラの婚約者だと名乗り、ローラの行方を教えろとキッドを脅す。その邸宅には、二人の娼婦のほか、ササミの秘書レイモンド・ケプラーと自称スタントマンがいたが、そのスタントマンはなんと、モリス・フィールドマンだった。
 キッドはローラの行方を知らないと言って、その邸宅から出ていく。そして、ササミがローラと結婚したという記事を新聞で読む。そのあと、ローラがキッドの家を日曜日の午前中に3度訪ねてきて、キッドとベッドの中で過ごす。
 ローラが消えたあと、LA市警のマーカス警部がやってきて、ローラがササミをナイフで刺し殺したらしいので、ローラの居所を教えろと脅かす。キッドは知らないと言い張る。そのあと、ローラが電話をかけてきて、キッドに渡したピカソの素描の包みの中に、パスポートが隠してあるので、それをウェストウッド地区の共同墓地の納骨堂に持ってきてほしいと頼む。
 キッドはローラに会いたいので、エヴァ・ルイーズ・ボンバーグ名義のパスポートを納骨堂に持っていき、中に置いたまま、ローラを外で待つ。二時間以上待っても、ローラの姿が見えないので、納骨堂の中を確かめると、パスポートは消えていた。キッドが外に出ると、そこにはマーカス警部がいた。
 そのあと、ササリの秘書ライモンド・ケプラーがササリの執筆中の脚本「シュート・ザ・シンガー(歌手を撃て)」を持って消えたので、捜してほしいと、ササリの文芸代理人ランダウに依頼される。ケプラーの妻アンはランダウの助手として働いている。ケプラーは賭博依存症で賭け屋に多額の借金があるらしい。ケプラーがサンタモニカのモーテルに隠れているという情報を聞き、キッドがそこに行くと、頭をひどく殴られる。そして、ケプラーはモーテルから消える。
 今度は、フィールドマンが電話をかけてきて、紛失した脚本を持っていると言うので、フィールドマンのアパートメントへ行くと、フィールドマンが処刑スタイルで後頭部を撃たれて死んでいる。そして、ケプラーが見つかり、マーカス警部の部下レイカー刑事が護衛する。ケプラーが自宅の外で自分の車を壊しているとき、前の道を走ってきたジョガーに射殺される。レイカーはジョガーを追いかけ、撃ち合いになり、なんとか相手を撃ち殺す。そのジョガーはプロの殺し屋で、身元を示すものはない。
 しかし、その場にいたキッドは、身元不明の殺し屋の左右の脚の太さの違いや脚の傷を見て、フェンシングをしていた人間だと推測する。マーカス警部と一緒に、ハリウッド付近のフェンシング関連場所をまわり、身元不明の男の名前がカール・ボンバーグだと突き止める。ローラがエヴァ・ボンバーグ名義のパスポートを持っていたので、関係者だろう。
 ボンバーグはヴェトナム復員兵だが、ヴェトナムではプロの殺し屋だった。アメリカ軍では、秘密裏に敵を殺す専門家で、殺した事実を催眠術や催眠薬で脳から消されているはずが、無意識に殺しの記憶が蘇り、精神的に不安定になっている。
 それを脚本として書いたのが、「シュート・ザ・シンガー」だった。それをランダウやケプラーやササリがそれぞれの名義で書き直し、ボンバーグからアイディアを盗んだのだ。それを知ったボンバーグが彼らを殺したように思えるが……。

[結末]
 原書でぜひ読みたい方のために、これは公開しないほうがいいだろう。

[率直な感想]
(結末をバラしている部分は削除)
 ローラ・キャシディーはファム・ファタールなのだが、麻薬中毒者で嘘つきで、あまり共感を覚えないところが長所でもあるのだろう。
 作品はけっして悪くはないのだが、飛び抜けて優れているわけでもない。
 映画脚本を書く著者にふさわしく、脚本盗作や脚本家同盟に関する記述が生々しい。
 今の評価はむずかしいところ。著者のハリスが80年代にもっとトマス・キッドものの小説をたくさん発表していたら、キッドに対するファンがついて、もっと共感を得ていたことだろう。
 自分で言うのもおかしいが、粗筋のまとめ方が下手だね。

[作家について]
(以下はKyd for Hire の記述を同じ)
 Kyd for Hire は1977年にティモシー・ハリスがハイド・ハリス名義で、イギリスのVictor Gollancz 社からハードカヴァーで発表したトマス・キッドもの第1作。そのあと、1978年にアメリカのデル社からペイパーバック版で本名のティモシー・ハリス名義で刊行され、人気が出た。
 そして、1979年に当時デル社のハードカヴァー本出版ラインであるデラコート社からトマス・キッドもの第2作 Good Night and Goodbye が刊行されると、「チャンドラーの再来」と称された。
 残念ながら、ハリスはハリウッドで脚本を書き続け、キッドもの第3作 2004年刊の Unfaithful Servant まで待たねばならなかった。
 著者のティモシー・(ハイド・)ハリスはハリウッドの脚本家で、『大逆転』『花嫁はエイリアン』『ツインズ』『キンダーガーテン・コップ』『スペース・ジャム』『アトム』『スペース・プレイヤーズ』などの脚本を共同で (with Herschel Weingrod) 担当した。現在、イギリスのロンドン在?

HARRIS, TIMOTHY (Hyde) (1946- )のトマス・キッドものリスト
1. Kyd for Hire (Dell, 1978, pb) Pan, 1981. See: Gollancz, 1977, as by Hyde Harris.
2. Good Night and Goodbye (Delacorte, 1979, hc) [Thomas Kyd; Los Angeles, CA] Pan, 1981.
3. Unfaithful Servant (Five Star, 2004) [Thomas Kyd; Los Angeles, CA]
(じつは Unfaithful Servant も2004年に読んでいるのだが、あまり面白くなかったし、ちゃんとした読書ノートはないし、再読する気はない。)
 Amazon.com によると、Timothy Harris のトマス・キッドものには、Sharpe Books 版(たぶんハリスの自主出版社?)で Heat Wave という作品があると記してあるが、これはキッドものではないので、騙されないように注意すべし!
//

文章を売るのが商売なので、金銭的な支援をしてくださると嬉しいですが、noteの支援方法が面倒なので、ネット書店でガムシュー・プレス刊か扶桑社ブックス刊の木村二郎著書を購入していただくほうが簡単で、大いに助かります。もしくは、「スキ」をたくさんください。よろしくね。