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と亭槌太の塩辛評210911

KYD FOR HIRE, by Timothy Harris (Gollancz, 1977, as by Hyde Harris; Dell pb, 1978; Pan pb, 1981), featuring Thomas Kyd, Hollywood PI

[まえがき]
 この作品を初めて読んだのは、たぶん1978年刊のデル版だろうと思う。そして、その約40年後の今年の前半に企画書を書くために再読した。(2021-09-11)

[あらすじ]
 ハリウッドの私立探偵トマス・キッドは、33歳の男やもめ。中古の65年型マスタングに乗り、ビーフィーター・ジンとゴロワーズ煙草を嗜む。父親はブラックリストに載った元脚本家。
 ジョー・エレヴェルという家具会社の社長が探偵事務所にやってきて、人捜しを依頼する。2日前に娘のシャーロットが行方不明になったので、捜してほしいというのだ。2日前に妻サンドラが自殺したことが、シャーロットの失踪と関係するのだろうか?
 ベルエアーにあるエレヴェルの邸宅へ行くと、助手のキャルヴィン・ムーンハーストと、医師のサム・レスター、若い弁護士のチャーリー・ラサールに会う。
 シャーロットがフラナリー演劇学校に通っていたので、そこへ行くと、校長の娘ルーシーが演劇学校の事務所にいて、シャーロットがレオナルドという男性ダンス教師と親しかったというので、レオナルドの家へ行くと、彼は若い男とベッドで楽しもうとしていたところだった。レオナルドを痛めつけて、メキシコ人マフィアのコロナードから不法薬剤を買っていることを聞き出す。そのあと、ルーシーに電話をかけると、演劇学校の事務所にヘルヴァノというメキシコ人がいて、シャーロットの連絡先を知りたいらしい。
 シャーロットと親しかった女友達のキャンディス・レインの家へ行くと、射殺死体を発見する。シャーロットと中年男が後頭部を撃たれて、殺し屋(ヘルヴァノ)の銃殺スタイルで殺されている。しかし、ヘルヴァノは薬品で手の指紋を消していた。)身分証明書によると、中年男はハーラン・スタックマンという私立探偵だ。担当刑事はベルエアー警察のグランヴィル副署長で、裕福な住民から賄賂を受け取っていそうだ。
 シャーロットが殺される前にパサデナのアルマ・クレイマーに電話をかけたことを突きとめ、アルマに会いに出かけるが、電話の相手はアルマの妹ローズマリーだったとわかる。ローズマリーは複数の男と結婚したが、子どもは授からなかったので、赤ん坊を不法にいかがわしい医師(サム・レスター)から買い取ったらしい。ローズマリーの帰りが遅いので、キッドとアルマは彼女を教会へ迎えに行くが、途中で彼女の撲殺死体を発見する。ヘルヴァノに会ったことがあるルーシーの命が危ないと感じて、キッドは<ホワイト&ラインハート探偵社>に彼女を護衛してくれる専門家を雇う。トニー・トゥリーノという男だ。
 キッドが自宅に戻るとき、自宅のそばで黒い葉巻の吸い殻を見つける、殺し屋ヘルヴァノが吸っていた葉巻だ。キッドの留守中にヘルヴァノは家に忍び込んで、キッドの帰りを待ち構えているはずだと考えて、キッドは裏口から自宅にはいる。ヘルヴァノを殺さずに雇い主の名前を聞き出すつもりが、激しい撃ち合いになり、結局は殺し屋を頃押してしまう。結局、ヘルヴァノがシャーロットと探偵スタックマンとローズマリーを殺した真犯人ということで、3件の殺人事件はいちおう「解決」したことになった。
 しかし、キッドは電話会社の知り合いに連絡を取り、シャーロットが殺される前に電話をかけた相手の名前を聞き出す。ホリス・ブラウンリーは内装ペンキ塗りだが、じつは空巣泥棒でもあり、25年前は乳児密売組織の仲間だった。
 キッドはブラウンリーを拷問にかけ、25年前の真実を聞き出す。レスター医師が妊婦から赤ん坊を取り出すときに、奇形児だったので特別施設に収容するように両親に提案して、多額の収容費をふんだくっていた。

[結末]
 企画書では結末まで書いたが、これから読もうと思う方のためにここでは書くべきではない。
 初めて読んだときは、70年代当時のLAの雰囲気をよく捉えていると感心して、ほかの書評家と同じように、「チャンドラーの再来」だと持て囃したものだが、再読すると、それほど面白くないなあと考え直した次第である。
 書物も活字も元のママなのだから、読んだ自分が随分変わったということなのだろう。う〜ん、昔読んで感銘を受けた本を再読するのは、いいことなのか、悲しいことなのか、難しい問題だ。
 このあと、2作目も再読したから、近いうちに紹介するね。(2021-09-11)

[著者紹介]
 Kyd for Hire は1977年にティモシー・ハリスがハイド・ハリス名義で、イギリスのVictor Gollancz 社からハードカヴァーで発表したトマス・キッドもの第1作。そのあと、1978年にアメリカのデル社からペイパーバック版で本名のティモシー・ハリス名義で刊行され、人気が出た。そして、1979年に当時デル社のガードカヴァー本出版ラインであるデラコート社からトマス・キッドもの第2作 Goodnight and Goodbye が刊行されると、「チャンドラーの再来」と称された。残念ながら、ハリスはハリウッドで脚本を書き続け、キッドもの第3作 2004年刊の Unfaithful Servant まで待たねばならなかった。
 著者のティモシー・(ハイド・)ハリスはハリウッドの脚本家で、『大逆転』『花嫁はエイリアン』『ツインズ』『キンダーガーテン・コップ』『スペース・ジャム』『アトム』『スペース・プレイヤーズ』などの脚本を共同で担当した。現在、イギリスのロンドン在?


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