とあるワクハラ事件のその後

記事を整理してみようと思い、下書きのままになっていたものを確認していると、👇のようなものを見つけた。
とあるサイトの記事と、それに対するコメントだ。

同じような事例が日本中で発生していたんでしょうね…そして接種に不安を感じていた人の多くがこのような空気に耐えかねて接種してしまったんでしょうね…しかも退職に追い込まれた方、かつてインフルエンザワクチンで副反応が出たから、というわかりやすい理由まであったのに。
元記事に毎日新聞が入手した「内部文書」の写真がありました。そこには執務場所(隔離場所)まで記載されていました。完全に晒し者にされていたようですね。この方が受けた仕打ちを見て、怖くなって接種した同僚職員もいたでしょうね。
そして、こういう職場は、恐らくコロナ感染者差別も酷かったのでしょうね。
このような愚行を繰り返さないためにも、同じような事例がどんどん明るみに出て欲しいです。

この記事が令和5年6月2日のものだった。その後どうなっているのかが気になり、調べてみると、令和6年3月に調査委員会の最終答申が発表されており関係者が処分を受けていた。

甲賀広域行政組合のHPから、調査委員会の最終答申にリンクが張られてたので、閲覧してみた。
気になったところを引用しておく。

今回、ワクチン接種拒否の意向を伝えた方を「A氏」とする。令和3年4月26日に同意向を上司に伝えたところから話は始まる。

4月 28 日、A氏は、午前8時 50 分から警防課長と面談し、午前 10 時 45 分 から女性職員2名と面談し、ワクチンを接種するように説得された。さらに、 同日午後には、再び警防課長との面談があり、約3時間にわたり説得がなされた(A氏証言)。

4月30 日の接種最終日、A氏は、午前9時から午前11 時 25 分までの間(面談記録)、消防次長及び消防総務課長並びに警防課長と面談した。
この面談に おいて、A氏の件で顧問弁護士に相談した旨が伝えられた上で、基本的に接種 しないという事が法的に認められないというような言い方をされ、一般は任意だが消防職員は違うという説明もなされた
また、顧問弁護士からは、組織として、優先接種の特権、公務災害など特別な補償がある事をもって、職員に要請していくべきであり、それでも受けないという事であれば、理由書を作成してもらう必要があるという話があった事も伝えられた。さらに、以前、他の予防接種で副反応が出たというだけでは、接種拒否の正当な理由には当たらないと言われた(A氏証言)。

法的にも倫理的にも問題があるのはどちらかは、説明するまでもない。
ところが、この対応は法律家の助言に従ったものだという・・・
下記の点は、中間答申が発表された際にも話題に上っていたことを記憶している。

消防長は、翌日の4月 28 日に、 顧問弁護士に以下の4点を質問する事とし、消防次長及び消防総務課参事を通 じて、顧問弁護士にFAXによる質問文書を送付した(消防長証言)(消防次長証言)(FAX通知文写し)。
一定の強制力をもって職員にワクチン接種を推進する事に関し、法的問 題点はあるか。また、国が推奨する中で、個人が拒否する事に問題点はない か。
未接種者と既接種者が同一職場にいる場合、感染防止対策の観点から未 接種者の勤務形態や業務内容に制約を設ける事に関し、人権配慮的な問題点 はあるか。
未接種者に対して一定期間の在宅勤務を命じた場合、業務量減少による 職員間での平等性が確保できない問題が生じる事が考えられるが、これに対 する対応はどのように考えるべきか。
未接種者を許容した場合、今後、さらなる未接種者が出ると予測される が、組織全体として感染防止対策を推進する上で、どのような対応方法が適 当か。

それに対する回答が以下の通り、という。

4月 29 日に消防次長が顧問弁護士に回答を求める電話をしたとこ ろ、顧問弁護士から口頭で回答がなされたため、その内容をメモに取った上で、 消防長に報告するための文書を作成した(作成文写し)(消防次長証言)。
この文書の内容は、以下のとおりである。 ・
・上記①について 消防本部の所属職員に対するワクチン接種は一定の強制力を持ったものと考えるので、接種を拒む職員に対しては、組織として毅然としたワクチン接種 要請が必要と考える。職員がワクチン接種を受けなかった場合、組織に与える 影響等を考えると、当該職員から、ワクチン接種は必要なものと理解している事及び消防本部から要請があったにも関わらずワクチン接種を受けない理由を記した文書の提出を求め保管されることをお勧めする
・ 上記②について ワクチン接種を受けていない消防職員に対して一定の制約を設ける事は当然であるが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を鑑みた合理的、妥当性 のある説明責任の果たせる事由がある事が必要不可欠である。
・ 上記③について 接種者と未接種者への対応には温度差が出て然るべきであるが、あくまでも 新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を鑑みた合理的、妥当性のある説明責 任の果たせる配置換えなどで、(これに反しても)職務命令違反には当たらな い。
・ 上記④について ワクチン接種を拒む消防職員に対しては、組織として毅然としたワクチン接種要請が必要であると考える

まあ、酷いものだ。本当に弁護士に聞いたのか、疑いたくなる。
その点について顧問弁護士は以下のように答えている。

ただし、顧問弁護士は、「作成された回答書を見たのは、令和5年になり、 報道で問題にされて以後であり、それまでは見ていない」、「回答書には幾つかの点において、適切でない表現が確かにある」「全体として個々の言い回しや表現に問題があるとしても、全体の趣旨としては私が回答した内容と大きな齟齬はないと理解している」と述べている(顧問弁護士証言)。

なんと、大きな齟齬はなかったらしい・・・・
でも、この弁護士の虚言が有難がられる空気が、当時はあったのだ。

5月 13 日には、「新型コロナウイルス感染症に伴うワクチン接種拒否者への 業務区別について」と題した通知が、消防長から各所属長に対してなされ、全消防職員に周知された(通知文書写し)。

この通知文書は、先に貼った画像のことである。

この点、A氏は、同文書の事を知り、「ワクチンを打たないと、このような目に遭う」と全職員に知らしめているものと受け止め、皆にワクチンを打つしかないと思わせてしまうのではないかと 思い、凄く申し訳なかったと述べている(A氏証言)。
(中略)
業務区分後の日常において、A氏は、昼食は自席で摂り、倉庫や車の鍵など が必要な時も、他の職員の居るスペースには入れない雰囲気があった。また、 今まで一緒に仕事をしていた所から突然隔離され、感染していないのに感染しているものとして扱う感じに受け取っていた。 その後は、「どうなるのか、どのようにされるのか」との不安がずっとあり、 決裁権や人事権を持つ者の意向に反している事で、「どんな酷い目に遭うか分からない」「自分だけではなく周囲にどのような被害が及ぶか」という強い恐怖感を抱いていた(A氏証言)。

こんな時代錯誤も甚だしい行いが、つい数年前に為されていた。このことは記憶されておくべきだろう。

この件について報告書は以下のように最終総括している。

 この一連の本消防本部の対応は、依然として猛威を振るう未知のウイルスという一 般的な捉え方を鵜呑みにし、本消防本部のトップとして当時の甲賀市民約 90,000 人、 湖南市民約 55,000 人の命と財産を守るという使命から、「クラスターを出すことは許されない」という事への不安や恐怖、世間やメディアからの批判等への対応など、かなりの重圧があったものと推察される。
 しかしながら、消防本部が行った当該職員を好奇の目にさらすような尋常ではない 措置を講じることが正当化されるものではない。消防長やごく一部の幹部職員のみが判断するのではなく、他の消防本部、医療機関、甲賀広域行政組合正副管理者など様々なところから情報収集等を行い、組織として判断していたならば結果は違っていたかもしれないと考える。
 本件が生じた原因は、消防長の意向を忖度する上意下達的な組織文化の中、職員からも様々な意見や課題、改善策を募るなど広く協議等を行う仕組みが出来ていなかったことにある。

その後は、特定職員のパワハラの実態に対する報告が続いていた。
パワハラを肯定する気は微塵もないが、まるで今回のワクハラの原因を個人の性格と組織風土だけに押し付けているかのようにも思えた。
まあ特定組織の問題に対する報告書なんだから、それでいいのだが。

でも、引用した「最終総括」の後半に示されているように、果たして誰か他の機関に聞いていたら、組織全体で考えていたら、この事象は防げたのだろうか?
パワハラ気質の職員がいなければ、このような事象は防げたのだろうか?
・・・私にはそうは思えない。
「『クラスターを出すことは許されない』という事への不安や恐怖、世間やメディアからの批判等への対応など、かなりの重圧があった」ことが根本的な原因なのだから。
大衆の作り出す大きなうねりに抗うことは、凡人には難しい。あの数年間で多くの人が身をもって経験したはずだ。
つまり、A氏を追い込んだのは、ほかならぬ我々「一般市民」である。この視点を忘れてはならない。



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