30歳差。『急性B型大動脈解離』退院、減塩生活スタート。
遂に夫の退院日がやってきた。
軽い足取りで病院に着く。
毎日補充される衛生品がかなり余ったようで、持ち帰り用のリュックがパンパンになった。
夫の顔色は良さそうだ。
しかし、その一歩一歩はゆっくりだ。
リハビリとして散歩を続けていたとはいえ、長距離を歩くのはまだ負担のようだった。
会計を済ませ、車に乗り込む。
病院の外観を初めて目にする夫。
「よく無事に退院できた」と、感慨深いようだった。
その足で大型スーパーへ向かう。
そのまま帰り休息をとった方がいいように思えたが、長い監禁生活を終えた夫は“人の息遣い”を感じたいようだった。
スーパーに到着し買い物を続けたが、やはり、しばらくすると「疲れてきた」と言う。
早々にレジを済ませ、帰宅の途に着いた。
運転をしながら、この後の生活への不安が頭をよぎる。
目に入る全ての光景が、今までとは違って見えるようだった。
17日ぶりの帰宅である。
夫がそこにいるだけで、寒々しかったリビングに照明(ひ)が灯ったようだ。
これから、夫はさまざまな事務処理を済ましていく必要がある。
職場復帰に関しても心が急くようだ。
ひとまずこの日は電話連絡をするだけで、日常生活にまだ慣れない身体を休めた。
私は、食生活のプランを立てなければならない。
血圧が上がらないようにするために、予後の栄養管理は必須なのである。
成人が摂取している塩分量の平均値は、男女ともに一日10g前後と言われている。
夫も普段は濃い目の味付けが好きなので、その程度は摂取していたかもしれない。
この年の健康診断では「血圧がやや高く、要経過観察」だった。
“少し高い”くらいだったので減塩はあまり意識していなかったのだが、今後は『一日6g以内』に収める必要がある。
今までほとんど手に取ったことのない、減塩をテーマにしたレシピ本、高血圧対策の医療本などを買い漁った。
我が家の食生活に取り入れやすそうな栄養学をノートにまとめた。
その都度ネットで調べたり、本をめくるよりは実践につながりやすいので、とことん頭に叩き込むようにしたのである。
私は料理が好きだ。
各国の食事が作れるように、常にさまざまな調味料をストックしている。
考えていたよりもそれぞれの塩分が高いため、使い切ることは到底できなさそうだ。特にウェイパー、豆板醤、コチュジャンなど。
だが、既に開封しているものを捨てるのはもったいない。
大さじ小さじに対しての塩分量を表に書き写し、なるべく消化していくことにした。
『一日6g』の壁は厚い。
これから毎日のようにノートと計算機を片手にすることになろうとは、この時はまだ知るよしもなかった。
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