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30歳差。『急性B型大動脈解離』初期対応。

ベッドに仰向けに寝かされ、沢山の管に繋がれている夫。
顔色は優れないが、声は出るようだった。
緊急搬送されたときの様子を説明してくれた。

搬送時の様子は、こうだった。
『デスクワークをしている最中、前触れなく急に腰が痛み、その痛みが胸の方まで一気に駆け上がっていった。
動けないどころか声も出せないほどの強烈な痛みで、今までの人生で経験した痛みの中では一番のものだった。
机に顔をうずめ、5分ほどは何も話せず、力を振り絞って「救急車…」と周囲に訴えた。
職場は緊急対応をする部署だったため、119番からのやり取りは大変スムーズだった。』

現場の緊急性を想像すると、胸が痛くなった。

その後、職場への連絡事項なども告げてきた。
病名からイメージするよりは元気そうだ。


ICUに移された後、隣接の家族ルームへと案内される。
ソファーは柔らかかったが、気持ちを落ち着けるはずがなかった。
再びスマホを取り出し、“大動脈解離”について検索する。
未来をすべて失ってしまったような絶望感しかない。

居ても立っても居られないが大人しく待っていると、担当の看護師が部屋に入ってきた。
濃い目のアイラインで少し気が強そうだが、嘘偽りなく話せそうだ。

緊急入院するそうなので、手続き等の説明を受けた。
「心配ですよね」とう声に、感情が溢れてくる。

不妊治療をしていること、もう少しで人工授精の結果が出ること、成功していても、夫を失ってしまったら?今回失敗してしまった場合、夫の子は遺せないなど、不安ばかりがよぎり、次々と看護師に打ち明けた。

「精子凍結はしていないんですか?」と聞かれた。
専門医が組み立てる順番通りに進めており、突然の病のことなどあらかじめ考えているはずもない。
安心材料のためにも凍結しておけば良かった、と後悔が胸をよぎる。

同意書へのサインも終え、しばらくは夫がいるICUの近くにいたかったが、できることは何もない。
看護師にも促され、重い足で帰宅の途に着いた。

車を運転しながら、ハンズフリーで私の母に電話する。
取り乱している私を心配し、翌日には地元から駆けつけてくれるとのこと。

家に到着した後いの一番に、前妻との子供にメッセージを送った。
すぐに反応がきた。予期せぬ出来事に彼女も驚いている。

電話で話そうとなり、そこから1時間も2時間も会話が続いた。
ほとんど初めての会話のきっかけが夫の緊急入院だが、あらゆることを共有することができた。


夫のいない闇夜。
家中が、静寂に包まれているように感じた。




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