30歳差。流産摘出手術。
稽留流産との診断を受けた後、どのようにして家まで帰れたのか覚えていない。
夫も両親も哀しんでくれたが、不思議とすぐには涙が出てこなかった。
流産をした場合、亡くなった子が自然排出されるのを待つか、摘出手術をおこなうかの2択がある。
自然排出は、出血があってから遅くても1週間ほどで排出される。
手術は、いつ起こるか分からない排出を待たずに摘出できるので、私は悩まず手術を選択した。
どちらにせよ下腹部痛や出血は発生するだろうし、子が亡くなった状態でそのままお腹にいるのが“かわいそう”に思えたからだ。
診断から4日後に手術の予約が取れた。
両親も地元からかけつけてくれ、夫と一緒にクリニックの個室まで付き添ってくれた。
前処置として子宮口を広げておくのだが、思った以上に激痛だった。
長年のSMプレイで痛みに慣れているはずの私でさえ、声が出てしまうほどだった。
オペ室では静脈麻酔を打ち、朦朧とした意識の中で摘出がおこなわれた。
金属のカランッという音。
それまでも何度か手術を受けてきたが、一番リアルで冷たい音に聞こえた。
個室で1時間半ほど休んだが、麻酔の効果は中々切れない。
よちよちと歩ける状態までには落ち着いてきたため、自宅で回復を待とうとクリニックを後にした。
夫や母に両腕を支えてもらいながら車に乗り込んだが、痛みがぶりかえし居てもたってもいられない。
自宅マンションのロビーから家まで少し距離があるのだが、麻酔によるふらつきもあり、3歩進んではしゃがみ込みを繰り返してようやくたどり着いた。
パジャマに着替えようとしたが、全く力が入らない。
母に手伝ってもらい、ようやく脱ぎ着することができた。
トイレでは、特大の生理用ナプキンを何とか自力で取り換えた。
ドボドボと溢れてくる血。
同時に吐き気をもよおし、嘔吐し続けた。
とは言え空腹状態だったので、胃液が出るだけ。ゲーゲーと響き渡る声に、オロオロする夫。
どうやら私は麻酔がよく効く体質で、副作用も大きいようだった。
ロキソニンの効きも悪い。
ベッドで横になる私を両親はしばらく見守り、仕事の都合もあったので夕方には帰っていった。
断続的に繰り返す痛みに耐えながら、夫の腕の中でその夜は眠りについた。
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