岡井隆

佐藤弓生の「近・現代詩おぼえがき」第9回:岡井隆詩集『限られた時のための四十四の機会詩 他』評

第一詩集『月の光』における「定域詩」に続き、第二詩集に当たる本書では、ソネット(原義とは厳密には異なるが、一篇十四行を条件とする)が主たるスタイルとして選ばれ、枠組みを設定したうえで枠組みにアレンジをほどこしてゆく手業を見せる。なお『岡井隆の現代詩入門』(思潮社)に、「立原道造の詩と初めて出会った時に、一四行詩の構造的な美しさ、読み終った時の完結のよろこびを知った」とある。

収載作「四十四の機会詩」はタイトル通り機会詩であることをルールに、二〇〇七年八月十六日~九月十五日という区切りの中で書き継がれた。スタイルとルールの重視は歌人には基本姿勢といえるが、自由詩と呼ばれる多行詩も本来、作品一篇ごとに固有の韻律を用意されるべき詩型であろう。ソネットの考察と実践は、多行詩のそうしたあり方を可視的にする。

あれつ やめた
うらやましいぜ
わかるしな そりや
らら らくだしな
                   (「童謡」第一連)

語の間に一拍ずつおけば、四拍子×四行の歌になる。日付は安倍前首相辞任表明の翌日。かつてヨーロッパで各地の事件を伝えて回ったという吟遊詩人のように、著者は根本的に“時の旅人”体質なのだ、と思う。

刑徒には昔がない
熊を連れて歩くリスクが 今
明日を思はず 熊を意識して歩く
                   (「刑徒の日課」最終連)
二人つて危険だよと囁く声も
まして群をひきゐるなんて 愚かな君
秋めいた雲は群れてるやうで独り行くんだ
                   (「秋めいた雲」最終連)

初出:「短歌」2008年7月号

現代詩文庫200『岡井隆詩集』思潮社、2013年
http://www.shichosha.co.jp/newrelease/item_870.html


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