僕らはビートルズ
〈あらすじ〉
一九六六年夏 日本に四人の英国人 ビートルズがやって来る。
リヴァプールからロンドン ニューヨーク そして東京。
世界中に歓声と怒号を起こすリヴァプール訛りの四人組。
ジョン・レノン ポール・マッカートニー ジョージ・ハリソン リンゴ・スター
一九六六年 三月の日本 お転婆由美が突然言い出した。
「あたし、絶対ポールに会うんだから、絶対に会うの」
達郎は空を見上げ佳祐は笑いだす。
なんと今年六月ビートルズが日本にやって来ると言う。
あの武道館で演奏するんだって・・・
どうするんだ!達郎 佳祐
三人の奮闘記
本当に由美はポールに会えたのか?
由美は母親のつてを最大限利用してビートルズが宿泊するホテルの部屋を確保、達郎は父親の官僚としての特権を発揮させホテルまでの道路を何とか突破した。
さあ最後は佳祐の出番だぞ。
父親が経営する豆腐屋の危機を乗り越え厳重な警備をくぐり抜けて本当に四人に会ってみたい。はじめは無理だろうと思っていた佳祐もそんな希望を感じ始めた。
待ってろビートルズ。
佳祐・・・中学二年生 豆腐店の次男
達郎・・・高校一年生 父親は高級官僚
由美・・・高校一年生 有名ブティックの一人娘
佳祐の父親 豆腐屋
達郎の父親 某官僚
由美の母親 有名ブティック経営
××建設社社外最高顧問 五反田一郎
〈あたし、ポールに会いたいの、ほんとなんだから〉
「佳祐、豆腐の仕込み手伝ってよ。父ちゃん酔っぱらって寝ちゃったんだよ」
かあちゃんの呼ぶ声を聞かない様に佳祐は待ち合わせ場所の公園へ走り出す、母ちゃんの声を聞こえないふりをするのはホントいやなんだけど・・・。
名前は佳祐 中学二年生 今ハマってるスポーツは サッカーだ。
でもサッカーなんて日本じゃホント人気のないスポーツ、駒沢競技場にリーグの試合を見に行っても観客より選手や関係者人数が多いくらいで、サッカー日本代表がメキシコオリンピックに出るなんて誰も思っていないけど・・・佳祐は思っている。日本代表の釜本が宮本がメキシコで奇跡を起こしてくれることを本当に願ってるんだ。サッカーは世界中で一番競技人口が多いスポーツでイギリスをはじめとするヨーロッパやブラジルやアルゼンチンがある南米はもちろん、アフリカらアジアでも急速に広がり始めている、ボール一個あれば何人もプレイできるのが強みだからね。でも日本代表チームが北朝鮮に勝てないのがほんとに癪だけど・・・
学校の野球部なんてまだうさぎ跳びなんて危ない練習をやっているし、野球部の奴らはほんとに水泳は筋肉を固くするから泳いじゃいけないなんて思ってる、ほんとバカばかり。
それに野球部の練習中は水を飲むことができない、真夏の練習でも水分補給無し!!!だから野球部の連中は練習中ヒイヒイ言って苦しんでるのが可哀そう。
その点僕が通ってる学校のサッカー部は練習中の水分補給あり、うさぎ跳び禁止、練習中に30分休憩もあって練習に集中出来る、土日に練習には友達の父兄が梅干し、レモンの砂糖漬けなんか持ってきてくれるんだから。カガク的なんだよサッカー部は・・・
いつもの公園の隅っこで一人リフティングしていると達郎が何か歌いながらやって来て、いつもの調子でこう言った。
「ケイスケ。まだボール遊びなんかやってるのか?」
「いいじゃん、サッカー好きなんだから」
「日本人にはサッカーなんて無理だよ。足短いし」
「メキシコオリンピックで優勝するから見てて。」
「お前って本当にバカだね。夢なら叶えられる夢を見なよ。日本がオリンピックのサッカーで勝つなんて」
「ワールドカップは無理だけどオリンピックは勝つよ」
「気楽だね~」
二人で話していると俯きながら由美が公園の入り口を入って佳祐と達郎の前に現れた。
普段とは違うみたい、ベンチに腰かけて僕らを観ない様にしてるみたいで、左右に振ったり遠くを見つめたりしていつもと違って黙っているので二人顔をも見合わせていると、突然サッカーの話を遮るようにと突然立ち上がって言い出した。
「あたし、ポールに会いたい。絶対会うんだから」
「ポールって誰? ポール牧?」と、僕が聞くと
「ふざけてんの、貴方知らないの。ビートルズのポール・マッカートニーを」
達郎が教えてくれた、六月にビートルズが来ることを、武道館で演奏会開くらしい。
世間じゃどんな人が武道館へ行けるのか・・・が広まっている、日本人は英語が分からないから日本に来てもお客さん入らないんじゃないかと佳祐は思っている。噂は聞いていたけどホントに来るんだ、由美の話では 確実っていうんだ。達郎が言うにはまだ本決まりではないけど、Y新聞社の偉い人が進めているみたい、この辺が官僚を父親に持つ強みだ、いろいろ情報が父親に入るらしい、いいなぁ、父親が豆腐屋じゃなくて。
♪ミスタームーンライト~~
佳祐が唯一知っているビートルズのメロディーを口ずさむと由美が
「その歌はレノン&マッカートニーの作った歌じゃないから」と怒るように言ってきた。
「そんな事も知らないの。将来あなたは一生豆腐屋だね、お兄さんは頭いいから豆腐屋なんか継がないと思うし。せいぜいあんたが美味しい豆腐でも作ってね」
「ビートルズの歌はほとんどレノンとポールが作ってるの。多くのビートルズの曲はレノンが作詞、作曲しても、ポールが作詞、作曲してもその曲はレノン&マッカートニーの作詞・作曲になるの。本当はね、ポールは少し不満なのよね。マッカートニー&レノンにして欲しいから。でもレノンがビートルズに入れてくれたから我慢しているらしい・・・レノンは気に障ること言うけど年上だし」
佳祐の兄は国立、T大一本で大学受験するらしい、高校の先生は絶対現役合格すると言いてるらしいけど、ほんとは家業を継げない事に少し後ろめたさを感じているらしいのを佳祐にはなんとなく分っている、だから兄さんは豆腐の仕込みを時間がある限り手伝うと思ってる。
母親にはイヤイヤ手伝ってると言いながら、ほんとは僕にすまないと思ってるんだ、きっと。
いいんだよ、兄さん。僕サッカー選手になれなかったら豆腐屋継ぐから。
その兄が小学六年生の時、由美は五年生、二人で放送研究会の役員、兄さんが会長、副会長は由美の間柄だった。
二人は給食時由美が家から持ってきたレコードをかけたらしい、ホリーズとかビーチボーイズとか。ローリングストーンズやボブ・ディランかけた時はさすがに放送研究会の先生から怒られたみたいだけどね。
由美が言うにはビートルズが最高だって、
リンゴのドラムが少しずつ上手になるのがわかるんだから、って言うんだよね。
ビートルズの最初のシングルレコード録音の時リンゴがたたくドラムの音をプロデューサーが良く思わなくプロのドラマーに演奏してもらったんだって。リンゴは悔しかったと思うよ、でもくじけず必死になってタンバリンたたいたんだから、立派よね」って由美が納得する様にしゃべってきた。
一年ニ枚アルバムビートルズは、これって凄いのよ。
「なぜリンゴっていうかっ知ってるの?」由美が聞いた。
「まさかリンゴが好きなんじゃないの?」
「ほんとにあなた何も知らないのね。リンゴって日本語じゃないの!!リンゴはかわいそうなんだから、子供の頃から病弱で何年も入院してまともな仕事に就けなかったから見様見真似でドラマーになったのよ」
「それがリンゴにつながるの?」
「本名は何とかスターキー、だけどいつも指輪=リングいっぱいつけてからリング・スターそしてリンゴ・スターなんだよ!わかる?」
ビートルズの話をする由美の瞳が生き生きしていた。
「リンゴは二代目のビートルズのドラマーなんだよ。最初のドラマーはやめちゃったの、ほんとはやめさせられたっていう噂だけど…。黒い歴史だよね、ビートルズの」
それにビートルズの最初のメンバーは五人だったの、辞めたドラマーとベースを弾いていた人、そのメンバーが辞めたので仕方なくポールがベースを弾くことになったんだ、でもポールの左利き用ベースはあんまり売ってなったかもしれない。
ビートルズのメンバーになったポール、ポールの友達で何んとかメンバーになれたジョージ、
辞めさせられたドラマーの替りのメンバー リンゴ。
面白いのはポールがジョンからメンバーに誘われたのがおかしいのよ。わかる・・・
ポールはねギターの調弦ができたからなの、そのころジョンはギターの調弦できなかったのよ。それでバンドやるなんて度胸あるわよね。
最初のベース弾いた人はその後喧嘩で受けた怪我が原因で亡くなったの、ジョンの親友だったので涙が止まらなかったみたい」
ビートルズいや音楽にやけに詳しい由美の家は何とかという有名な洋服屋、由美はプレタポルテとか言ってるけど。その発音も何となく日本人離れ。でもホントの発音知らない人が多いんがけどね、由美には秘密だけど。
そんな訳で中学からは私立のお嬢様学校で勉強しなくても大学まで行けるらしい。普通お嬢様は大人しいって言われるけど由美は違うん。
「レノンとマッカトニーってすごいのよ、歌詞もメロディーも震えるくらい」
由美が言うにはビートルズの演奏や映画を見てワアーワアー騒ぐけどあんなのはおバカなファン、演奏が聞こえないほど騒ぐのは頭悪いんじゃないって。
今度は少し落ちついた様で、普段の由美とは違い下を見つめ
「あたし、ポールに会いたい。絶対会うんだから」
ビートルズに会うなんて無理。絶対に絶対に無理だよ。機動隊がホテルとか武道館警備するんだから。
達郎が小声で言うと
「ポールに会えないなら死んじゃうから、お願い会わせて、お願い」
泣きそうな由美、僕と達郎はどうしていいか分からなくなって俯むくだけだった。
「三人じゃ無理だよ」僕が下を向きながら言ったら 達郎が言うんだ。一言
「面白そう 絶対面白いんだよね」 達朗おかしくなったんじゃない?
〈そして準備は始まった〉
サッカーの練習から帰ると母親が「一週間経ってからいつもの様に達郎から呼び出しが掛かった。
圭佑、達郎さんから電話があったよ。おいでって」
「達郎さん家に行ってもお茶菓子なんかガツガツ食べるんじゃないからね。大人しくするんだよ」って言うんだ。
「わかってるよ、じゃあ行ってくるね」
母親は達郎の家の行くと思ってるが、本当は三人だけが知ってる秘密基地に行くんだ、「おいで」は秘密基地の合言葉だから。
町内商店街のはずれにある長屋と資材置き場の行き止まりにある秘密基地,達郎と二人で作ったんだから。資材置場から材料を少し借りて壁や屋根を作り、少しぐらいの雨なんかは大丈夫。
くねくね曲がった路地の奥にあるので達郎が名付けた秘密基地「盲腸」
狭く暗いし匂いも少しあるので由美はあまり行きたがらない、でも由美はドライフラワーやキラキラした飾りなんか持ってくるの,由美が秘密基地から帰った後で達郎と二人で取るのが大変。
由美が持ってきたカーテンを開けると達郎と由美がひそひそひそひそ話をしていた、秘密基地なんだから普通に話せばいいのに。
「やあ、来たな」
由美は達郎の話を聞き目を伏せ、微笑むだけだけ。
「佳祐ビートルズがホントに日本に来るんだ、来月に正式に発表されると思うよ」
やっぱり本当なんだ。佳祐はビートルズなんか来なくていいよと言いたがったが、由美が怒ると思うから言わなかった。由美怒ると怖いから。
そして達郎がメモを見ながらビートルズの在日予定を教えてくれたのだ。
六月二十八日 (水)羽田空港着
永田町ヒルトンホテルへ
六月三十日 (木) 演奏会
武道館 一回目
七月一日 (金) 演奏会
武道館 二回目 三回目
七月二日 (土) 演奏会
武道館 四回目 五回目
七月三日 (日)羽田空港発
フィリッピンへ
新聞でも書いてないのにどうしてわかるんだよ。
羽田空港から永田町ヒルトンホテルへ行くのがすごいんだって。なんか道路封鎖というかビートルズを乗せた車と警察の車だけ走らせると。多分羽田空港からヒルトンホテルまでニ十分かからないかもって、達郎が驚いていた。宿泊は永田町は東京ヒルトンホテル、多分十階のスイートになるのではかと。さすがの達郎も何時何処で会えるかはまだ分からないと言う。
えーッ、達郎 本当に会いに行くんだ・・・
由美と二人で悪い企みしてたんだ、なんか気分悪い感じだけど。
由美ががこっちの目を見て諭すようにしゃべりだした。
ビートルズの演奏会は二時間だが前座が一時間半、ビートルズの演奏はなんと三十分、佳祐が普通逆じゃあないと言うと「ビートルズの演奏は一曲三分で十曲の三十分、マネージャーのブライアン・エプスタインが決めたのよ」と説明してくれた。
ブライアン・エプスタインがどうしてビートルズを見出したかも教えてくれた。
父親が経営するレコード店で彼が働いていると お客様から聞かれたんだ、
「ビートルズのレコードありませんか」って。
ブライアン・エプスタインが尋ねるとビートルズがドイツであるミュージシャンのバックで演奏したレコードがほしいとの事だった。奇跡だよね、そのビートルズは地元リバプールのバンドで、クラブで演奏してるんだら。
「由美あの事お願いできるか,ヒルトンホテルの十階に泊まれないとポールと会えないよ。
普通では予約できない、由美のお母さんは財界や政治家のお客様が多いよね。」
と達郎が言うと
「大物政治家の奥さんや女性国会議員がママのお友達にいるから、頼んでみるね。なんとかなると思うわ」
そんな言葉、終わらないうちに由美はメジャーを取り出し僕の肩や胴回りを図り出した。
黙っていると由美の手が佳祐の股間に
「由美がチンコ触った」
「違うでしょ。股下図らないと」
達郎が「ほら、佳祐大人しくしていなさい」
採寸が終わり由美が呟いた.「こんなに足が短いのにサッカーやるなんて。ベティーちゃんの脚のほうがきっと長いよ」
「うるさいな。ベティーちゃんって誰なの?」
「うちのダックスフンドのペティーちゃんよ、とってもかわいいんだから」
「やだやだ、こんな事言われて。ビートルズなんか関係ない、会えなくてもいいから」
そんなこと言ったら、達郎が
「佳祐、サッカー選手になるんだろう。高校はどこ希望なの?」
「A高校だよ」
「A高校は結構難しい高校だよ。圭佑、クラスでの成績何番ぐらい?」
「20番ぐらいかな。」
「20番ぐらいじゃT高校受からないよ。せめて10番以内。出来れば7番以内が安全」
「わかってるよ。勉強するから」
「A高校は運動や勉強に力を入れている公立高校。今の成績で合格出来るかな。圭佑言いたくないけど三年生になって塾や予備校に通える?」
「母親は塾や予備校のお金は無理だから自分で勉強して受かる高校に行きなさいって」
「A高校に受かりサッカー部に入部するのは佳祐の自由。サッカーで有名になれば社会人サッカーや、大学サッカー部からもお誘いが来るかもしれない」
達郎の高校では二年生までに高校三年間の授業を終え、三年生で大学受験の勉強だけをする予定だとか。本格的な受験勉強は来年からなので今年は少し余裕があると言う。
「A高校に受かるように勉強教えるから一緒にビートルズに会おうよ。圭佑がサッカーしているのは大事な事なんだよ。圭佑サッカーはどの国から生まれたんだ?」
「ビートルズはああ、同じイギリスだ」
ホテルの部屋には鍵がかかっているので中からドアを開けてもらうことが必要になるかも知れない。そんな時佳祐のサッカーが役立つと思うよ。
「それにブライアン・エプスタインは若い男の子が好きだからね」由美が僕の頭をなでながら言った。 <父さん、頑張ってる!> この頃、父さんがなんか変なんだ。豆腐の仕込みは全部自分でやるし、リアカーの町売りはなんか元気にやってる感じ。
母さんに聞いたけど最初は「うーん」っていうだけ。「どうしたの?」しつこく聞いたら「誰にもいうんじゃないよ」だって、近所の人は母さんの事なんて言ってるか知ってるのかな、白い拡声器って言ってるんだよ。
ある事ない事尾びれつけてお客さんに話すからだよ、知らないのは自分だけどね。
母さんが言うには・・・・
10日ぐらい前かな、圭佑が寝た後店のガラス戸をたたく音がしたんだ。誰かと思って覗くと愛想はいいけど目が笑っていな男性が「失礼します。こちらは○○豆腐屋さんですか?」ハイ、そうですと言うと「少しお時間ありますか?お願いがございます。」って言うんだよ。
ガラス戸を開けると別の長身白髪混じりの紳士が入ってきたんだ。
目が笑っていな男性は白髪混じりの紳士の秘書のようでガラス戸を開け紳士を店に入れ名刺を差仕出してくれた。
「××建設社社外最高顧問 五反田一郎」ってね、名刺に書いてあったんだ。
すぐ父さんを呼んでお茶を入れたんだよ。
その紳士が言うには私豆腐大好きですね。目が笑っていない秘書も母さんと父さんを代わる代わる見ながらお豆腐はいいですよね。美味しいし体にもいいしだって。
そうですね、なんて言ってたら突然「実は私は△△マーケットの新店舗建設調査をしてるんです」だって。実は町はずれの空き地にマーケットの建設について有識者からお話をお聞きしているんです。有識者ってうちの事?ただの豆腐屋だけどね。
思い出したんだ。あの話はほんとなんだ、半年ぐらい前お客様から聞いたことはあるんだよ。△△スーパーマーケットってのが、あの空き地にできるかもって。あんなところにできたら町内のお店は全部潰れてしまうから大変だよ。
そしたら父さんがそんなことになったら町内の商店会は反対運動に参加するっていうんだ、「母さんあの時は見直したんだよ、父さんを」
実は△△スーパーマーケットより調査依頼がありまして、△△マーケットは町内店舗様と共存共栄の精神でともに発展してゆきたいと私どもにお話がありました。
共存共栄の意味が分からない父さんがキョウゾンキョウエイ?って言うのでお互い仲良くやっていきましょうって言うことだよ、って教えたんだけど。
そんなこと言っても騙されないよ。って父さんが言うとその紳士が△△スーパーマーケットは違いますから。△△スーパーマーケットは地域の商店と共存共栄で発展していく事が使命ですから。父さんがさんが言うんだ。△△スーパーマーケットが近所にできたら商店街は全滅だよ、全部潰れちゃうから。
そんなことはありません、△△スーパーマーケットは地域の商店街と共存共ですよ、その紳士が言うんだよ。実は△△スーパーマーケットには地域商店育成プランがあります。賛成商店の皆様にご案内させていただいております。
???プラン、何って父さんが言うと、これは地域商店育成プランに賛成していただけるお店の方特別のプランです。父さんがだから何なの?と言うと
△△スーパーマーケット開店の際、地域商店育成プランにご賛成商店の商品を△△スーパーマーケットでお取り扱いさせていただくシステムでございます。
何なの、それって?父さんが聞くと
○○豆腐屋さんのお豆腐を△△スーパーマーケットで販売致します。これが地域商店育成プランです。地域商店と仲良く共存共栄の精神でお互い繁盛しましょうですね。
○○豆腐屋だけでなく町内のお茶屋さんや和菓子屋さんからも賛同を得ています。
私どもとしては多くの商店様からご参加いただく為にお話をお聞きしていていますので。
もし仮にうちの豆腐を△△スーパーマーケットで売るとして、一日どの位売れるでしょうかね。って父さんは聞いたら目が笑っていない秘書が平日は250丁、土日が500丁と調査結果が出ています。ゴヒャクチョウ!!! 父さんがお茶を噴き出していってしまった。ホントだらししないんだから、父さんは・・・
一日500丁ってとんでもない数。売れない季節一週間の豆腐が売れた数字と同じなんだからね。
ほんとに何回かあったんだ、おかずがお揚げの煮込みでごはんの代わりが白豆腐の夜が。
次の日サッカーしてるとお腹が空いて空いて、めまいがしそうだった。
ゴヒャクチョウ、ゴヒャクチョウ 湯吞みを見つめながらうわ言のようにつぶやく父さんを見て母さんは父さんの脇腹つねったんだって。
いかがですかね、ご主人様、ご賛同いただけるとうれしいのですけど。すぐにはお決めいただけないと存じますのでまた木曜日の夜に来ます。ご賛同いただける様にお願い致します。それから二、三日父さんと話したんだよ。父さんは決めたんだよ。地域商店育成プランに参加するって。数日後訪ねて来た××建設社社外最高顧問 五反田一郎さんが持ってきた書類に記名捺印、母さんは心配だけど父さんが決めたから。
「これは秘密にしてくださいね。私どもも誰にも話しませんから」五反田一郎さんが父さんを諭す様に念を押したという。
兄さんの大学の授業料の事もあるし、圭佑にも大学へ行かせたいからって。だから頑張ってるのよ。
<作戦会議パート1>
父さんが豆腐屋さん頑張てるのを見ていたら達郎から電話があり、いつもの隠れ家ではない達郎の家に集合との事。ここでまた母さんがうるさいんだから。
自転車を飛ばして達郎の家に行くと珍しく由美がいた、やっぱりあの隠れ家は女の子にはつらいんだね。雨も漏るし、風も入るし、一番きついのが匂い立って由美が言ったけど。
由美が兄さんの大学入学におめでとうって言いてくれた、もう一月経ってるけどこちらこそありがとう。
少したって達郎が資料を持ち込んでこれからの計画を話し始めた、噂でビートルズの来日公演の事で大変。中学生の自分にもなんとなく大変なことが起こってると感じてる。
由美が持ってきた「ミュージックライフ」にも記事が載っていて由美が本当に来るんだよね。なんだよ、自分がポールに会いたいって言うからこんな事になってるのに。もうふざけてるんだから。
突然由美がお兄さんの大学入学おめでとうって言ってきた、もう一月も経ってるのに、でもありがとうって言ったんだけど。
少し経って達郎が資料を持ってきて話を始めると、まだテレビにも新聞にも雑誌にも発表されていない事が達郎から話されてビートルズには詳しい由美が驚いて今まで見せたことない顔を見せたのがおもろしかった。
達郎が言うにはすごいのは羽田と東京ヒルトンホテルへの移動、東京ヒルトンホテルと武道館の移動はビートルズが車で移動している会うだハ道路閉鎖され一般車は走れないと言う。一般車は締め出されビートルズを乗せ彼らが乗るキャデラックが走り前後を黒い警察車両だけが警護すると言う。キャデラックなんかに乗ってはいけないと由美が口を尖らせに言った、やっぱりロールスロイスがビートルズに合うって。
キャデラックとロールスロイスの違いが判らない佳祐を由美が「豆腐屋じゃどちらも買えないからね」って言った。違うわい一日500丁売れればキャデラックでもロールスロイスでも買えるんだから。
次に達郎がビートルズに会えそうな日本人名を教えてくれた。
永島達司 ・・・共同企画設立者 日本公演を実現させた人
石坂範一郎・・・東芝音楽工業専務
高嶋弘之 ・・・東芝音楽工業ディレクター
E.H.エリック・・武道館公演司会者
加山雄三 ・・俳優/歌手
星加ルミ子 ・・ミュージックライフ編集長
宮川健二 ・・・テーラー山形屋社長
下山鉄三郎・・・日本ビートルズファンクラブ会長
原宿グリーンファンタジア<永島からメンバーへの歓迎のプレゼント>
みやげ物業者・・・日本土産を購入する為
由美が感心して言った「どうしてこんなに詳しくわかるのかな?」
滞在の5日間は忙しい日程になる忙しいだろうと達郎が言う。続けてジョン・レノンとポール・マッカートニー 二人の行動を押さえるのがいいと思うよ、とも言った。
ジョン・レノン 消極的 しかし計画的にホテルから抜け出す事あり
ポール・マッカートニー 明るく 行動的 無計画にホテルから抜け出す
二人とも海外公演の際ホテルから抜け出すことが多いと言われる
やっぱりビートルズに会える人ってこんな感じなんだ、由美が言った。
達郎 由美、頼んだ事だいじょぶかな?
由美 OK だよ。ママの友達に政治家の奥さんがいるから予約できたわよ。政治家って結構知られたくないことが沢山あるみたい。
佳祐 何がOKなの? ビートルズが宿泊する東京ヒルトンホテルは大変な警備がなされるけど、ホテルの最上階に泊まることが出来れば普通のホテルと同じ警備なんだから。
由美 ホテルの客に紛れ込めばなんとかなりそう?
達郎 そんなに易しくないけど
佳祐 由美はどのくらいビートルズが好きなの?
由美 好きは好きだけど,ビートルズって所詮子供なのよね。
佳祐 ビートルズってみんな年上だよね。
由美 貴方ってホントにバカよね。音楽がまだまだお子ちゃまって事 よ。
ビートルズやローリングストーンズはアメリカじゃプラスティックソウルって呼ばれてるの。まあ偽物って事かしら。
佳祐 フーン、プラスティックソウルか。それじゃ本物のソウルは?
由美 オーティス・レディングよ。彼がリアルソウルよ。
僕は言った。
「達郎は計画を立て由美はホテルを予約、でも僕は何もしていない。」
「ビートルズはイギリスの出身。イギリス発祥のスポーツはサッカー。佳祐の特技が必ず役に立つとき来る」
<兄さんと由美の事> 帰り道なぜ由美が突然兄さんの進学おめでとうって言ったか考えみた。
兄さんは由美と同じ小学校の二年先輩で放送研究会の会長と副会長の関係。由美は私立中学へ進学したので中学は別々になったけど。ずーっと気になっていたあの事を思い出した。
二年前の夏、朝眠れないでいると何か音が聞こえた、部屋がある二階から下を見たら女性が店の裏手から走っていく様子が見えたんだ。次の瞬間兄さんが店の裏の引き戸を開け、何か封筒のような物を取り出し二階の自分の部屋に静かに上がってきた。まさか兄さんにラブレターに手紙が届くなんて、でも女の人は母さんと同じか年上だと思うけど・・ 兄さんがあの人と文通? 兄さんどうしたの?
そのあと何回か朝に兄さんが階段をゆっくりゆっくり上って来るのを覚えてる。
その頃かな、兄さんの前で由美、由美というと「由美さんと言えよ!」怒るんだ、あの兄さんが。それでも止めないでいると兄さんが両手で体を抑え由美さんと言えよ!叫びながら畳に倒してきたでもサッカーで鍛えた体。兄さんの力ぐらいじゃホントは倒れなかったんでけど。
突然の行動にびっくりして天井を見つめていた。名門サッカー部や強いチームは反則ギリギリ反則のチャージがうまいんだから。審判の見ていないところでパンツ掴まれたり背中に肘うちなんか常識。なんで由美って言いっちゃいけないの。
しばらくしてサッカーの帰りあの女の人を見かけ、どこへ行くんだろって思いながら自転車でついていった、女の人が入った家はなんと由美のお屋敷だった。誰でも知ってるいわゆる豪邸で塀越しには家は見えない、裏通りにある豪邸のお勝手口に入ったのを見た、由美のお母さんとは違うし、由美には姉妹もいないと思うけど。なんであの人が由美の家に入ったんだ。そしたら勝手口の戸が開き、さっきの女の人がエプロンをして出てきたので今度も後をつけた、八百屋や肉屋で買い物をしてまた由美の家へ。
分かったあの人は由美の家のお手伝いさんなんだ、聞いたことがある由美の家にはお手伝いさんが三人いるって。
もしかしたら兄さんと由美は手紙のやり取りをしてるんじゃないかなと気が付いた、だから僕が由美って呼び捨てにするのが気に障ったのだろうか。
兄さん由美の事好きなのかな?
お金持ち令嬢の由美と付き合うのに豆腐屋の長男じゃ釣り合いがとれないから勉強して現役でT大に入ったんだろう。そうだ頑張ったんだね、兄さんすごいね。
<達郎から急な呼び出し 作戦会議パート2>
新学期が始まりドタバタしているといつもの様に達郎から呼び出しがあった、急いで家に来てくれって、達郎の部屋に入ると黒い服を着た外国の女性が。つま先まで届く長い衣装を着てベールを纏っていたので顔は分からなかったが、「何してるのよ、佳祐さん」外人風の日本語が聞こえ頭を叩かれた。「由美じゃないの?」そして部屋のドアが開き黒い衣装の男性が入ってきた。「あれ、達郎だよね」
「二人ともチンドン屋みたいな恰好してるの?」
「アラブの民族衣装をバカにすると日本に石油売ってくれないからね」由美の声が聞こえたと同時に佳祐もこの服に着替えろって達郎が白い服を渡してくれた、「由美、後ろを向いてて」渡された服に着替えたら達郎がピンク色をしたタオルを頭に被せ暗いわっかを載せ、そのうえサングラスを無理やりかけてくれた。
「いいか佳祐、お前はサウジアラビア王国第三夫人の皇太子だからね」
「じゃあ、達郎は」
「僕はそこに居られる王女様の秘書ですから」
「王女様って誰?」
「私が王女よ」由美がベールを取り諭す様に答えた。
「どうなってるの?」
達郎が詳しく説明してくれたのでやっと分かった。「でも僕は英語やサウジアラビア語なんかしゃべれないよどうするの?」
由美が教えてくれた「サウジアラビアはアラブ語よ、でも部族によって言葉は違うみたい
、圭佑は中学で習った英語を単語だけ喋りなさい。ボロださなでね」
「本題に入るよ」達郎が言う。
7月2日 東京ヒルトンホテル最上階に宿泊するサウジアラビア皇族の王女と皇太子
ビートルズの日本公演を見る為にわざわざお忍びで日本に来た事にするという。
「佳祐 お前は日本人顔だからホテルに入ったら必ずサングラスをするんだよ」
由美は 「その衣装だと足が短いの隠れるから安心だね」
達郎が真剣な顔をして言った。
「一週間から十日後にビートルズ日本公演の正式発表がある。公演の入場券は直接には販売されずY新聞へ往復手紙での申し込みそして抽選、それと同時に協賛企業への申し込みだけと言う。
「それにビートルズの演奏は一公演10曲 時間は30分。ファンが騒いでる間にすぐ終わってしまうよ」ビートルズにやけに詳しい由美が教えてくれた。たった30分のビートルズ、ファンは狂騒しテレビでは頭ぼさぼさコジキなんて言われ、右翼が武道館に乱入するかもしれない。もう音楽だけの問題では無くなってしまった。
達郎が声を低くして言った。
「ビートルズが生まれたのはリバプール。漁港として有名だが本当は奴隷貿易で有名なんだ。佳祐は奴隷貿易って知ってるかい?」
「知らない』
「奴隷貿易って現代の資本主義の原型なんだ、株とか保険なんて聞いた事あるだろ、佳祐も。奴隷貿易から発展して現在の資本主義になった。まず資本家から金を集め、銃、船、食料を買い船員を集めアフリカの対立する部族双方に銃を売りつけ、争いをけしかけ戦をさせる。そして戦に負け捕虜になった部族を奴隷としてイギリスにつれ帰った。銃を売った利益と奴隷売買の利益は莫大だった。これが近代西洋発展の基礎を作ったんだから」
暗い歴史を持つリバプールで生まれ自由と愛を歌う救世主ビートルズ。
どちらも大英帝国が母国。歴史の闇と光。
奴隷貿易や植民地のおかげで大英帝国は巨大になり闇は忘れされ、その大英帝国から勲章を授かったのがビートルズ、その勲章の威力か武道館公演が開催されるようになったのがビートルズ。そのビートルズ日本公演は、ブライアン・エプスタイン、協同企画の永島達司、Y新聞正力松太郎の努力もあるけどグレートブリテン「大英帝国」の陰に怯えてた日本という国があるんだよ。まだ第二次世界大戦の勝者国と敗戦国の図式がまだまだ残っているんだ、この日本には。
軽く息をして達郎が自分を諭す様にいった。
「羽田 ホテル 武道館 の移動は完全警備だから会えるなんてとっても無理。ホテルの最上階かポールがホテルを抜け出すのを狙って会えるかどうか?」達郎がホテルと武道館を描いた地図を見せてくれて言った。
「狙いは7月2日 武道館での最終演奏が終わってから翌3日の羽田から飛行機に乗るまで、多分2日夜9時にはホテルに戻って来るはずだから。ホテルと武道館の往復で外には出られない、だからビートルズと関係者がホットする時間ができると思う。その日以前の音楽関係者やお土産屋,日本人関係者に交じってポールとは会う事は難しいと思うんだ」
突然由美が言った。「あたし、ポールの赤ちゃん産みたいの」
達郎は膝から崩れ落ち、僕は兄さんの事かわいそうって思ってしまった。
〈ビートルズ日本公演、正式発表〉
正式発表から日本中がビートルズ、ビートルズとテレビで放送されない日は無く、新聞記事に載らない日は無い位だ。誰もが読売新聞へ往復はがきを出しまくり、必要もない歯磨き粉を買ってははがきに張り付け講演チケットを購入出来る様にポストに入れた。かつてビートルズ主演映画でスクリーンに映ったビートルズメンバーに触る行動位なら見逃せるが来日公演は節度を持って行えって,テレビや新聞が言ってる事位は佳祐にも分かる。
達郎が言っていた。
「音楽が産業になったんだ、日本でも。テレビが出来て映画産業が下火になり映画以外の儲かる産業を探していたらビートルズがイギリスからやってきたんだよ。それに映画ほど投資をしなくても儲かる産業だからね」
それにしても気になるのは兄さんの事だ。兄さんは由美の事好きだったんだと思う、手紙のやり取りはもうやっていないみたいで、大学には受かったけど由美は失った。
二兎追う者なんとやら・・・。大学の入学式も終わり豆腐屋の仕事は父さんが頑張ってるから心配ないよ。一日豆腐500個売れれば億万長者だから家の事心配しなくて大学に行ってよ。それに達郎と由美が言っていたのは、ビートルズってレコードデビューから二年足らずで世界のポップスの頂点に立ってしまった。エルビスやシナトラでも成し得なかった事だからそれが心配だと。二人の意見が同じことなんてめったにない事だから、いきなり頂上に登るのはいいことばかりじゃ無いからねって。
由美は言葉を選んでアメリカでのビートルズ人気はテレビで作られたんだから・・・、エド・サリバンショーに出演してからアメリカでの人気は本物になっていった。それまでアメリカではイギリスの音楽は成功しなかった、ビートルズ以前ではなかった現象だ。日本での武道館公演料金が安すぎると、これも目先の儲けより産業としてビートルズをとらえた現象と達郎が言うと由美も達郎の目を見て相づちを打った。
「本当にビートルズってなんだろね?」
突然達郎が話しかけてきたので「ビートルズってバンドでしょう。イギリスのGSだよね」
って答えると、
「それはそうだけど・・・パウロフォンのオーディションに受かって、最初のシングレコードを出し年間二枚のアルバムレコード、今やワールドコンサートツアーを開催。こんなバンドはアメリカにも無いから」
「由美が言ってたよ。自分たちで作詞、作曲してしまうバンドなんて無かったんだから。ジョンやポールの思いがストレートに伝わるんだよって」
「でもそれは、ビートルズは楽譜が読めなかったから、自分たちで楽器を弾きながら曲を作るしかなかったんだよ。ビートルズ最初のシングル Love me doはプロデューサー ジョージ・マーティンの録音予定楽曲を彼らが拒否、レノンとマッカートニーが作ったLove me doが代わりに録音されたんだ。ジョージ・マーティンが本気で売り出そうとすれば作詞家や作曲家の完成度の高い楽曲を録音させるはず、それをしなかったのはリバプールという田舎から来た四人組にあまり期待しなかったかもしれない」
「それに」由美がしゃべり始めた。
「でもビートルズは世界中の人気物になったけど、ジョージ・マーティンは失う物は無いってビートルズと契約したし、彼らの出身地は佳祐も知ってるリバプールだ。それが大事なんだよ。ビートルズの原点があるんだ、リバプールには」
「ビートルズってアメリカのポピュラー音楽が好きでバンド演奏してたんだよね」
「今日は達郎さんの家に泊まるでしょう。親に恥かかせる事なんかしないでね」
「そうだよ。半ドンだから学校からすぐに達郎さんちに行くから」と佳祐は朝食の支度をしている母親に答えた。
「この頃父さん元気無いね」と佳祐が言うと母さんが下を見ながら小声で佳祐に言った。
「あのスーパーマーケットの件で落ち込んでいるから。今まで反対派だった町内会の役員や商店会の顔役たちが急にスーパーマーケット賛成になったんだよ」
「父さんも賛成したんでしょう」
「でもね、話がややこしくなって。父さんやお茶屋さんが豆腐屋とお茶をスーパーマーケットで売る約束は抜け駆けだって言うんだよ、町内会の役員や商店会の顔役さんたちが」
「でも秘密だったんでしょう」
実は先週町内会総会があってね、母さんが話はじめた・・・
<涙の町内会総会>
「皆さん、そろいましたでしょうか?そろそろと町内会総会を始めたいと思いますけど、いいですか」町内会長のコバンザメたる眼鏡屋の店長がしゃべり始めた。
「今回の議題は△△スーパーマーケット出店に関してです。重要な議題ですのでご静粛におねがいします」
「それでは町内会会長 吉田小次郎から今までの経過報告やこれからの活動指針などご意見を賜りたいと思います」
「ご紹介にあずかりました町内会会長 吉田小次郎です」
まどろこっしい挨拶なのね、この人たちは・・・陰険無礼を隠しても隠れないってほんとに。町内会会長がいかにもって感じでしゃべり始めた。
「皆さん、本町に△△スーパーマーケット出店の噂があるのは既に御承知と思います。嘘かホントか町内を駆けまわっていました、でも結論が出ました。」
少しザワツキ出したのが眼鏡屋の店長が「静粛に・・・それでは会長どうぞ」
「先週ですね、△△スーパーマーケット社長秘書さんからどうしてもどうしてもお会いしたいと電話がありました、そこまで言われ会わないのは男じゃないと思い会ってきたのですよ、社長さんと。そこで町内空き地に弊社△△スーパーマーケットをぜひ出店させていただけますか?って」
「うすうす分かっていたけどやっぱりホントなんだって思ったのですよ」
どうする、ホントなんだ。しょうが無いよ、なこんな時代だから・・・
「本日総会開催にあたり△△スーパーマーケット社長秘書並び××建設社社外最高顧問 五反田一郎様をお呼びいたしましてご意見賜りたいと思います」
二人の慇懃無礼な挨拶が終わると眼鏡屋の店長が「このドサクサに自分だけ儲けた人がいるんですよ、ほんとに町内会の裏切り者です」
「それはお茶屋さん 和菓子屋さん それと豆腐屋さんです。これらの店は自分の店だけマーケットに出店して儲ける、それだけの為ほかの町内会にある店を裏切ったのです。卑怯者ですよ!まったく」
場内がざわめき、父さんが立ち上がりある人を指さしてしゃべりだした、
そこにいる××建設社社外最高顧問 五反田一郎さんと話し合って決めたんだよ、
マーケットと商店会の共存共栄で栄えるのがマーケット会社の理想だからさ・・・抜け駆けするなとか、泥棒なんて言われ父さん我慢したんだけど飛び出してしまったんだって。
あの××建設社社外最高顧問 五反田一郎さんってホントの人なの?」
「ホントの人なの?って」
「ホントに××建設社社外最高顧問の五反田一郎なのかな。今まで反対していた人が急に賛成、町内にスーパーマーケットができるには町の発展になるからって。父さん、夜お酒を飲みながら泣くんだよ」
佳祐が土曜日半ドンの授業が終わり由美の家、いやお屋敷に行くとお手伝いさんがやってきて
「こちらにお着換えください」と、例のアラブの民族衣装を差し出した。
佳祐は着替えられなくて少し困ったが、頭から被ったら何とか着替えられたが頭にかぶる布はどうしようもなかった。失礼しますと入ってきたお手伝いさんがターバンは由美さんがしましから大丈夫ですよと言ってくれたので少し安心した。
「お待たせ」って由美の声が聞こえたので振り向くと民族衣装を着た達郎と由美が入ってきて「どうよ」って由美が微笑みながら言ってきた。
「うーん。」と言うや否や由美が佳祐の頭に布をかぶせ、黒い輪を載せて来た。最後に両脇の布を輪の上に載せて「これでOK」なんか頭に載せてるのは帽子とは違う感じなんだ。
由美に促されながら明るく当然広い部屋に来ると、大きなガラス窓のそばに白いテーブルがあり佳祐が今まで見た事のない物があった。
下から大中小の可愛いお皿が並び見た事、食べた事のないケーキやパンが飾られていたので「由美、これ何?」って聞くと
「アフタヌーンティーよ、英国の貴婦人のたしなみよ」
椅子に座るとお手伝いさんがお茶を淹れてくれた、飲んでみるとすごく苦いので「これ何?」って聞くと「お茶よ、ダージリンって言うの」
「苦くて飲めないよ」
「わかりました、ミルク温めてくださいな」と由美はお手伝いさんに言った。佳祐が小さなサンドイッチやスコーン、ケーキを食べているとミルクをお手伝いさんがミルクを持ってきてくれた。でも「きゅうりのサンドイッチなんて」
そんなことを言うと由美は
「英国できゅうりはとても高価だったのよ、まあ昔の話だけど。英国の気候はとても寒いから昔きゅうりは育たなかったのよ。食べるにはきゅうりを育てる温室が必要なのね。ビニールなんかなったから当時では高価なガラス製よ、ガラス。家に温室を作れるには大変なお金が必要なんだからね、わかる?」
「家なんか母さんが苗買ってきて作るけど」
「貴婦人や資本家の奥さんがアフタヌーンティーでキュウリのサンドイッチを振舞うには一つのステータスかな」
佳祐には物足りない量だったのでサンドイッチやスコーンを由美が掛けてくれたポシェットに食べるふりをして詰め込んだ、そんなわけで小さなポシェットはパンパンになってしまったけど。
「それから」また由美が言い始めた。
「圭佑君に大切な事教えてあげます」
「なに?」
「ホテルに行った豚肉は絶対食べないでね」
「どうして?とんかつやカレーはダメなの?」
「サウジアラビアはイスラムが国の宗教だからね。イスラム教の人は豚肉絶対食べないから。その民族衣装着て豚肉たべたら大変なことになるんだからね」と達郎がおしえてくれた。
「カレーライス食べられないのか」と言うと、由美が「あんたんちカレーは豚肉なの?」
「そうだよ。豚肉とジャガイモ、それにニンジン、嫌いだけどカレーなら食べられる玉ねぎかな」
「カレーは英国式の牛肉でしょう。カレー食べる時はスプーンそれともホーク?」
「決まってんじゃん。カレーはスプーンで食べるよ」
「あのね、正式なルールではカレーは野菜料理だからホークで食べなきゃいけないのよ」
「無理、無理。ホークなんかじゃ食べられないから、カレーすくえないじゃないの」
〈七月二日(土)決行日〉
「そろそろ出かけようか」達郎が言うと「そうね」と由美が応えた。
もう後には戻れない、やるきゃない。佳祐はペナルティーキックに臨む感じに似てるなと思い心臓がドキドキして来た。ペナルティーキックはキッカーとゴールキーパーとの一対一の勝負だけど、本当はキーパーの方が気楽というか分がいい。ペナルティーキックは入れて当然と皆思ってるから、実際キックしてゴールするのは大変なんだ。ゴールの枠の中に入れるだけで必死なんだよ、キッカーはホントは。
ゴールの左、右に蹴るか、勇気をもってキーパーの居る真正面に蹴るか?
数秒で決心して、正確に蹴らないと決まらないからさ。キックしたボールがネットを揺らしゴールするのが当然と観客は見るけど、キーパーはボールを止めれば英雄、キッカーがゴールを外せば皆空ばかり見ている。言葉には出さないけどキッカーのバカとか阿保とか観客は絶対思ってると思うよ。
佳祐は足元を見て「あーァ、俺はキーパーなのかな?それともキッカーかな?」
玄関から出ると黒い車が止まっていて「あら由美さん、お出かけですか」どうやら由美の母親がお屋敷の奥から出てきたみたい。「はい、お母さま。ビートルズ武道館公演記念パーティーに行ってきます」
「ビートルズ?あのイギリスのボサボサ頭の四人組ね。頭はボサボサだけどスーツは一流ね。いいスタイリストさんがついてるわね」
「お母様、ビートルズはお嫌い?」
「シナトラとエルビスがいれば天国よ」どうやら由美の母親はシナトラやエルビスを観るためにハワイやラスベガスに出かけるらしい、世界的なデザイナーは違うんだね。
「この前なんてエルビスが汗を拭いたハンカチいただいたんだから」
由美の母親は由美や達郎の民族衣装を見るとこう言った。
「由美さん、その衣装はシルクですよね」
「はい、お母さま。国産の最上級シルクです」
「世界中から日本のシルクを求めて日本にいらっしゃるのよ。日本人が日本のシルクを着ないと笑われますから」
そうしていると黒い車にフランス製と言われるバッグが車のトランクに積まれお手伝いさんたちが一列に整列、由美の母親が行ってらっしゃいと言うと並んだお手伝いさんたちがおじぎをしてくれた。
なんか本当に王子様になったみたいだ。
僕らを乗せた黒い車は、左ハンドルなので前列左に運転手さん、右の助手席には達郎。後列運転手さんの後ろに由美、達郎の後ろに佳祐が座った。
革の香りのする車でお出かけ、普段自転車で走り友達と歩く道路も違って見える街角、こんな車の中にアラブの民族衣装を着た三人がいるんだ。あのビートルズに会いに行くんだ。
佳祐は気になってた事を、達郎に勇気を出してきてみた。
「逹瑯、もう受験だろう。僕の受験勉強の手伝いはいいよ、自分の受験勉強していいから」
「どうしたんだい、佳祐」
「逹瑯の邪魔はしたくないから」
「心配しなくていいんだよ、もう高校三年間のカリキュラムは終わっているから、あとは受験大学の試験勉強だけでいいんだ。佳祐を希望高校に行かせる位出来るからね」
「ありがとう」と言った後、佳祐は母親が言った言葉を思い出した。
達郎の父親は何とか省に勤める官僚だけど、本当は商社に勤めたかったんだって。商社の内定が出た後、ある省庁の試験に合格し入省したという。
達郎の祖父が商社より官僚になりなさいと勧めたので、父親は商社を断念し官僚になったという。
最後に佳祐の母親が東大出ではないので偉くなれないかもしれないって言ってたのを思い出した。
自分の志を断念した無念を一切口にせず、達郎の希望を叶える事ってなんかいいな。
そんな事考えていたら街並みが変わってホントの東京になっていた、車道を走る車から街を見るなんてみんなと一緒にバスに乗って社会科見学で国会議事堂に一度行った時以来だからな。その時はみんなとワイワイ言いながら騒いでいたのであまり外は見ていなかったなあ。
由美が「あたしポールに逢いたい」から始まったこの作戦、由美の我儘は分かるけど、達郎がなぜこんなバカな事するのか佳祐には不思議だった。
ビートルズの来日は台風のおかげで六月三十日になったけど、武道館公演は予定通りに行われた。武道の聖地、武道館でエレキギターが鳴らされるなんて二年前ではとても考えられなかった、ヘーシングに敗れたその地で、訳の分からない英国の不良四人組の楽隊が演奏するなんてとんでもないって騒ぐ人も多いんだから。
やがて神社が見え始め信号の先は警官が封鎖していたが、由美の母親の黒い車の運転手はスピードを緩める事無く近づき警官の合図に従い、車を警官の前で止めた。
ホテルに着く前に計画はダメになってしまうのかな?佳祐は緊張したが、なぜかポシェットに触り、あのサンドイッチが気になっていた。
<作戦決行日 後戻りは出来ない>
警官が敬礼をしてから話しかけたので、運転所さんがスイッチを押すと、車の窓ガラスが音もなく下がった。すると警官は「どちらへ行かれますか?」
「東京ヒルトンホテルです」と運転手さんは答えた。
「東京ヒルトンホテルへの道路は現在規制されております。よろしければパスポートを提示して頂けますか?」と優しいけれど後部座席の僕と由美を見て威厳をもって問いただす様に言った。すると運転手さんは
「後部座席の方はサウジアラビア王族の方です。国王第三夫人の王子、王女様です。助手席の方は同じ王族の出身で筆頭秘書官になります」
「そうですかそれではパスポートを提示してください」
「あなたの役職は?」と運転手さんが言うと
「それは関係ないでしょう」と、警察官が少し声を荒げ言う。運転手さんがフロントガラスを見つめ「私は外務省中近東担当主査○○です。こちらの方がたはパスポートを通常携帯しておりません、これは日本だけでなく世界中で同様になされております。パスポートは領事館で保管されております、東京ヒルトンホテルへ通行許可出来ない場合本当に外交問題になりますよ。王室一家を移動制限されますと私も叱責を負いますが、貴方と上司も職務上の責任が生じます」
すると警官は無線で上司に連絡を取ってこう言った。
「運転手さん、あなたの身分証明書はお持ちですか?」
「これです」と言って運転手さんが革の手帳を開き警官に差し出した。
すると状況を無線で連絡し、しばらくして少し口元が緩むようにこう言った。
「わかりました、どうぞお通りください」と同時に警官は封鎖を解くように部下に命じた。
車の窓ガラスが静かに閉まると同時に車は走り出す、由美は運転手さんを見つめていたが達郎は当然の事の様であると納得している様であった。
六時を過ぎてもあたりはまだ明るく、本当にここは東京なのかと思うくらい静か、でも車の内のほうが静かなくらいかもしれない。
「もう少しでホテルに着くわ」由美が呟くように言うと達郎も頷き運転手さんを一瞬見つめ、ビートルズが停泊する十階あたりを見据えた。
しばらくしてホテルの敷地内に入りみんなが乗った車が止まると、ホテルの制服を着た人たちがお辞儀、運転手さんが車のトランクを開け制服ホテルマンがトランクからフランス製バッグをカートに乗せ始めると、由美が降りなさいと目で合図、続いて由美も降り達郎が僕と由美をホテル内に行かせようとすると、運転手さんが小声で「達郎、これを持って行きなさい」と何かを手渡し、それを受け取った達郎は二人だけで聞こえる様なか細い声「ありがとう、父さん」って言った様に聞こえた。
ホテル入口ドアが静かに開きアラブの王女様王子様、秘書そして不釣り合いなくらいのカートに乗ったトランクたち、三人が歩き始めると一階にいる人たちの視線が集まっている。
「佳祐、あんたの歩き方ペンギンみたいだよ」
自分でも歩き方が分からなくなってしまって何とかしようと思っていると今度は右手と右足、左足と左手が同に出てしまい、頭が真っ白になって息が荒くなってきた。
ホントどうしよう???
「止まりなさい」と小声で由美が言うのでハッとして立ち止まると、もう少しで由美を追い抜くとこだった。達郎がフロントで部屋の鍵を受け取りエレベーターまで誘導、由美と乗り込むと達郎が最後に乗りビートルズが泊まる十階のボタンをホテルマンがボタンを押し、エレベーター動き出すと佳祐はやっと自分が何をしているのか分かった。
二階三階四階とエレベーターが上がっていくのがやけに遅く感じ、このまま十階なんかにつかなければいいなって思ってしまった。
やがて音もなくドアは開き、エレベーターの前にはホテルマンと警備員が待ち構え、達郎が運転手さんから手渡れた物を「十階通行証です」といつもより低い声で警備員に差し出した。警備員がホテルマンに目で合図をすると、由美が先頭を歩きはじめその後を僕が続き達郎が最後を歩いて、少し離れたホテルマンがカートに乗せたバッグを二人で押すのだった。
絨毯の敷かれた通路を歩いているとサングラスを掛け黒いスーツを着た外人がドアの前に立っていて、そのドアこそ1005号室の入り口だ。ビートルズが泊っている部屋番号。十階通行証が無ければ上がってこられないプレデンシャルスイート1005号室。日本中いや世界中のビートルズファンが命と引き換えても入りたい部屋1005号室、その前をアラブの服を着て歩く三人組、黒いスーツを着た外国人が由美に微笑みかけたみたいだ。
佳祐と並んで歩く由美は一瞬顔をそちらに向けたが何もなかったように歩いた、たじろぐどころか女王様の様に気品高く見えたんだ。
1005号室前を通り過ぎてホテルマンが、あるドアの前に立ち止まり鍵を開け由美を招き入れてから僕と達郎も部屋に入れてくれ、ほとんどが由美の荷物になるカートに載せたバッグをクローゼットに仕舞終え、ホテルマンが達郎に鍵を渡し軽く会釈をして立ち去った。
部屋に入るや否や由美がソファーに崩れかける様に座り込んでしまった、息は荒く少し青ざめているかの様だった。由美もこんな風になるんだ、達郎は備え付けの水差しからコップへ水を入れ由美へ渡したと思うとコップの水を由美はすぐに飲みほした。
次に達郎は佳祐に水に入ったコップを渡してから、自分もコップの水を飲みほし、大きく息を吐いたのだった、達郎がこんなに息が荒くなる事は見たことなかった・・・
達郎も自分でコップに注いだ水を飲み干し息を荒くしながらこれからの行動を見据えているかのようだ。僕はポケットのサンドウィッチが気になって仕方ないけど・・・
「さあ佳祐、準備しよう」達郎の言葉にハッとして
荷物の中からサッカーボールを取りだすと空気ポンプを押してボールを膨らませると、なぜかリフティングをしてしまった。「準備はできたか?靴は脱ぐんだからね。いいね。」達郎の言葉に僕はなぜか落ち着き覚悟を決めたかの様で僕もやるんだと思う、そっとドアを開けると隙間から1005号室を見ると黒服の男が左右をキョロキョロ見ていてなんか疲れている様、チャンスかもしれない。
さあ仕事だと達郎に言われ佳祐は印をつけたバッグを開け中からサッカーボールと空気入れを取りだしボールに空気を入れ出した。いつもならいやな仕事だったが今日は違う、緊張と焦りからかうまく空気が入らない、焦ると空気入れの針がボールから抜けてしまう。
「佳祐、ゆっくり入れろよ」分かってるよと言って息を大きく吸う深呼吸の後はいつもの様にボールが膨らんできた、よかった・・・ほんと。
由美がゆっくりドアを開けボールを持つ佳祐が隙間からのぞき込むと1005号室の前に外人がいるのが見える、なんか体を動かしダンスを踊ってるみたいだ。今ビートルズは居ないからふざけてもいいんだよね。
「さあ、行ってくるんだ」達郎がゆっくり佳祐の肩を叩いた。
由美がドアをゆっくり開け左右を見渡し誰もいないが分かると腰を押してくれた、押してくれなかったらしゃがんでしまうところだったのだ、アラブの服のままボールを蹴るのは大変なんだから、練習で達郎に教わったとは違う、何が違うのか分からないが違うんだ。
ドアを閉める音が聞こえたのだろうか?1005号室の外人が僕を見つけ微笑みだしていた。
ボールを床に置き蹴りだし走ると、彼はオーと声を上げ手を振りカモン、カモンと言い出し始めた、こんなに早く彼が反応するなんて・・・
佳祐は少し焦ったが1005室の前を5メートルぐらい華麗なドリブルで通り抜け振り返って思い切って彼へパスを出してみた、そうたら彼はストップを決め、佳祐にパスを返して見せた、さすがグレートブリテン、うまいね。
そのまま通り抜けようとしたが、なんで…彼が佳祐の前に立ちはがってしまった、なんてことだ。あんな大きな外人がボビー・チャールトンのシュートを遮る敵のバックスの様に見えてきた。無理だよ・・・
しょうが無いやるか!! 少しドリブルし右左にフェイントを決め彼が大きく足を広げた瞬間佳祐は彼の股にボ―ルを通し、佳祐が左に走りボールをに追いついた、ヤッタ・・・
そしたらなんで?? 由美がドアから出てきていたんだ。それもアラブの服のままで両手でアラブの服をたくし上げあの外人の前の立ちふさがり、ドリブルする僕を通し外人が怯むと僕の後を追って達郎が開けたドアに走りこんだ。
「よくやった」 達郎の弾んだ声も聞こえないくらい息が切れ頭もくらくらしてしまった佳祐だった。
「よし、次はビートルズが帰ってくる時だ、本番だかね」
武道館での公演が終わり四人が返ってくる時が勝負だからね。あの由美が目を伏せうつむいてしまった、あの由美が。
1966年 7月2日土曜日 勝負の日
ビートルズが武道館から帰ってくるその時三人は・・・
夜の9時を過ぎるとホテルの入り口や駐車場に警察官や関係者が多くなるのが窓越しに見えてきた、4人の帰りももうすぐだ。
先導の白バイがまずホテルに入り続いてパトカーがヒルトンホテルに、黒く大きな自動車が続いた、あの車にビートルズの4人が乗っているんだと達郎が言った。ホントにビートルズの4人が帰ってきたんだ。佳祐はボーッと見ているだけだった。
佳祐はボビー・チャールトンのリバプールのユニホームを着ているのが信じられないように落ち着き、だけどボールを持っている自分がいることは確かだった。
やがてエレベーターのドアが開き2-3人の関係者の後ジョン、ポール、ジョージ最後にリンゴがホテルの通路を歩き始めた。武道館最後の演奏が終わり明日はフィリピンへの飛行機に乗る予定、少し疲れているのだろうか、4人は何もしゃべらず静かに歩いていた。
1005室の前に来るとあの佳祐にパスを出した外人がドアを開け関係者やビートルズの四人を迎え入れ関係者と思われる英国人はドアを閉めて出て行ってもあの外人はまだドアの前に立っているのだった。ラーッキーだと達郎が呟いた。メンバーがシャワーを浴びタバコを吸う30分後に作戦開始だからねと、達郎が呟く、佳祐も由美も静かに息を殺し待つだけだ。
さあ時間だ
その言葉にボビー・チャールトン10番のユニホームを着た佳祐はシュートだとゴールを見つめる様にドアを少し開けてから1005室を見つめゆっくりボールを蹴りだし、右足左足とボールを蹴りあの外人の前2-3メートル前に来るとヘイボーイと声を出し由美がドアから走ってきた。その格好ときたら膝上30Cmはあるのかしら、とんでもなく短いスカートを身に着け髪は後ろをリボンで結び歩きにくそうな高いヒールの靴を履いて来た、走り難そうだったけど・・・
由美の後をアラブの服装を着た達郎がオロオロしながら歩いてきたのだった。
1005室にはビートルズの3人しかいないのだ、部屋に入る最後のチャンスだ、頑張るんだ佳祐。
ドリブルする佳祐、ミニスカートの由美、アラブの服装の達郎 こんな3人がやってくるとはあの外人も予測できないよね。おどおどして訳が分からなくなってドアから少し離れた瞬間佳祐はドアにボールをぶつけんだ、由美はなんか英語でドアの前で喋りだした。佳祐は数度ドアにボールをぶつけたあと、ボールを蹴ろうとした瞬間ドアが開きあのリンゴが顔を出し、左右を見渡し瞬間由美が駆け寄りリンゴに抱き着いた。それを見たドアの前の外人が由美をリンゴから離そうとし、達郎と佳祐の二人でが三人を部屋の中に押し入れてしまった。
部屋に入った瞬間達郎が1005室のカギを閉めていたさすがだね,タツロー。
外人が達郎に何かしゃべっている間に由美は部屋をじっと見つめ奥の部屋のドアを開け中にいるジョン、ポール、ジョージを探し出して3人んを見つめると突然泣き出した。声は出さないが涙が止まらないようで体が震えているようだ。
ビートルズの3人は車座に座り煙草を回して吸っていたのだった。佳祐は思った。なんだタバコ吸ってるだけじゃない、なんで由美は泣くんだよ・・・
その時由美はポールの前に行き彼女の右手でポールのほほを殴ってしまった、あんなにポールに会いたがっていたのに、ポールの赤ちゃんを生むって言ってたのに。
泣きながら部屋を出てゆく由美を追いかけ佳祐と達郎も1005室を出て、自分たちの部屋に戻りソファーにうつぶせに泣き伏せる由美を見つめる二人だった。
しばらくして由美が言った。
「あいつが悪いのよ。ボブ・デュランが悪いのよ、デュランに会ったからいけないのよ」
達郎はなんでも知っているのに佳祐には何も教えてくれない、佳祐は何が起こったのか全然分からな。。
次の日朝 ビートルズが大きな車で出てゆくのを見届けた後ホテルに達郎の父さんが運転する車に三人は乗り込みヒルトンホテルを後にした。
もう由美は泣いていなかった。
プロローグ
達郎
当然の様にT大に現役合格。非常に優秀な成績で将来を嘱望されたが4年の夏休み後にT大を突然退学し、世界中を放浪いや旅に出た。僕と由美は何枚か絵葉書をもらったが数年前インドのインダス川で溺死した。
由美
美大に進んで母親の跡を継ぐかと思ったが、なぜか歌手になってしまった。深夜のラジオ番組に応募して作った歌がレコード会社に気に入られレコードを出したら売れてしまった。当時作詞作曲する女性歌手は珍しかったので最初の一枚は売れたんだけど。
佳祐
達郎のおかげで希望の高校に入学できサッカー部に入部。その後なんとか私立大学に入って当然サッカー部に、しかし同級生や先輩のプレーに追いつけず二軍と三軍を行き来する始末。試合に行ってもスタンドで応援するに疲れ退部。その後友人のアルバイト先の雑誌に「僕らはビートルズ」を執筆、その後ライターや漫画の原作者になる。
サッカーと同じで二流と三流を行き来するんだねと由美には笑われる、一発屋よりいいよと言い返すが。
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