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なんちゃって先生〜その3〜

 4回目の授業に行った時、高校生の教室の前を通りかかると懐かしいフレーズが聞こえてきた。

 「我は、此処(ここ)に集いたる人々の前に厳かに神に誓わん 
 わが生涯を清く過ごし わが任務(つとめ)を忠実に尽くさんこと  
 を・・・」

  これは、ナイチンゲール誓詞の冒頭部分。初めての病院実習に向かう前に行われる戴帽式では全文を暗唱をすることが伝統となっていた。もう何年も前から現場でナースキャップを被ることはないけれど、現在も式典では教員から一人一人にキャップを被せてもらっているらしい。合わせて行うキャンドルサービスには、ナイチンゲールがクリミア戦争の際、深夜にランプを持って患者さんを見回ったことからその灯を今受け継ぎ、看護の道への誇りと責任を自覚を持つという意味が込められている。
 
 看護師になる動機は人それぞれだけれど、セレモニーでは全ての学生が看護師を目指して学校に入学したあの日の気持ちに戻るのだ。ちなみに母校は高校に衛生看護科を設置しているので戴帽式は17歳、高校2年生の11月だった。年が明けると間もなく病院実習が始まった。初めてオペ室に入ったのも、出産に立ち会ったのも、そして人の死の瞬間に立ち会ったのも18歳だった。今思えば、結構過酷な高校生活だったなと思う。

 今、私が講義をしているのは専攻課程の1年生、つまり2年前に戴帽式を経て、昨年病院実習を終え、准看護師試験に合格してこの教室にいる。たった1年と数ヶ月で彼女達の顔は明らかに先ほど見かけた高校生とは違っている。

 今は18歳が成人になったけれど、法律が大人にしてくれる訳ではない。経験の一つ一つが彼女達を大人にしていくのだ。自分も通ってきた道とはいえ、なんだか切なくなってしまう。もうすこしゆっくり大人になっても良いんだよと言ってしまいたくなる。しかし、彼女たちは来年はまた病院実習に行き、国家試験を受け、20歳になるとすぐに現場に出るのだ。感傷に浸っている時間はない。残りあと4コマ!なんちゃって先生なりに、できる限りの事をしようと自分を奮い立たせた。

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※高校の衛生看護科を卒業すると、准看護師資格試験の受験資格が得られる。准看護師資格を取得後、さらに専攻課程で2年間履修すると看護師国家試験の受験資格が得られる。

 
 


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