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 自由自在

 小学校2年生の秋、私は神の手を獲得した!(と思った)

 小学校の頃に通っていた塾には、ドリルタイムというのがあった。塾で採用されていた教科書というか参考書の後ろについているドリル問題1ページを3分で解いていくというもの。
 よくあるのは先生の合図で一斉にスタートし、終わりも一斉ににというパターン。ところがその塾では自分のタイミングで砂時計をひっくり返してスタートさせ、終わりも自分で管理する。次のページにいくインターバルも自分で決めるというユニークな方法を採用していた。先生の見立てでは3分で解き終わる分量らしく、最初は慣れなくても回数を重ねると出来るようになるという仕組みだった(らしい)。
 ドリルタイム一回あたりの目標は4〜5ページが設定されていたので、順当にやれば20分もかからずに終わる計算だ。しかし、私だけが終わらない。30分経っても40分経っても終わらない。

    なぜなら「神の手」を持った選ばれし小学生だったからだ。

 砂時計はタイマーとは違い終わりを教えてくれないので、横目でチラチラ見ながらドリルを進める。ところが私は本番に弱く、特に時間に追われるのが苦手。半分以上砂が落ちているのに半分も問題が終わらないことが続いた。そんなある日、砂時計を途中でひっくり返したら砂が半分以上に戻ったではないか! 我ながら天才だと思った。
 そこからは、砂時計に加えて先生も横目で確認するというスキルを身につけ、いい具合にヒョイっと砂時計を途中ひっくり返し、3分でドリルを終えることができるようになった。
 がしかし、当たり前だがそんな小細工はすぐにバレた。先生は大爆笑してくれたが、神の手の封印を言い渡された。ところが私も易々と神の手を手放すことができず、しばし攻防戦が続いたのだが・・・ある日先生により砂時計に印をつけられてしまい、神の手は完全に封印されてしまった。

 親や先生の思惑とはかなり違う努力を重ねてしまったことで、勉強はいつまでたっても伸びずに現在に至る。しかし、そんな小細工を怒りもせず、終わらせることに執着した負けず嫌いの幼い私を認めてくれた塾の先生には感謝しかない。あの時身につけた図々しさと逞しさはしっかりと現在に活かされている。


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